裏と表の支配者
多分今年最後の投稿。
来年もよろしくお願いします。
アルヴィラとの対面から数日が経った。
俺の呪いを解く為に3人目の資格者を探したり、排斥派に関する情報を探らねばならんのだが、特に行動を起こすわけでもなく、ダラダラと無駄な時間を過ごす日々。
「ふぁ…ああぁあぁ」
やることと言ったら男娼くらいしか無い俺は、娼婦相手に頑張った翌日の昼ごろに、相変わらずだらしない格好で宿の一階に降りてきた。
「おーす、おはようさん」
「おはよう」
「おはようございます」
「ん」
適当に挨拶をすれば、吸血種三人娘が挨拶を返す。
三人の近くの席に着いて食事を注文し、頬杖を付いてもう一度欠伸を噛み殺した。
「ビット・フェン、一体何時までこうしているつもりだ?」
「こうしているって、何が?」
言いたいことは分かっているが敢えてとぼける。
「排斥派の情報を探るでもなく、貴様の目的を果たすでもなく、何時まで時間を無駄にするつもりだ、と訊いている。というか貴様、分かっててとぼけただろう」
「はっはっはっ。流石キーシャ、雇用主の心情を読み取るとは、良い補佐役だぶるぁッ!」
おちゃらけてキーシャの頭を撫でてやると、バチコーン!と額に強烈なデコピンを返された。
痛い!ってか熱い!!
「いてぇな!何すんだコラぁ!」
「あまりフザケていると、次は股ぐらを潰す」
「すいませんでしたぁ!」
冷徹な据わった目で睨まれて股ぐらが縮こまる。
俺は間髪をいれず土下座した。
あの目はヤる。確実に商売道具を潰される。
「…で、貴様の答えを聞こうか」
「あー…弁解とか言い訳とかじゃあ無いけど、一応裏で動いてはいるんだよ。一応な」
「裏で?」
アルカ嬢は首を傾げて俺を見た。
ま、そろそろネタばらししても良いかな。
「教会に行ったあの日から、ギンの私兵を動かしてもらってる。特に隠密行動や情報収集に特化した連中をな」
「ギンさんの私兵、ですか?」
オウム返ししたジャコに頷く。
確かにあいつは卓越した魔術師ではあるが、それだけでガルサの娼館街をのし上がった訳ではない。
あいつが手塩にかけた弟子は、何も娼婦達だけじゃねぇって事だ。
娼館街の全てを支配するあいつには、魔法、体術、情報収集力、様々な状況に対応出来るように自身の手駒として私兵を囲っていた。
そいつらを使って水面下で動き、敵になりそうな連中の弱みを根こそぎ握って、ガルサの裏の世界を完全に掌握したのだ。
………そのノウハウを教えたのは俺なんだけど、その辺りはどうでもいいや。
「ガルサの外で排斥派に関する情報を色々集めさせてるから、それなりの時間は掛かっても、手がかり位は掴めると思う」
「…本当に?」
反対方向に首を傾げている嬢へ苦笑しながら三度頷いた。
それに俺の場合は元々表立って動くよりも、搦め手の方が性に合っているというのもあるのだが。
「それに、手が足りねぇなら、『表』からも動いてもらうかも知れねぇし。……………気乗りはしねぇけど」
「気乗りはしない……?あの、ビットさんは善意で協力してくれているんだし、無理はしないでね?」
俺が渋い顔をしたのを見て、アルカ嬢は心配そうにそう言ってくれる。
どうやら俺の表情から危険なことをしようとしていると勘違いしているらしい。
先日蛇共と殺り合った一件から、嬢は俺が火中の栗を拾うことに対して、過敏な反応をしがちに見える。
「心配しなくても、荒っぽいやり方じゃねぇから大丈夫。第一俺ぁ死なねぇって知ってるだろ?」
「それはそうだけど…」
歯切れの悪そうな表情で嬢は目を細める。
心配いらねぇってのに。
俺と嬢の間にどんよりとした微妙な空気が流れる。
……いかん、間が持たん。
「さーて、メシ食ったらギンに情報収集の経過でも聞きに行こうかね」
俺はこの状況を打破するために無理矢理話を軌道修正することにした。
「あ、私達はもう食べたから。先に上で用意してるわね」
「はいよー。女の用意はなげぇからな。気長にメシを堪能させてもらうわ」
嬢達の背中を見送りながら、俺は昼食が来るのを待つ。
今日のメシはなんだろなー。
今日のランチはチーズを乗せたハンバーグでした。満足。
俺がメシを食い終えて適当な上着を羽織った頃に嬢達の用意も終わっていた。
………外出の用意に30分以上掛けるって、女は本当に用意が長い。
「……うーし、そんじゃあ行こうか……ね?」
玄関をあけて外に出るが、半ば程開けて外の光景が目に入った瞬間、全ての動作が停止した。
「ビット・フェン?…………む」
後ろからキーシャが顔を出し、俺の視線の先を見て表情を変える。
眼前には、一台の馬車が止まっていた。
だが、その馬車を引いているのは馬ではなく、全長3メートルほどの獣脚類によく似た、ライドディノと呼ばれる竜の魔物が2頭。
「……………あー…もうそんな時期か」
馬車に飾られた、弓矢を掴む一羽の鷲の家紋を見て全てを把握した。
………どうやら、『表』の方からちょっかいをかけてきやがったらしい。
俺が出てきた瞬間、馬車から数人の騎士が降りてきて俺を両脇から抱え上げる。
「キーシャ、後は任せた」
「お、おい!」
こいつらが何者か、俺の記憶から理解しているキーシャへそう言葉をかけ、無抵抗のまま馬車の中に引きずり込まれた。
ライドディノに引かれ、ビットさんを攫った馬車が街道を駆けて行く。
あまりにも迅速なその行動に、私もジャコも呆気に取られて止めに入る暇も無かった。
「………行くか」
私達が呆けていると、一番に我を取り戻したキーシャがそう言った。
「キーシャ、行くってどこに?」
「ギン・ヴィレの所だ」
ビットさんに貰ったキャスケットをかぶり直しながら、キーシャは私にそう返す。
自分の雇い主が攫われたというのに、少々薄情過ぎはしないか。
目だけでそう訴えると、キーシャは不満そうに溜息をつく。
「今の馬車を追いかけてビット・フェンを助け出すのは造作も無い。アレがただの人攫いならな」
機嫌の悪さを隠そうともせずに、キーシャがそう言った。
「……どういう意味ですか?」
「なんの用意もなく喧嘩を売るには、少々面倒な相手という意味だ、特にこのガルサではな。化け提灯」
喧嘩を売るには面倒な相手?
キーシャがそんな言い回しをするのは珍しいわね。
私の疑問を余所に、「やれやれ、本当に面倒な男だ」と言ってキーシャは歩き始める。
淀みなく娼館街へ向かうその背中を、私とジャコは慌てて追いかけた。
「…………………………………………あの、アホ」
ギンさんの屋敷にたどり着き、ギンさんへ事の次第を報告すると、ギンさんは持っていた煙管をへし折らんばかりに拳を握り、わなわなと震わせていた。
………怖い。
「とっとと行くよ、お嬢ちゃん達もついて来なね!」
腹わたが煮えくり返っているギンさんはそう言って立ち上がり、上着を羽織って部屋を出て行った。
「ええっと…なんでギンさんはあんなに怒っているのかしら?」
「………弓矢を持つ鷲の家紋」
私の疑問へキーシャは静かに口を開いた。
「あ、あの馬車に飾られていた家紋の事ね。……それがなんなの?」
「ビット・フェンは幾度と無く、あの家紋を持つ貴族に攫われている」
「私が見た奴の記憶の中では、ほぼ毎年のようにな」と勿体ぶった口調でキーシャが言葉を続ける。
「あの家紋は、このガルサを治める領主…………ガルサム家のものだ。早く行かないとはぐれるぞ?」
「領主って…あ!待ってよ、キーシャ!」
そう締めくくってキーシャはギンさんを追いかけ、私達もそれに続いて街へ出る。
領主に何度も攫われるって、ビットさん一体何したの!?
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