VS山賊
ポーラスターのフィスト風の山賊。
またの名を世紀末。
ゲルドとキーシャが周囲の異常を捉えてから、俺以外の皆は戦闘準備に入る。
ゲルドは俺の側に立ち、弓を構えて前方への警戒。
キーシャとトゥゼン坊っちゃんが屋根の上で索敵。
竜車から降りたジャコとサーミャ某は竜車の左右で横からの襲撃に備える。
そしてアルカ嬢はソード・スレイヴの汎用性、攻撃範囲の広さから竜車の後ろで待機していた。
「さて。何が来るのやら」
んで、俺は初期位置から一切動くこと無く、御者台の上で手綱を握っている。
場合によっては逃走もやむ無し、襲撃者が手に余った時は迷わず逃げるためである。
「…来る。3時の方角だ、ジャクリーン」
「分かりました」
キーシャが鼻と耳でまだ見ぬ敵の接近を捉え、ジャコへ注意を促す。
ジャコは頷いて両手を傷つけ、血晶の短剣を両手に創りだして逆手に構えた。
他の皆も同様にそれぞれの血晶武器を創りだしてキーシャが示した方角を睨む。
がさり、と遠くで茂みが揺れた。
同時に、複数の足音と金属がこすれ合う音が聞こえてきた。
「……ヒャッハァァァァァ!!!!」
『アオォォォォォン!!!』
そんな馬鹿っぽい雄叫びを上げながら、複数の影が山道の脇から竜車の前後に飛び出してくる。
数は10、全員男。
粗雑な壊れかけの金属鎧を纏い、サビだらけの斧や段平を担いだ、どっからどう見ても山賊にしか見えない連中だ。
そいつらは馬ほどの大きさの巨大な狼の背に騎乗して俺達に立ちはだかる。
「ライドウルフか。こいつは面倒そうだ」
弓を構えたまま、ゲルドがぽつりと呟いた。
ライドウルフはライドディノと同じく人が飼い慣らせる魔物の一種で、ちゃんと育てれば忠誠心が高く、機動性や持久力もあるので騎馬の代わりに用いられる事もある。
特に足場の悪い山間部では馬や竜以上の機動性を発揮する事もあるくらいだ。
「ギャハハハ!随分と身なりの良さそうな連中じゃねぇか、こいつぁルァッキィィィ!」
頭目と思しき大男が、ボサボサの髭を揺らしてゲラゲラと笑う。
血走った目で竜車をギラギラ睨む様は、品性なんて欠片も持ち合わせてい無さそう。
「ひーふーみー…女が4人も居るじゃねぇか!今夜は楽しめそうだなオイ!」
「お頭、壊さねぇで下さいよ。ここ一年は女なんて触ったこともねぇんですから」
下衆な目で嬢たちを見る山賊たち。
……え、4人?
「旦那も頭数に入れられてるらしいな」
「オイオイ、ふざけんな」
野郎の相手なんて真っ平御免だっての。
「さーて、どいつから…あぁん?」
頭目が俺達を見定めていると、血晶武器に目が止まった。
どうやら嬢たちが吸血種だと気付いた様だ。
「お、お頭、こいつら吸血種ですぜ?」
「はっ!バケモノ風情が、人間様のフリしてるって連中じゃねぇか!男は全員ぶっ殺せ!女と金目の物は根こそぎ頂きだ!」
手下共は吸血種を見て動揺している様だが、ゲラゲラと笑って頭目が命令を下す。
「………チッ」
「あぁ?」
「………」
「やれやれ、困ったものですな」
「バケモノね。こういう人達を見てると、常人種とか、吸血種とか関係なしに虫酸が走るわ」
呆れ、怒り、悲哀。
キーシャ、トゥゼン、ジャコ、サーミャ、アルカ嬢は頭目の言葉にそれぞれ表情を崩した。
向かってくるライドウルフと山賊たち。
「かかってきなさい!」
「さて。少し躾が必要そうです」
ジャコは血晶の短剣を、サーミャ某は指の間に挟み込んだ投げナイフを構える。
「斉天大聖、貴様はジャクリーンの方だ!」
「分かってらぁ!」
キーシャとトゥゼンがそれぞれ左右に飛び降り、ジャコとサーミャの援護に当たる。
「……行くわよ!」
そしてアルカ嬢もソード・スレイヴを振り上げた。
「トゥゼン様!」
「よっしゃ!飛べぇっ!」
ジャコがジャンプしてトゥゼンの血晶棒の上に飛び乗り、トゥゼンはそのままジャコを上空へ打ち上げる。
「はぁっ!?なんだぁ!?曲芸でもしてるつもりかぁ!?」
山賊たちは、それに気を取られてジャコを見上げた。
「どこ見てやがる!」
しかし、それはトゥゼンの仕掛けた罠。
山賊たちの視線が上に向かっている隙に、素早く背後に回り込んで血晶棒をライドウルフの尻に叩きつけた。
『ぎゃうっ!?』
「なっ…うおお!?」
突然暴れだしたライドウルフに対応することが出来ずに慌て出す山賊たち。
「余所見厳禁ですよ!」
そこに、上空に打ち上げられたジャコが上から強襲。
次々と山賊たちの武器を血晶剣で叩き折った。
あまり知られていない話だが、血晶魔法で創り出す武器は並の武器防具など容易く破壊する強度と剛性を持っている。
故に山賊達が持っているサビの浮いた武器程度、壊せぬ道理は無い。
「なっ…このガキ!」
「ウラぁ!」
「ぎゃっ…!?」
武器を壊された山賊達はトゥゼンに殴り飛ばされ、そのまま気絶した。
「ヒャッハァァ!!可愛がってやるぜ子猫ちゃァァァん!」
「サーミャ・ピティア!奴らの足を止めろ!」
「かしこまりました」
キーシャが山賊共に突撃し、サーミャが血晶ナイフを次々と投げつけた。
「うおっ!?」
目の前の地面に大量の血晶ナイフが突き立てられ、山賊は思わずウルフを止める。
「隙あり、だ!」
「え、ぎゃぁ!?」
しかし対峙していたキーシャは足を止めておらず、そのまま跳躍して山賊の一人に膝で蹴り上げてウルフから叩き落とした。
「なん…ぶぅっ!?」
キーシャは蹴った反動を利用して跳び上がり、状況を読み取れず呆けていた1人の脳天に膝を叩き落とす。
「テメェっ!…うぎゃっ!?」
「!」
キーシャが着地した瞬間を狙って斧を振り上げた一人が悲鳴を上げて斧を取り落とす。
振り返ったキーシャの目に映っていたのは、山賊の手の甲に突き刺さった血晶ナイフ。
「要らぬ世話でしたかな?」
肩をすくめてモノクルをキラリと光らせるサーミャ・ピティア。
「足を止めるだけ良かったのだが、この場は礼を言う!」
「ガボッ!」
武器を失った山賊の顎を、キーシャの右足が打ちぬいた。
「ヒャッハー!そんなに剣を使えんなら、俺の剣も使ってくれやお嬢ちゃああん!」
「八本が十本や二十本になろうがかまわねーだろぉ?」
「っ!」
山賊たちの下衆な発言に、アルカは表情を歪ませる。
「ソード・スレイヴ!」
じゃらりと柄頭の鎖を鳴らしながら、ソード・スレイヴが飛んだ。
「ギャハハハ!そんなもん、わざわざ当たりに行くバカが居るかよぉ!」
しかし、山賊たちはそれをあっさりと躱してしまう。
「そう、じゃあこれはどう!?『蛇咬』!」
「何ぃ…!?」
じゃらん、とソード・スレイヴが動きを止め、八本全ての刀身が爆ぜ、血晶のワイヤーで連なった形態となった。
以前戦った蛇王達の蛇腹剣を模した形状のそれは、蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされ、山賊たちの動きを阻害する。
「な、なんだぁこいつは!?」
「からのっ、『収束』!」
その言葉と共に、剣を連ねていたワイヤーが一瞬で縮む。
「ぐえっ」「いぎっ」「ごぁっ」
ワイヤーに取り囲まれていた山賊たちはその縮んだワイヤーに巻き込まれ、一纏めに縛り上げられた。
「この前の戦いで、蛇王を拘束した応用よ。……って言っても、貴方達には関係ない話だったわね」
「ギャハハハ!うおらぁぁ!!」
「っとぉ!」
ぎんっ、と2つの刃が打ち合わさる。
「弓使いは近くで攻められりゃ、大したことねぇなぁ!」
「チッ!」
山賊の頭目の打ち下ろした段平を弓に取り付けられた刃で受け止めながら、ゲルドは舌打ちする。
アイツの弓は近距離に対応するために刃付きの改造されてるけど、アイツ自身の剣技自体は然程でもねぇんだよなぁ。
「でもまっ、俺の段平を何度も受けられるなんざ、弓使いにしとくにゃ惜しい腕だぜ、ハゲ野郎」
「誰がハゲだ!俺のは剃ってんだよ!」
「いやどっちも一緒だろ」
俺が御者台の上でそう突っ込むと「あんたは黙ってろ!」と一喝された。
へいへい、んじゃ俺は置物にでもなってますよっと。
「うらうらうらうらぁ!!」
「ぬぐっ、ちっ、おおっ!」
頭目の振り回す段平を凌ぎながら、ゲルドはなんとか距離を取ろうと後退する。
矢筒から矢を取り出して剛弓に番えて引き絞り、頭目の眉間目掛けて放った。
「おっとぉ!ギャハ、惜しかったな、弓使いぃ!」
「ちっ!」
咄嗟に頭目は段平の腹で受け止め、ゲルドは三度舌打ちする。
近づかれちゃ敵わんと、ゲルドは後退しながら立て続けに矢を放った。
「ギャハハハハハハ!!甘ぇー甘ぇー!そんな苦し紛れ、何度射ろうが無駄だぁっ!」
「さて、そいつは…」
次々と射って射って射抜きまくる。
一度射ってから次の矢を番えるまでの回転率は凄まじいが、矢の本数に限りがある時点で、ゲルドの矢を射を見切っている頭目に分がある。
程なくして矢筒に入っていた全ての矢を使い切った。
「ギャハッ!バカが、バカスカ射まくるからだ!」
「…!」
矢を失った弓使いに向かって頭目がウルフと共に突撃する。
それがゲルドの仕込んだ罠だと気付かずに。
「うぉぉっ!!」
「ヒャッハァァ!!!」
頭目の段平とゲルドの弓がぶつかり合う。
ボギリ、と鈍い音がした。
直後。
「………な、んだとぉ!?」
頭目の持っていた段平が、真ん中からぼっきりとへし折れていた。
「ロクに手入れもされていないそんなナマクラで、あれだけ俺の矢を受ければそうなるに決まってんだろう」
「何ぃ!?」
折れて短くなった段平を不格好に構えながら、頭目はゲルドに目を見張る。
こいつはただ無策に矢を無駄撃ちしていた訳じゃない。
ゲルドは射った矢を頭目に段平で敢えて防がせることで、段平の一点を常に狙い続けていた。
一点集中で同じ箇所に負荷をかけ続ければ、あんなにボロボロな段平など、破壊するのは容易い。
そこに強い衝撃を加えれば、あとは硝子みたいに砕けるだけだ。
「流石だなゲルド。伊達にハゲちゃいない」
「ハゲは関係ねぇだろ!って、だから俺は剃ってるんだって!」
俺が御者台の上で大笑いすると、ゲルドは茹でダコみたいに禿頭を真っ赤にして叫んだ。
「ゲルド…ゲルド・ギランズ!?」
ゲルドの名前を聞いた瞬間、ゲルドとは真逆に頭目の顔が真っ青になる。
お、その顔、ゲルドの事を知ってるな?
「まま、まさかお前…が、ががが…『ガルサの紅い血風』のゲルド・ギランズかぁっ!?」
「………やめろ、その名前」
「ぶはははははははは!!!!やっぱり知ってやがった!!!!」
頭目の指摘にゲルドは目元を抑えて俯き、俺は腹を抱えて大笑いする。
『ガルサの紅い血風』。
嘗てこいつがジェイクやヘンリーと馬鹿やってた頃に付いた二つ名の様なものだ。
それが今やギルドの支部長だってんだから、人間丸くなるもんだ。
「ひ、ひぃぃぃ、お助けぇ!」
「殺しゃしねぇよ。後始末が面倒なだけだ」
恐々として土下座する頭目に、ゲルドは頭を抱えて溜息を吐いた。
嬢たちの方も問題なく制圧できたみたいだし、こいつらをどうしてやろうか。
ご意見ご感想お待ちしております。




