領主館襲撃
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
前方を歩くギンさんは憤怒を隠すこと無く、不機嫌そうに煙管を飲んで煙を吐き出す。
………いつものギンさんらしくないわね。
ビットさん曰く、彼に恋慕しているギンさんが、キーシャに攫われた時や、蛇王達に襲われた時には特に怒りはしなかったのにもかかわらず、何故ビットさんが領主に攫われただけであんなにも怒っているのかしら。
「ビット・フェンは基本的に危険に遭っても『実害は無い』からな。一時的な行方不明なら然程問題ではない」
キーシャの話に私とジャコは頷く。
アルヴィラ様にお会いした時…いいえ、その前から薄々は感づいていた。
ビットさんが千年を超えるほど永く生きてきた、これは真実。
でも、彼が吸血種並の回復力を持っている、というのは私達の大きな勘違いだった。
彼は吸血種並の回復力を持つ人間なのではなく、『死なない人間』なのだ。
キーシャに首を切り落とされても、蛇王にお腹を切り裂かれても、頭が吹き飛びそうなほどの高熱を発しても彼は死なない。それがビット・フェンというヒトの性質。
彼がやたら自分を大事にしないのは、自分が幾ら傷ついてもすぐに治ってしまうからだと、私達は気付いてしまった。
「……だが、領主に攫われた場合は話が違う」
私達はビットさんの正体に付いて考えながらキーシャの言葉に耳を傾ける。
「領主であるガルサムは、ビット・フェンに並々ならぬ執着を持っているからだ」
「…執着?」
「奴の性格は褒められたものではないが、外見は女と見紛うほど良い。領主はその見目のいいビット・フェンをかなり気に入っているらしい」
………確かに。
ビットさん、顔立ちは物凄く綺麗で、たまに嫉妬するぐらい色っぽく見える時がある。……永く生きてきた所為か、やたらおちゃらける事が多いけど。
でも正直なところ、真面目な顔をしている時は、不意打ち気味にどきりとさせられる事が多い。
蛇王達への対策を思いついた時も、蛇姫にトドメを刺した時も。
あの、寒気を覚えるほどの冷たい相貌は、私も強烈に引き込まれた。
「領主はビット・フェンを、自分だけの『美術品』扱いして愛でる、ある種の好事家だ。そして、そこがギン・ヴィレの怒る理由さ」
呆れたように溜息をつくキーシャ。
どういうこと?
「奴が娼婦専門の男娼をやっているのは知っているな?」
「え、ええ、まあ…」
初めて聞いた時は驚いたけど。
「奴が長期間仕事をしないとなれば、娼婦達のモチベーションに支障が出る。だが領主はビット・フェンを延々と愛で続ける。結果どうなる?」
…………あ。
「……商売上がったり?」
「そういうことだ。あの女がただ単にがめついというだけじゃなく、ビット・フェンを好いているというのも、一応の理由なのだろうがな」
「…………」
当たり前の様に彼のことを分かっているキーシャ。
なぜだか胸がチクリとした。
「こら、何ぼさっとしてんだい!早く来ないと置いてくよ!」
「え、あ、待って!」
前を行くギンさんに急かされて私達は、領主の屋敷への道を急いだ。
「………で、今回はこの格好、と」
俺は着せられた服を見て辟易とする。
周囲は鳥カゴを思わせる檻。ちょっとやそっとじゃ出られない。
「ああ、いい!いいわぁ!やっぱりあなたは最高の美術品よ!」
「毎回毎回、飽きねぇなぁ、お前」
俺を攫うように指示した張本人へじろりと視線を送ると、そいつは俺の視線を浴びて身体を掻き抱き、ぞわぞわと悦に浸る。
相変わらずキショイな、こいつ。
「…………そろそろ、ギンが来る頃かね」
誰に言うでもなくぽつりと呟く。
直後、外で轟音が響いた。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!!と爆発音が響く。
領主館に到着した直後、ギンさんが念動力で正門を吹っ飛ばしたのだ。
そのままギンさんは領主館の内部へ侵入していく。
「ぎ、ギンさぁーん!?いきなり何やってるのぉぉぉ!?」
慌ててギンさんを追いかけながら私は叫んだ。
「心配いらん。毎回『こう』だ」
追いかけながら次第を傍観するキーシャは淡々とそう言い放つ。。
いくらなんでも冷静すぎない!?
「ヘェェェンリィィィィィィ!!!どぉぉこだぁぁぁい!!!」
念動力であちこちへ破壊活動をしながらギンさんは叫ぶ。
ヘンリー?
「ヘンリー・ガルサム。領主の名前だ」
私の顔を見て察してくれたのか、キーシャが解答を教えてくれた。
………それにしても。
「……領主ってヒトは、つくづく変人が多いわね」
「…………」
私の呟いた言葉に、私の素性を知っているキーシャは一度意味深な目で私を見てから、更に先を走った。
「そろそろ着く頃だ、急げよ」
「あっ!置いてかないで!」
しばらく走っていた私達は、ひとつの扉の前で立ち止まる。
廊下を走っていた時にざっと見た扉とは明らかに違う、凝った彫刻を表面にあしらった部屋の扉。
領主であるヘンリー・ガルサムなる人物にとって重要な部屋らしい事は見て分かった。
「やっぱりここかぁい…」
幽鬼のように髪を揺らしながら、ギンさんは手に魔力を集中させ、青く燃える火の玉を生み出す。
………怖い。
「一体何べん営業妨害すりゃぁ気が済むんだい、ヘェェェンリィィィィィィ!!!!」
叫びながらギンさんは火の玉を全力投球、一撃で扉が粉々に吹っ飛んだ。
ギンさんはドタドタと荒々しく、私達はそれに続いてバタバタと慌ただしく部屋の内部へ踏み込む。
「あ」
「…え?」
部屋の中央には鳥カゴを思わせる檻があり、その中央には、1人の『女の人』が囚われており、今の爆発に動揺すること無くちょこんと座り込んでいた。
白と黒の入り混じった灰色の長髪をしたそのヒトは、白と黒に彩られたゴシックロリィタ調のドレスに身を包み、首輪と手首に掛けられた革手錠を細長い鎖で繋がれている。
体型はかなりスレンダーだけど、背は高めですらりとした印象。
顔立ちはかなり綺麗で、口紅の引かれた唇は女の私から見てもかなり色っぽい。
………って、もしかしてこのヒト…。
「………ビットさん!?」
「おう、お疲れさん」
どこからどう見ても女の人にしか見えなかったビットさんは、手錠に繋がれた両手を私達に軽く振った。
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