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蛇 5

展開がダレてきた…。

 俺の視界の全てがほぼ完全に静止した世界。

 この光景を見るのは何十年ぶりだろうか。

 脳の処理能力を不死人イモータルの再生力で過剰に引き上げたことで体感時間は数十分の一にまで引き伸ばされ、思考能力は通常の千倍近く向上し、周囲の情報が手に取るように理解できる。

 そしてその『先』さえも、俺の意のままに。


「キーシャ、右斜め上から来る、逆袈裟で弾け」


「っ、はっ!」


 俺の言葉にキーシャは即座に反応し、蛇王ナーガ蛇腹剣ガリアンソード最高ベストのタイミングで弾き飛ばした。


「お?」


「まだだよぉ!」


 キーシャの対応が変化した事に何かを感じ取ったのか、蛇共は僅かに目の色を変え、続け様に蛇腹剣を振るう。


「左下から俺の脇腹を狙ってる。切っ先を蹴り飛ばせ」


「こうか!」


「今蹴った足を狙って下から巻き付いてくるぞ、跳んでやり過ごせ」


「ぬぁっ!?」


「着地の瞬間にお前の喉を狙って来る。上手く受けろよ」


「軽く言えた事かぁ!」


 がいん!とけたたましく音を立てながらキーシャが剣を弾き、蛇腹剣の攻撃範囲から離れた場所で足を止める。

 ふむ、やるのは久々だが問題は無さそうだ。

 思考加速で周囲の情報から計算し、未来を読む。

 そこから導き出される最適の行動をキーシャに伝えたのだが、思いのほか上手く行った。


「ビット・フェン…貴様のそれは…」


「おう、お前も『知ってる』通りの事だよ」


 小声の早口でそうやり取りする。

 以前に血を舐めて俺の記憶を全て見てしまったキーシャは俺がこの間何をして、何故攻撃を読めたのか分かっていた。

 だから戦闘に関してズブの素人でしかない筈の俺の指示に素直に従い、その技量で完璧に対応して見せた。

 結果論になるが、記憶を読まれた事で俺達の間には言葉に表せない信頼関係が築かれていたらしい。

 出会いは最悪だったが、やはりコイツを味方に引き入れておいて正解だった。

 もし味方に出来なければ、俺の情報が全て排斥派に渡っていただろうから。


「なんだぁ、こいつ」


「この短時間で何したのよぉ」


 攻撃を完璧に防がれた蛇王達は、面白く無さそうな顔で俺達を睨んできた。

 その様子を見た俺達は軽く目配せし、頷き合う。


「「テメェ(きさま)らに教えてやる義理は無ェ(ない)な」」


 そして二人で右手の中指をおっ立てて挑発した。

 あ、やるかもとは思ったけどホントにやった。

 どうやらキーシャは記憶を読んだ所為で俺の行動パターンを看破できるようになったらしい。

 成る程、それはそれで好都合。

 微妙な仕草やクセなんかも分かっているなら、詳しく指示する必要はない。


「………お前らぁ!」


「殺す!遊び殺してやるよぉ!」


 俺達の挑発に蛇共は激昂を顕にする。

 再び襲い来る蛇の鎌首。


「上から俺の頭」


「っつぁっ!」


 俺の脳天を狙った切っ先をキーシャは後退しながら血晶剣で弾いた。


「右からお前の右目、右下からお前の脚、左上から俺の心臓、正面からお前の腹」


 俺が放った指示にキーシャは直ぐ様反応し、即座に蛇腹剣の猛攻を防ぐ。

 時に剣を薙ぎ、時に鞭のようにしならせ、時に蹴りを織り交ぜて。


「前後左右同時」


「……だぁっ!!」


 四方から迫る蛇腹剣を跳躍しながらキーシャは身体を回転させて弾き飛ばし、更に後方へ下がった。

 攻撃を全て防ぎきったキーシャを、蛇共は明確な驚愕と共にその爬虫類を思わせる目を細める。


化け猫(ケット・シー)ィ、お前、何をしたぁ?」


「その美形ちゃん、何者よぉ」


 どうやらキーシャの動きが変わったのに、俺が関わっているというのが感づかれたようだ。

 遊びの時間は終わった。


「キーシャ」


「ああ」


 キーシャは血晶剣で俺を抱える己の左手を傷つけ、手のひらから血晶の鎖を生み出す。

 その鎖が俺の身体に巻きつき、彼女の腕と絡みついてしっかりと固定された。


「あと二分、このまま連中を誘導するぞ」


「承知した」


 キーシャへ言葉を掛けた俺はそのまま緊張していた身体を弛緩させる。

 ……やばい。頭が沸騰しそうだ。

 右手で鼻血と血涙を拭いながらそんなことを思う。

 思考加速は使用時にはサポートとして絶大な能力を発揮するが、そう都合良くは行かない。

 俺の脳が思考加速出来るのは最大三分。その後は脳がオーバーヒートしてろくに動くこともままならない諸刃の剣なのだ。

 思考加速出来るのはあと二分、傷はもうほぼ塞がった。

 キーシャは俺を抱えたまま蛇共に背を向け、家屋の屋根を飛びつたって逃げる。


「待ちなぁ!」


「待てと言われて待つ馬鹿は居ないだろう!」


 そう挑発の言葉を飛ばしながらキーシャは蛇共をある場所へと誘導する。

 間に合ってくれよ。

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