蛇 2
展開が早いのは仕様です。
キーシャがもたらした情報により新たな吸血種、蛇王と蛇姫が次の刺客であることがわかった。
出来ればキーシャの裏切りがバレる前にどうにかしたかった所だが、それは彼女の信用を得られなかった俺の落ち度ではあるし、何より襲撃前に刺客の情報を得られたのは大きい。
問題はどうやって刺客を撃退するか、そちらに重点を置くことの方が肝要だろう。
「蛇王、蛇姫ね。お前といい、ジャコやアルカ嬢といい、異名を付けるのが吸血種の慣例なのかね?」
口に出しながらも、俺は内心否定する。
両親のどちらかが吸血種なら話は変わってくるが、基本的に吸血種は常人種の突然変異。この原則に変わりはない。
言うなれば『記号』か。
吸血種にはキーシャやジャコの様に身体の一部が異形化する例がある。
化け猫然り、化け提灯然り、付けられた異名はその特徴に因んで呼ばれているのだろう。
だとすれば、蛇王、蛇姫から自ずと敵の事は予想できる。
「その部隊長とか言うの、蛇の吸血種か」
「ああ、目つきも態度も蛇の様な気味の悪い双子だ」
思い出すのも嫌なのか、蛇王達の事を口にするキーシャの顔はひどく不機嫌だ。
「嫌なこと思い出させる様で悪いけど、その蛇達の血晶魔法、戦法なんかも教えてくれるか?」
「……正直本当に嫌だが仕方あるまい。武器は二人共サーベルを使った二刀流、暗闇からの暗殺や騙し打ちが得意だが、真っ向勝負だと二人で連携して相手を翻弄するのも上手い。一対一なら私は負ける気がしないが…二人同時に相手をするとなると、正直厳しいな」
顎に手を当ててそう考察するキーシャの顔は真剣そのもの。
プロの傭兵であるキーシャにそこまで言わせる蛇達はそれ程のものなのか。
だが、それ以外にも少々引っ掛かる。
「……暗闇からの暗殺が得意って言ったな」
「ああ、私も夜目は利くが、あの二人の様は完全な暗闇でも昼間と変わらず動けると聞いたことがある」
……………成る程。
俺はそれを聞いて頬を緩める。
「……どうした?」
「もしかしたら、蛇達を上手いこと撃退できるかもな」
翌日、俺とキーシャは二人で街をぶらついていた。
「………おい、ビット・フェン」
「ああ?なんだよ?」
俺の後ろを歩くキーシャは不満気な顔で俺を睨んでいる。
「貴様、少々暢気が過ぎるのではないか?」
「はははははー、確かになー」
キーシャの言葉に俺はヘラヘラと笑った。
彼女の言わんとする事は分かる。
敵は暗殺を得意とする吸血種、定期的な連絡を取り合っていただけあって、もう近くまで来ているだろう。
危険がもう目の前に迫っているのにもかかわらず、こうものんびりとしていて良いのか、キーシャはそう言いたいのだ。
「アルカ達の方は知らんが、蛇共は少なくとも私の顔を知っているのだぞ?こうして外に出ているだけで奴らが何時襲い掛かってくるか…」
「少なくとも、真っ昼間に人の目がある中で手出しはしねぇだろ」
欠伸を噛み殺しながらキーシャの言葉を遮る。
この状況で血晶魔法を向けるのはよっぽどの自信家かよっぽどの馬鹿か。
少なくとも表立って自分達を吸血種だとひけらかす事はねぇだろ。
「……だったら何故私も連れて来た」
「囮だよ。正確には俺がだけど」
八百屋で買ったリンゴを齧りながら答えると、キーシャは怪訝そうに俺を見た。
「あちこち転々する傭兵、しかも嬢を狙う刺客として雇われていたお前が、見た目は常人種の俺と一緒にいる。奴さんに取ってそれはどう映る?」
「………よく分からん」
あ、少し難しかった?
首を傾げるキーシャに苦笑しながら俺は答え合わせ。
「お前と行動を共にしている時点で奴さんに取っちゃ俺は少なくとも、嬢と何かしら関わりがある奴、嬢の居場所を知ってそうな奴に映る」
実際、キーシャもそうだったしな。
「………成る程」
自分も似たように考えたからか、キーシャは俺の考察にコクリと頷いた。
「で、お前ン時みたいにあっさり攫われたなんてオチは勘弁なんでな、護衛よろしく」
「………考えるだけ考えてあとは丸投げか。他力本願にも程がありすぎるぞ貴様」
「しょうがねぇよ。俺弱いもん」
じっとりと睨め付けるキーシャに視線を受け流しながら、俺はケラケラと笑ってリンゴにかぶりついた。
日の落ちかけたガルサの裏路地を俺達は歩く。
もう直夜になる。奴さんが動くとしたらそろそろだが。
「……もちっと人気のない方に行こうかね」
「分かった」
路地に座り込む浮浪者に眉をしかめながらキーシャは俺の後に続く。
秋の夕暮れは数分もすると、路地裏に徐々に暗い闇を落としていく。
そうしてしばらく歩き、1人の浮浪者の前を横切った。
「…………見ぃぃぃっけ」
「っ!ビット・フェン!!」
浮浪者の纏っていたボロ布の下から紅い線が俺に伸びる。
「ぐぼっ!?」
その線、血晶の長剣は正確に俺の腹を掻っ捌いた。
腹から血が噴き出し、臓物が周辺に飛び散る。
問答無用で殺しに来るんかい!?
「ぶっ…げふっ!」
「ちっ!」
直ぐ様キーシャが俺の身体を抱え、持ち前の身体能力で壁を蹴って上空へ退避する。
あでででで!?千切れる!背骨が千切れるぅぅぅぅ!?
「げぼっ!キーシャ!体もげる!マジでもげる!」
「どうせ千切れても再生するだろうが!今は逃げるのが優先だ!」
口喧嘩しながらもキーシャはそのまま三角跳びの要領で壁を蹴り上がり、建物の上に出た。
「シャァァァ!!」
「っ!?ちぃっ!」
突然目の前から現れた自らの喉を狙う紅い刃を、キーシャは空中で体をひねることで回避した。
俺を抱えたまま屋根の上に着地し、凶刃の持ち主を睨みつける。
「あぁ~あ、躱さなかったら痛い思いをしないで一息に死ねたのにねぇ」
「………蛇姫」
踊り子衣装にケープを纏っただけの女がそう言うと、キーシャは女を睨みながらその名を口にする。
この女が蛇姫って事は、さっき俺をぶった切ってくれたのは蛇王か。
作戦の第一段階は成功、これからが勝負所だ。
蛇ってだけでギリシャ神話とインド神話をごっちゃにしちゃう作者の不勉強さ。
ご意見ご感想お待ちしております。




