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蛇 4

一ヶ月近く空けておいてこの短さ。

ムラッ気が酷くて本当に申し訳ありません。

「っく、おぉっ!」


 四振りの蛇腹剣ガリアンソードが鎌首をもたげ、刃が次々と襲いかかる。

 それをキーシャが右手の剣一本でなんとか弾き飛ばしていた。


「ぐ、あだだだ…キーシャ、もうちょい揺れを抑えてくれ。塞がるもんも塞がらねぇよ」


「状況が見えていないのか貴様ぁっ!」


 屋根を飛び移る衝撃で腹の傷が開きかけたので一声かけるが怒られた。

 その間もキーシャは卓越した剣技とその敏捷性で、襲い来る蛇の切っ先を弾いていく。

 しかも細身とはいえ大の男を抱えたまま平然と飛び跳ねている様は、まるでひとつの舞踊を思わせた。

 場所が場所なら異色の一組カップルとして舞踏会を賑わせられるかね。


「っ!」


「あだだだ!顔擦れる顔擦れる!」


 俺の表情から馬鹿なことを考えたのを察したか、キーシャは逃げる途中で俺の足を引っ掴んでずりずりと顔面を引きずり回す。

傷治してる真っ最中なのに傷を増やしやがった!!しかも一応男娼(おれ)が売りにしてる顔を!!


「あばばばばっ、おま、さっき護衛が、ぶっ!どうとか言ってただろうが!?」


「やかましい!多少の怪我なら問題無いだろう!」


 確かにそうだけど!

 キーシャが掴む俺の足を狙って蛇腹剣が襲いかかるが、一瞬速くキーシャが俺の身体を引っ張って抱え直し、再び逃走を図った。


「うろちょろしてんじゃないよぉ!」


「お前たちは俺達の玩具なんだからさぁ!」


 逃げの一手を取る俺達を蛇二匹はしつこく追い縋る。

 正に蛇のような執拗さだ。

 喜々として俺達を追いかける蛇達の表情から、俺かキーシャを生かして嬢達の居場所を突き止めなければならないという、当初の目的は忘れている様だな。

 それはそれで好都合。作戦を第二段階に移行させるまでこいつらを釘付けにする事が出来るんなら、多少のリスクは背負ってなんぼだ。


「ビット・フェン、あとどれくらいだ!」


「うぐ…あと二分!なんとか保たせろ!」


「承知した!」


 不意に自らの顔面を襲ってきた切っ先を弾き、キーシャは再び蛇共から距離を離す。

 蛇王ナーガの剣を一度弾いたかと思えば、間髪入れずに蛇姫ラミアが追撃。

 人間というものを永いこと見てきた俺の経験則から、個々の地力はキーシャの方が蛇達を上回っている。

 だが、こいつらが二人揃った時の連携コンビネーションは決して楽観視出来るものではなかった。

 互いの動きを熟知しているが故の間断ない攻撃の連鎖は、キーシャが持つ優れた脚力を確実に阻害している。


「シャァッ!」


「っ!っで!?」


 蛇腹剣の切っ先がキーシャの防御を掻い潜って俺の鼻を真一文字になぞった。

 幸い浅かったので一瞬血が吹き出して傷が塞がる。


「っ!すまん!」


「いや、いい。それよりもっと防御に集中してくれ」


 詫びるキーシャにそう返しながら、俺は自分の背中に脂汗が滲むのを感じ取っていた。

 今の一閃は偶然だ、とは言い難い。

 俺の目では早すぎて完全に見切ることは敵わないが、恐らく連中が攻撃の回転率を上げたんだろう。

 蛇が獲物の首を締め上げるように、少しずつ苛烈に、少しずつ執拗に。

 面ぁ突き合わせて10分と経っちゃいねぇが、こいつらの性格が腐り切ってやがるのはよく分かった。

 ………俺達がこの状況を打破する手段は、一応あるっちゃある。のだが、これをやると暫く俺が使い物にならなくなるリスクが浮上する。

 作戦が間に合えば、勝負の賽の目五分と五分ってとこか?

 ………このままじゃジリ貧なのは目に見えてるし、しゃぁねぇ。


「……キーシャ、あと三分追加だ。その間俺が連中の攻撃を読むから、防御に集中しつつ例の場所に向かってくれ」


「…!?貴様、一体何を…!?」


「余所見厳禁だよぉ!」


「!ちぃっ!!」


 蛇腹剣を弾きながらキーシャが何か叫んでいるが、それは既に俺の耳には届いていない。

 俺は瞬きもせず目を見張り、全神経を思考に集中させる。

 アドレナリンもドーパミンもエンドルフィンも赤字覚悟の総決算。

 シナプスがぶっ潰れるが直ぐに再生させて回転率向上。

 神経伝達物質の過剰分泌で血管が開く開く。


「び、ビット・フェン!」


「…っと、別にキャットファイトで興奮したワケじゃねーよ」


 膨らみきった血管が振動で切れたのか、たぱっと鼻血が垂れたが気にも留めない。

 あ、眼動脈切れた。

 ドロドロと血涙が漏れるけど治す余裕が無い。

 そうして周囲の情報を取り入れ、思考能力を不死人イモータルの再生力で現界以上に引き上げた結果。


「………準備、完了」


 俺の知覚する世界の時間はほぼ完全に停止した。

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