青い猫と麦わら帽子大作戦
若干展開に無理があると思うけどキニシナーイ。
服の調整を終えた俺はギンを連れて宿に戻り、アルカ嬢達の部屋に向かった。
「嬢、ちょっといいかい?」
ドアをノックして部屋を覗くと、アルカ嬢はのんびりと安楽椅子に座って本を読んでいた。
うわー、優雅なひととき。
「ビットさん……と、ギンさん?どうしたのかしら?」
「うん、ちょっとな。ジャコは?」
部屋にお邪魔し、手で促されたので椅子に座ると、彼女に付き従うジャコの姿が見えない。
「ジャコなら食堂で給仕の手伝いをしてるわ」
「手伝いぃ?」
俺はややオーバーにリアクションし、肩を竦めて見せる。
それにクスクスと笑いながら嬢は言葉を続けた。
「ジャコは何かとじっとしてられない質だし、かなり格安でここに泊まらせてもらってるから申し訳ないんですって」
「へぇ。義理堅いのな」
ひゅう、と口笛を鳴らしてジャコの勤勉さを賞賛してみせる。
やや呆れ気味な嬢の様子から、生真面目なのは昔からなのだろう。
「それで、なんの用かしら?」
「あ、そうだそうだ。実はキーシャの事で相談があってな」
俺はキーシャの服飾問題と引き篭もって宿から出ないことを話し、それをどうにかしようと考えていることを話した。
「そう、あのキーシャが。……昔のジャコも似たようなものだったけど、その時はかなりの荒療治だったわね」
「俺もそっちの線で考えてたとこ。とりあえず服はこんなもんでどうだろうか」
そしてギンと共に持ってきた服を嬢に見せる。
両手で掲げた服を見て嬢の目が見開かれた。
「………物凄く可愛い」
「だろ?こいつをキーシャに着せたら似合うと思わねぇ?」
にやりと笑って問えば、嬢もまた笑みを返す。
「………悪い人」
「お褒めに預かり光栄です。あんたも似たような顔してるけどな」
「どっちもどっちさね」
お前が言うな。
俺とアルカ嬢とギンは悪い顔で、途中手伝いを終えたジャコを交えつつ、この服をキーシャに着せる為の計画を話し合う。
さて、それじゃあ作戦決行と行きますか。
「…………ごちそうさま」
「はぁー、食ったぁ食ったぁ」
昼時になってキーシャが部屋から食堂に降りて来たので、さくっと昼食を済ませる。
水を飲みながらそれとなくアルカ嬢に目配せすると、嬢はほんの僅かだけ頷いてみせた。
「ねぇ。キーシャ」
「む」
話しかけられたキーシャは周りの目を気にしながら嬢と目を合わせる。
どうやら自分達吸血種を見る好奇の目が煩わしいらしい。
そんなことを気にする様子もなく嬢は立ち上がった。
「なんだかんだで私達って話し合う機会が無かったじゃない?」
「そうだな。私はこの男に雇われる形に収まっているから、当然といえば当然だが」
親指で俺を指しながらキーシャは口元のパンくずを拭き取り、軽く頷いた。
「それじゃあいけないと思うの。仲間なんだからレクリエーションは大事よ」
「………話が見えないのだが」
その言葉を聞いた嬢は立ち上がり、ぱしんと両手を打った。
作戦開始の合図だ。
怪訝そうなキーシャの左右に素早くギンとジャコが立ち、彼女の両腕を掴んで立ち上がらせる。
「………おい、何をするつもりだ」
「女同士水入らずでお風呂にしましょう!」
「というわけで、行きますよ化け猫」
「なんの脈絡も無い上に何がというわけなんだ化け提灯」
それとなく抗議の声を上げるが、無視されてずるずると引きずられていくキーシャ。
「おい、ビット・フェン、これをどうにかしろ!」
「雇い主命令だ。裸の付き合いってやつを楽しんでこい」
ぷらぷらと手を振って見送ると、俺達が結託しているのを察したらしく、キーシャはバタバタと暴れる。
「…………謀ったな!?」
「ジャコ」
「はい」
素早くジャコがキーシャを血晶魔法で拘束し、風呂場に引きずって行く。
「なあレイラちゃん」
「何?」
事の顛末を見ていたレイラちゃんにあることをお願いすると、かなり怪訝そうな顔をされたが一応引き受けてくれた。
仕込みは済んだ、後は実行部隊に任せるとしよう。
30分後。
「…………おい」
「おー、来た来た。そんで着た着た」
俺はキーシャの格好を見てパンパンと軽く拍手。
今の彼女は普段のぱっつんぱっつんなシャツと短パンではなく、青と白のベアトップワンピースの上に白いサマーパーカーを着ていた。
スカートの下は白いニーハイソックスとガーター、そしてサンダル。
思った通り、よく似合う。
「………風呂から上がったら私の服が消えて、この服が置かれていたのだが」
腹の底から響かせるように言葉を吐きながら、キーシャは俺に歩み寄る。
「ああ、お前の思った通り、俺の仕業」
やったのはレイラちゃんだが、頼んだのは俺だし。
「やはり貴様かァァァァァァ!!!!」
「だぁ!?酔う酔う!やめろォォォォォォ!?」
キレたキーシャは俺の肩を掴んでガックンガックン揺らす。
やはりこういう女の子らしい格好に慣れてない様だ。
……うっぷ、マジで酔う…。
「まあまあ、ビットも良かれと思ってやったんだから、そうカッカしなさんな」
「ニヤけながら言うな!大方貴様らも共犯だろうが!」
ギンが宥めようとするが、シャーシャー威嚇しながらメス猫は吠える。
だがギンの言うように俺も良かれと思って服を用意したのだ。
素材がいいだけに、モッサイ格好ばっかりさせるのは勿体無いというのが俺らの総意なのだよ。
「うっぷぅ…でも、ぶっちゃけこういう格好したかっただろ?」
「…ッ」
カリカリしていたキーシャは俺の言葉に息を呑んでたじろぐ。
傭兵生活が長すぎたんだろう。憧れはしても自分じゃ似合わないとか、そんな風に思っていたと容易に想像できる。
「ほい、仕上げ」
「う…」
俺は隠し持っていたつばの狭い麦わら帽子をキーシャの頭に被せる。
「それで耳は隠れるから、外に出られるだろ?」
「…そういう問題じゃ…」
ちっ。強情な。
ならば強硬手段じゃ。
「よーし、そんじゃ俺らで買い物デートにでも行こうか」
「……あ…」
「あらっ」
帽子のつばを摘んでいるキーシャの手を取る。
ついでに風呂あがりで鎧を外したラフな格好をしているアルカ嬢の手を取った。
「ちょっ…私は…というかデートって!?」
「まあまあ、これもいい経験じゃない?」
俺の提案に乗り気なアルカ嬢は空いている手でキーシャの背中を押す。
そのまま俺たちはバタバタと宿を出た。
「あ、そうだキーシャ。お前の格好、なんか気付かねぇ?」
俺は街を歩きながらキーシャに声を掛ける。
「……なんだ?」
「…あ。………くふふ」
客観的に見ていたアルカ嬢はいち早くその意味を理解したらしい。
俺のしょうもない洒落にクスクスと笑い出す。
「『麦わら帽子』と『青い猫』。宿の宣伝にもなるだろ?」
「…………」
俺の言葉にキーシャはぽかんと口を開ける。
「…………ぷっ、くくっ、ははは。……下らないな」
そしてすぐにクツクツと吹き出した。
「そうさ、世の中くだらねえ事ばっかりだ。だからこそ面白い」
漸くまともな笑顔を見せたキーシャに、俺はにやりと笑みを返した。
「そう言えば貴様、カネがないんじゃなかったのか?」
「『男の甲斐性くらい見せろ』ってギンに小遣い貰ったから問題ねぇよ」
「…………それ、言わなかった方がかっこ良かったのに」
最後の最後で締まらないのが俺であった。
あれ?ヒロインってキーシャだったっけ?
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