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取り引き

ちょい巻き展開。

毎日更新できるかなぁ。

 仔猫ちゃんを撃破し、アルカ嬢と一緒に青猫亭に運び込んで3日。

 あれから俺たちはてんやわんやの大騒ぎだった。

 縫合した仔猫ちゃんの傷は最後に受けた一刀のものだけであり、他の傷は完全には塞がっていなかったので、俺の部屋に運び込み治療にあたったのだが、問題はその後。

 大人しく眠っていたアルカ嬢が突然高熱を発したのだ。

 俺は仔猫ちゃんの傷の手当で手が離せなかったので適当な宿泊客にギンを呼ぶように頼み込み、アイツが来るまでの間ジャコとレイラちゃんが嬢の身体の汗を拭いたりしながら看病に当たる。


 ギンが到着した直後、俺達は有無を言わさずアルカ嬢を診せるとギンも切迫した状況だと察したらしく、すぐに症状を詳しく調べ始めた。

 ギンは元娼婦だが魔法使いとしては超がつく優秀だし、医療の心得も多少ある。大抵の病気はアイツに診てもらえば大丈夫なはずだ。

 鎧を脱がされたアルカ嬢の身体をあちこち触り、ギンが一言。


『………魔力酔いだね、こりゃ。しばらく放っときゃ魔力が馴染んで落ち着くだろうから、生命に別状は無いよ』


 ギンの診断結果に俺は、安心すると同時に首を傾げた。

 確か魔力酔いとは、自分の許容量キャパを大幅に上回る魔力を無理矢理取り込む事で起こる症状だった筈だ。

 確かに彼女は俺の魔力をほぼ全て持って行った。

 だが、あの時のアルカ嬢は割と余裕があるように見えた。

 俺がその時の状況を話すと、ギンはポンっと自分の手のひらを拳で叩く。


『ああ、消化不良だね、そいつは』


 ギン曰く、魔力が少ない状態でいきなり魔力を取り込むと似たような症状を起こすそうだ。

 質素な食生活をしていていきなりたらふく掻っ込んだ時と似たようなものだろうか。

 俺がそう訊くと、ギンは呆れながら『あんたが分かるんならそれでいいよ…』と溜息をついていた。

 いや、だって俺の場合は腹いっぱい食えば魔力戻るし。

 俺がそう返せば、そうなるのはお前だけだと殴られた。ひでぇ。ぼーりょくはんたい。


 ついでに仔猫ちゃんの手当も手伝ってもらった。

 独学で身につけた付け焼き刃の治療じゃやっぱり限界があるしな。

 ギンに魔法で縫合糸を作ってもらい、残りの傷もちまちまとパッチワークした。

 ギンの縫合糸は特別製で、傷の治癒と同時に消えるようにできているから跡も然程残んねーだろ。

 あとは化膿止めと湿布だけして包帯でぐるぐる巻き。

 意識が戻った時に逃げられたり自害されちゃ敵わんからしっかりと拘束しておいた。

 ちなみに猿轡は思う所があって鼻と口元だけを露出した、顎を無理矢理閉じさせるマスクにしてもらった。


 それと、ジャコは既に傷自体は癒えており、調子の方も軽い貧血なので大した処置は要らないとのこと。

 ジェイクも似たようなモンだが常人種ヒューマンだからちゃんとした治療もしとくか。





 それが三日前のこと。

 あれから仔猫ちゃんもアルカ嬢も死んだように眠りについたままだ。

 一応心臓は動いてたし、呼吸も一定のペースで落ち着いていた。

 念の為にギンにはそのまま泊まってもらってるけど………大丈夫なのかねぇ。

 俺はそんなことを考えながら食堂でぼんやりと微睡みに浸る。

 椅子にだらしなく座り、テーブルに足を投げ出して足を組む様は端から見てかなり不遜だが、俺のベッドは仔猫ちゃんが占領しているので仕方ない。


「……んん…すー…」


 宿に一つしか無い長椅子ベンチはギンが使ってるしな。

 部屋を借りりゃいいのに、わざわざ俺に付き合ってくれちゃってよー。

 ギンの寝姿を見ながら眠りに落ちかける。


 そんな時、ドタン!と天井が大きく音を立てた。



「………んがっ?うわったった!?」


 音に目を覚ました俺はバランスを崩して椅子から転げ落ちる。


「ってぇ…!…なんだ?」


 打った尻をさすりながら俺は立ち上がり、天井を見上げる。

 最初ほど大きくは無かったが、今も上階で暴れるような音が何度も鳴っていた。


「……まさか」


 俺は音の発生源から思い至った。

 仔猫ちゃんが目を覚ました様だ。






「フゥー!シャーッ!」


「……うわー…」


 俺は部屋の惨状に呆然と声を上げる。

 部屋の物は軒並みひっくり返り、ベッドはぐちゃぐちゃに引き裂かれていた。

 その中心にはそれをやらかしてくれた張本人が、尺取り虫の様に体を曲げて俺に威嚇行動を取っている。

 ……マジでネコみたいだな。


「とりあえず落ち着けよ。仔猫ちゃん」


「貴しゃま!なじぇわらしを生かひた!」


 ネコみたいな耳を尖らせながら、仔猫ちゃんは俺にそう訊いた。

 ちなみに喋り方が可笑しいのは顎が開かないから。

 人間の顎って噛む力は強いけど、開く力は弱いからな。

 ジャコに猿轡からこのマスクに創り変えてもらったのは、噛み千切られてそのまま舌を噛まれる可能性があったからだ。

 せっかくの商談なんだ、死なれちゃ残念だ。


「なんでお前を生かしたか。聞きたいか?」


「当じぇんだ!しぇん場で死にじょこにゃうにゃんて、兵ひの恥だ!」


 仔猫ちゃんはぐるぐる唸りながら俺を睨みつける。

 可愛いねぇ。個人的には食っちまいてぇが、後々面倒になるから自重して。


「えーと…確かこの辺に…」


 俺は仔猫ちゃんが荒らしてくれた部屋を漁る。

 お、あったあった。

 僅かにある床の隙間に指を突っ込んで床板の隠し扉を開き、中にあった革袋を取り出した。

 仔猫ちゃんの目の前に放ると、じゃらりと中に入っていた黄金色がこぼれ落ちる。


「!?」


 それを見た仔猫ちゃんの目が大きく見開かれた。

 えーと、あとは…。

 仔猫ちゃんの驚愕を無視して俺は部屋の物色を続け、机を踏み台にして屋根裏に腕を伸ばし、再び革袋を取り出す。

 続いてクローゼットの奥。ベッドの下。

 袋を取り出して次々と仔猫ちゃんの前に放り出す。

 全て出し終えると、俺は革袋を挟んで仔猫ちゃんと向き合う様に胡座をかいた。


「単刀直入に言う。お前、排斥派から俺に鞍替えしねぇ?」


「………」


 仔猫ちゃんは俺を疑わしげな目で見つめる。

 いきなり見せつけられた金貨の山と雇用の提案に、最初の怒気は既に失せていた。


「おみゃえ、私ににゃにをひゃれたのか、わしゅれたのか?」


「分かってるよ。攫われて、尋問されて、首斬り飛ばされた」


 俺がそう返すと、仔猫ちゃんは呆れを多分に含んだ目を向ける。

 ははははは、照れるなぁ。


「その上での提案だ。お前はアルカ嬢から『何故排斥派に就いてるのか』って訊かれた時、『連中は金払いがいい、ただそれだけだ』って言ったな。って事は、カネ次第で穏健派に雇われることも考えるって俺は思ったわけだ」


「………しょれは、一考にあたいしゅるというだけだ」


「因みに排斥派に雇われた額は?」


 俺が問うと、仔猫ちゃんは一度目を閉じる。


「……金貨ごしゃく」


「こっちは排斥派やっこさんの情報提供もコミコミで俺のへそくり全額の金貨二千。無理なら出てけ」


「……ッ」


 俺が即答すると、仔猫ちゃんはかなり悩ましげに顔をしかめた。

 ………もうひと押しって所か?

 俺が内心そう考えていると、部屋のドアが開く。


「ビットさん!アルカ様が………化け猫、目を覚ましたんですね」


「ああ、ジャコか。嬢がどうした?」


 テンション高めで部屋に飛び込んできたジャコだが、仔猫ちゃんを見とめた瞬間その眼窩の奥の光を細める。

 うーん、味方(予定)にそんな目をするのは良くねぇなぁ。

 時間が解決してくれるといいんだけど。


「……っ、そうでした。アルカ様がお目覚めになられたんです!」


「おっ、そうか。そりゃ良かった。そんじゃ快復祝いでも………待てよ?」


 言いかけた俺はあることを思いつく。

 俺は一度仔猫ちゃんに目を向けた。


「………ジェエエェェイク。仔猫ちゃんを下に連れてってくれ」


 そして部屋から出て下階に居るジェイクに呼びかける。

 餌一つで釣れねぇなら、釣り餌を増やすことにしよう。

マスクの形状はアクメツ的な形をイメージしてください。

ご意見ご感想お待ちしております。

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