十二公爵家
全力でネタに走った回。
「いやー、助かったわー」
革手錠から解放された両手首を擦りつつ、ぐっと伸びをする。
いてて、手首擦りむいてら。
首輪も一応ちゃんと外れたけど…痕が残っちゃいねぇだろうな。
まあ残ってた所で不死人の場合はすぐに消えちまうけど。
既に俺は囚われていた檻から自由の身となっている。
ここにみんなが来た時、脱出はキーシャ辺りに錠をブッ壊してもらおうかと思っていたのだが、意外な人物が活躍した。
「いやしかし、助かったぜジャコ。ありがとさん」
「いえ、どういたしまして」
ジャコは手に持った血晶の鍵を弄びつつ、ぺこりとお辞儀する。
まさか血晶魔法の応用で鍵を複製するとは、器用だねぇ。
「指が通る円形の鍵穴だったので出来た芸当です。通らなければ通らなかったで別の手段を取れましたけど」
「はー…泥棒向きだな」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいっ!」
軽口を叩いたら怒られた。
………この過剰な反応、前科持ちか。
「ワリワリ、助けてもらっといて冗談が過ぎたわ」
ジャコのカボチャ頭の裏側が少し垣間見えたが、それを誤魔化しつつ頭を下げる。
「…………」
その間も、アルカ嬢は信じられないモノを見たという目を俺に向け続けていた。
「…なあ、嬢よ。そんなに見られるといい気分しないんだが」
「……あっ。ごめんなさい。………だって、今の格好を見たら別人だと思うじゃない?」
「…思ってても言わねーでくれよ」
俺は穿いているスカートの端を摘みながらやれやれと嘆息した。
普段の髪よりも幾らか長いヅラは綺麗にまとめられ、あの野郎の趣味丸出しなドレスは俺の体付きにピッタリと合わせてある。
ホント、線が細くて女顔って損だわ。モテるってのを加味しても旨味が薄い。
「全く、モテる男は辛いねぇ」
「刺されろ」
「うっせぇ」
呆れたキーシャに言い返すと、血晶のナイフが飛んできてスコンッと額に浅く刺さった。
その場で転げまわって悶絶する。本気で刺す奴が居るか!
「で、ビットさん」
「いだだだ……あー?」
ひとしきり転げまわった後、うずくまっていた俺に嬢が声をかけてきた。
ちょんちょんと俺の肩を突付いてから、ある一点を指差す。
「痛い!痛いわお姉様!乙女に顔はやめて!」
「やかましい!いい年したオッサンの何処が乙女だってんだい!」
………筋肉モリモリな身体にフリルだらけの服を着て、カイゼル髭を生やした四十路前のオッサンが、ギンにマウント取られてボコられていた。
………キッツい絵面だわぁ。
「あの人がもしかして…」
「あー、キーシャから聞いてたのね。そ、あのオネェ200%のオッサンがこのガルサの領主にして、貴族であるガルサム家の当主、ヘンリー・ガルサムその人。俺のストーカー」
「ひどいわビットお姉様!今はヘレンって呼んで!」
部屋の隅にあった俺の服から煙草を取り出しながら説明すると、ヘンリーはギンに殴られながら、キッツい裏声そんな事を言い出す。
「だーれがお姉様だ、このオ便所蟋蟀」
「ぶぇっほ!?ぶごっほ!け、けむたぶぇっほぉ!!!」
煙草に火を点けてヘンリーの顔面に煙を吹きかけてやると、地声のバリトンボイスで咳込んだ。
あ、煙草に口紅付いた。だから化粧は嫌なんだ…。
「ギン、もう気は済んだだろ。いい加減離してやれよ」
「………ふん」
「うぐ……お、おね゛えざばに…たばごは似合わないわ…!」
「似合う似合わねーじゃねー、好きでやってんだ。つーか俺は男だって何べん言えばわかんだよオマエは」
漸くギンから解放されたヘンリーと向かい合うようにしゃがみこんで鼻をつまみ上げると、ヘンリーは「ふがっ」と間抜けた声を上げた。
「……ま、この際丁度いいかな」
「ぶえっ」
指を離すとヘンリーが潰れたカエルみたいな声を出して床とキスする。
ここから商談に入りますよっと。
「ヘンリー、この三人は吸血種で、ちょっとした事情持ちだ。ちと調べてもらいたい事がある」
「いたたた…あら、お姉様程じゃないけど、よく見れば綺麗どころばっかりじゃない。いいわぁ、ドレスコードしてあげたいわぁ」
俺が話を振ると、ヘンリーは興味深げに嬢たちをまじまじと見る。
三人は居心地悪そうな、微妙な表情をして視線を受けていた。
「あら、この服あたくしがお姉様に着せたのじゃない!流石お姉様、ナイスなコーディネートよ!」
「………やはりこの服、貴様のだったか」
「話聞けよ、オイ」
キーシャの着ている服が、以前俺に着せたものを改造したものだと気付いて、テンションが天井知らずなヘンリーの後頭部をチョップ。
まだ本題にも入っちゃ居ねぇのに脱線させんな。
「あらま、ごめんなさいねぇお姉…ぐぇっふん!…お兄様」
「…お兄様て、まあいいけどさ。話を戻すぞ」
俺はヘンリーに嬢たち穏健派の事を話し、排斥派の情報を探りたい旨を伝えた。
ヘンリーは腕を組んで左手を頬に当て、くねくねと身体をくねらせながら考え込む。
「そうねぇ…街同士のツテはあるから、協力出来ないこともないけど…」
ヘンリーはじっとアルカの事を見る。
「先に、そこのお嬢さんの事を『ちゃんと』聞かせてほしいわね。ねぇ、『アルカ・ドランシェット・キュリエ公女様』?」
「っ…!」
ヘンリーの口にした言葉に、アルカ嬢の顔が強張る。
やっぱり知ってやがったか。
「アナタは覚えていないでしょうけど、あたくし達、20年前に一度会ってるのよ。先代だったうちの父が、キュリエ公爵のパーティに招待された際の付き添いでね」
「…そ、そうだったんですか」
20年前って……ああ、あん時は『まだ』性癖が覚醒してなかった頃だな。
当時は文武両道を鼻にかけない好青年だったってのに、どうしてこうなった。
「お兄様は敢えて触れないようにしてたみたいだけど、あたくしは個人に協力する時は、その人の人となりはしっかり知っておきたいタチなのよ」
「……そう、ですか。わかりました」
ヘンリーからそう言われ、アルカ嬢は冷や汗を垂らしながらも頷いた。
「まずは何故『十二公爵家』のアナタがお家の力を頼らずにこんな事をしているのかしら?」
十二公爵家。
それは、現在の世界が一度大規模な天変地異に見舞われた時、平穏を取り戻すために尽力した12人の子孫。
その家系の人間は総じて優秀な能力を持って生まれ、現在でも様々な国の重鎮として活躍しているらしい。
そしてアルカ嬢はその十二公爵家に名を連ねるひとりだったと言うわけだ。
割とデリケートな問題だと直感して触れないようにしてたけど、ヘンリーの目は誤魔化せなかったか。
「………母を、頼りたくありませんでしたから」
嬢の返答にヘンリーは「成る程ねぇ」とひとり納得している。
……どういうこっちゃ?
「なんだ。嬢の母親になんか問題あんのか?」
「ありあり、大有りよ。現キュリエ公爵といえば、相当な過激派って事で貴族界じゃ知らない人は居ないくらい。女だてらに当主を継いだワケじゃないわねぇ」
グネグネと身体を揺らしながらヘンリーは嘆息した。キショイ。
「娘がこんな所でこんな事をしてるなんて知ったら、キュリエ公爵がなんと言うのやら…」
「恐らく、お館様なら是が非でもアルカ様を連れ戻そうとされるかと。そして丁度いい貴族の嫡男を宛てがって家に縛りつけるのがいい所ですね」
「……ええ、その通りです」
ジャコが自分の考えを述べると嬢は肯定を示す。
ああ、箔付けの為に手前の娘を使うってか。貴族の中じゃよくあるこったな。
それに跡継ぎ問題もあるだろうし。
「あら、そう言えばアナタ、弟と妹が居たんじゃなかった?そのどちらかを当主にすれば…」
「ん?嬢、弟妹が居んのか?」
俺の質問に嬢は「弟と妹がひとりずつ」と頷く。
「妹はまだちゃんとした貴族教育も出来ないほど幼いですから。弟は…」
嬢は一度言葉を区切り、言い難そうに言葉を続けた。
「…弟は、私に協力してくれています。……穏健派を率いている、私の補佐として」
アルカの弟は近い内に登場予定。
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