夕暮れの黒鯱
タイトルを変えました。
頭目の男泣きから一夜が明けた。
昨夜は久方ぶりにまともな飯にありつけたという山賊達も、意気揚々と野営の片付けを手伝ってくれている。
俺はそれを眺めながら竜車の上で見張りの真似事をしていたのだが……何故か時折山賊達から俺へ、ギラッギラした目線が向けられるのを感じたのだが、多分気のせいじゃねぇよな…。
この目の感じ、男でもいいから惚れたとかか?気色悪ぃ。
裏切る心配が減るのは良いが、俺の尻が危険なのは如何なものか。
まあああして自発的に手伝ってくれちゃいるし、いいんだろうけど。
なんにせよ、力仕事が主な後片付けで俺が然程役に立つわけでもなし、マイロの現状をマイロ出身の奴に聞いてみるとしよう。
「おい、頭目。ちょっと話があんだけど」
「へい旦那!因みに俺ぁエドワードって名前でさぁ!」
誰もオメーの名前なんぞ聞いとらん。
頭目改めエドワードは、俺の呼び掛けに活き活きとした目で駆け寄ってきた。
完全にイヌと化したな、こいつ。便利だからいいけど。
「エドワード、片付けまで暫くかかるし、今のうちにマイロの海賊について教えてくれ」
「へい、お安い御用で。……因みに、旦那はどこまで掴んでらっしゃるんで?」
「元々マイロを拠点にしてた海賊を、新参者の海賊がちょっかい掛けて抗争に発展した事まではな。あと、どっちの陣営も差異はあれど、常人種を攫って血を飲んでる事ぐらいか」
「そこまで知っていやしたか…」
それなら話は早い、とエドワードは頷く。
「元々マイロに停泊していた方…『夕暮れの黒鯱』っていう海賊団なんですがね。そこの女船長は随分と気風の良い御仁でして、財は奪えど命は奪わないって信条を掲げた、所謂義賊って奴なんでさぁ」
それを皮切りに、エドワードは件の海賊団の事を話し始めた。
海賊団『夕暮れの黒鯱』とやらは、奴隷船や悪徳商人の商船を主に狙い、奴隷の解放や騙し取られた財宝を奪取することを生業としている。
そして略奪によって得た金は補給や宴と称してマイロを始めとした貧しい港町にばら撒いているらしい。
エドワードも何度か酒を奢ってもらったそうだ。
「そんで、その船長がこれがまたいい女なんでさぁ。常人種とか吸血種とか抜きにして、俺みたいなゴロツキにも別け隔てなく接してくれて。嬉しかったなぁ」
今の旦那みたいに、とエドワードはヘヘッと笑う。
俺ぁそんな高尚な理由でお前らに飯食わせたワケじゃねぇけどな。
……というか。
「お前、昨日は嬢たちをバケモンだなんだと言っといて、その女船長には肩持ってんのな」
「ちょ、旦那…それはその…言葉のアヤってやつで…」
俺が昨日のエドワードの発言を皮肉ってやると、エドワードはあたふたと取り繕う。
「冗談だ。お前や手下共が吸血種の女船長の人となりを知ってて、イマイチ乗り気になりきれなかったから、無理矢理鼓舞したってだけだろ?」
今にして思えば、あの時のエドワード達は恐怖心からではなく、どこかやりにくそうな表情で俺達と敵対するのを躊躇っていた様にも見える。
昨日の暴言も、世話になったという女船長と同じ吸血種を相手にするのに、引っ込みをつかなくさせる為だったのだろう。
「…すいやせん。あの時はろくなもんにありつけて無かったもんで」
俺がケタケタ笑うと、エドワードは申し訳なさ気に頭を下げた。
「んで、『夕暮れの黒鯱』とやらのお陰で、吸血種がマイロじゃ比較的受け入れられていたのは分かった。次に、抗争の発端となった新参者の海賊について教えてくれ」
「へい。…つっても、俺も詳しくは知りやせん。連中は突然現れて、問答無用で『夕暮れの黒鯱』を攻撃したんでさぁ」
話を聞くと、一ヶ月前の夜中に沖から真っ黒な船が現れて、なんの宣言も勧告も無く『夕暮れの黒鯱』の船を攻撃したとのこと。
遠目から見た者の話だと、魔法で灯された明かりの下では双方の船員達は手に紅い武器を持っていたとのこと。
武器は水晶の様に煌めく、血のように深い紅だったので敵方も吸血種だと分かったそうだ。
「それから何日か後でシエラさん…ああ、『夕暮れの黒鯱』の船長の事です、その人がマイロの冒険者ギルドにやって来て、『何人か血を飲ませて欲しい』って言って数人の冒険者を連れてったんです」
そこからはギンの私兵が調べた情報と変わらず、その女船長が率いる『夕暮れの黒鯱』は有志で吸血させてくれる者を募り、それに追従するように新参者の海賊達が強引に街の人間を攫うようになり、ミイラにしているとのこと。
このままだと泥沼化するのが目に見えていると判断した、エドワードを始めとする街の冒険者や住人達は、日が経つに連れて街から離れていくようになったらしい。
「俺が知ってるのはここまでです。…大した話も出来ませんで、すいやせん」
「いや、いい。今の話を聞けば、お前らも切羽詰まっていたってのは分かったからな」
新参者の海賊とやらが無作為に常人種を攫ってたんなら、明日は我が身と焦ってまともに調べられないと予想できる。
エドワードにフォローはしたが…一体どうしたもんか。
「…………おい」
「ああ?」
俺がマイロに着いてからの事を思案していると、キーシャが冷たい目で俺を睨んでいた。
………あれ?俺なんかした?
「力仕事で役立たずの貴様が手伝わないのは何も言わん。だが、そいつを手漉きにしていい理由はない」
あ、はい。そうですね。大事な労働力取ったら怒りますよね。
「いや、これは現地人にマイロの現状をだな…」
「………」
俺が必死に言い訳をするが、キーシャは聞く耳を持たずに剣呑な目で竜車の屋根に飛び乗ってきた。
「おいやめろ、拳をバキバキ鳴らすな。俺が悪か……ぎゃああああああああああ!!!!!」
「……だ、旦那、大丈夫ですかい?」
「ぐふっ…へ、平気平気…」
顔をボコボコに腫らせて手綱を握る俺を、エドワードが心配そうに労る。
野郎に労られても嬉しか無いが、少しだけ気が晴れた。
ガタゴトと竜車は山を下る。
そうして暫く足場の悪いあぜ道を進んでいると、木々の隙間から青い海と、そこに寄り添う大きな街が見えた。
「見えてきやしたね。あれが港町マイロですぜ」
「ほー…意外とデケェ街だな」
見た感じガルサには及ばないが、それでも十分大きな街と言えるだろう。
遠目から見た建ち並ぶ建造物は木造が多く、屋根の上には魚が日干しされているのが見える。
山の麓には畑が広がり、野菜や穀物も育てやすい気候の様だ。
「急ぐか。出来れば早めに件の海賊と接触したい」
「わかりやした…って、もう腫れが引いてる!?」
「そこに驚くのか?」
俺はトンチンカンな所に驚いているエドワードに呆れながら、ライドディノのスピードを少しだけ早めた。
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