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できる男は女の胃袋を掴め。

飯テロ回。

と言ってもそんなに細かく描写はしてません。

 仔猫ちゃんをジェイクに任せて一階に降りると、アルカ嬢が食堂の一卓に座っていた。


「おはようさん。調子はどうだい?」


「おはよう……ずっと寝ていたせいかしら。少しだけ気怠さがあるわね」


 そうは言うが、アルカ嬢の声は明るいものだ。

 どうやら俺の魔力が完全に馴染んだ様だ。

 とは言え俺の魔力は元々がアルヴィラのモノなので、経過を見ておく必要は在るだろうがとりあえずの不安要素は無くなった。


「そう言えば、私が目を覚ます少し前に化け猫(ケット・シー)が目を覚ましたらしいけど、大丈夫?」


「あー…部屋を派手に散らかしてくれたよ。参ったねどーも」


 本当に参った。

 ゴタゴタが済んだら片付けねーとな。


「はにゃせ!おーりょーせー!!」


「…………」


 お、噂をすれば影。

 騒ぎに振り向くと、階段を降りてきたジェイクの肩に、手枷足枷口枷を付けられたままの仔猫ちゃんが担がれていた。

 バタバタと足を振る度に、ローライズの短パンから出ている包帯を巻かれた太腿がしなやかに動いた。

 うむ、いい尻と脚だ。


「おう、ジェイク、ソイツその辺に座らせてやってくれ」


「あいよ」


 ジェイクは頷き、仔猫ちゃんをアルカ嬢の隣に座らせる。

 あ、ジャコの目が物凄く光った。


「ジャコ、もう拘束解いていいよ」


「え…ですが」


 一度敵対した相手を自由にすることにジャコは難色を示す。

 隣のアルカ嬢へ危害を加える事を心配しての事だろう。


「大丈夫よ、いざという時は私が取り押さえるから。だからジェイクさんは私の隣に座らせたんでしょう?」


「………まあな」


 ジェイクは嬢の言葉に顎を掻きながら答えた。

 ああ、一応コイツを倒したの嬢だしな。そこまで考えてたのか。


「ジャコ」


「………かしこまりました」


 アルカ嬢の命令をジャコは渋々ながら承諾し、仔猫ちゃんを拘束していた血晶が塵に還る。


「………はぁ」


 自由の身になった仔猫ちゃんは枷をされていた手首や口元を擦り、一度伸びをした。


「あ、そうだ。お前、傷の具合はどうだ」


「………む」


 俺の質問を受けた仔猫ちゃんは額に巻かれた包帯に手を伸ばして爪を立てる。

 スッと指を引けば、包帯はぷつりと切れて床に落ちた。


「…………いい腕だ。跡も残っていない」


「そりゃ良かった。女の肌に傷跡残すのはヤだから、神経すり減らした甲斐があったってもんだ」


「…………む?」


 自分の額を撫でていた仔猫ちゃんは、俺の言葉に怪訝そうな目を向ける。

 そのまま数秒俺の顔を見ていたが、その目が徐々に見開かれた。


「……そう言えば、私の傷を治療したのは…」


「主に俺だな。あっちで煙草吸ってる奴にも手伝ってもらったけど」


「あたしはついでかい」


 騒ぎで目を覚ましていたらしく、ベンチで煙管を咥えていたギンが不満気に煙を吹いた。


「………ということは…!」


「剥かにゃ治療なんか出来るか」


 それだけ言って肩を竦める。


「…………もう…嫁に行けん…ッ!」


 顔を真っ赤にした仔猫ちゃんはぶしゅぅ、と煙を上げてテーブルに突っ伏した。

 ……やれやれ、吸血種ノスフェラトゥ生娘ガキばっかかよ。

 閑話休題それはともかく


「あ、そうだ。あんたら丸3日寝てたわけだが、腹減ってるだろ?」


「え?……そう言われると、そうね」


「………なんだ、捕虜に食事を与えるのか」


「捕虜て。ンなぞんざいな扱いはしてねぇだろ」


 薄々思ってたけど、仔猫ちゃんの思考様式はかなり偏っているらしい。

 良くも悪くも裏表が無いって事なんだろうけど、こういう奴ほど味方に付けておきたい。


「ジェエエェェイク」


「あいよ」


 俺の呼びかけにジェイクは背を向けて厨房に向かう。

 あ、違う違う。確かに飯だけど。


「今回は俺が作るからいい。手伝いも要らん」


「……………なに?」


 俺の言葉を聞いたジェイクは珍しく目を見開いた。

 同時に食堂に居た宿泊客達もガタガタと音を立てる。


「ビットが食事係…だと…!?」

「おい、マジかよ!」

「レアだ…」


 思い思いに客達が騒ぎ出す。

 ………こいつら…。


「お、おい、ビット…」


「………わざわざ言わなくても、お前ら全員分作ってやるよ。大人しく待ってろ」


「イェエエエエェェェイ!!!!!!」


 バカ共が一斉に沸き立った。


「あたしも相伴にあやかるよ」


「ヘイヘイ」


 既にギンは満面の笑みで箸を握っていた。

 コイツ…。


「……え、えぇっと、何故みんなこんなに嬉しそうなんですか?」


 周りのテンションについて行けてない嬢たち吸血種ノスフェラトゥ組は狼狽えながらジェイクにそう問う。

 ジェイクは上着を脱いで用意に掛かる俺を一瞥してから答えた。


「…ジィさんは俺の料理の師匠だ。俺がまともなもんを作れるようになってからは、厨房に立つことは滅多に無くなったがな」


「そ、そうだったんですか…」


 意外そうな目でアルカ嬢達は俺の背中を見る。

 俺はそれを気にすることもなくポケットから結紐を取り出し、ボサボサのざんばら髪を一つに纏めて三角巾を頭に巻いた。

 厨房の引き出しからフリル付きのエプロンを取り出し、腕を通して背中で結ぶ。


 ………うん?


 妙に暑苦しい視線を感じたのでバーカウンターの向こうの食堂に目を向ける。


「………ああして見ると、男とは思えねぇ」

「……アリだな」


 バカ共が超えちゃいけない一線を超えかけていた。

 よし、ちょっとからかってやろう。


「こほん。……すぐに出来るから、待っててね?ア・ナ・タ♪」


 傍にあったトレーを胸に抱き、顔は右斜め45度。目を細めて流し目で腰をくねらせてやや高めの声でそう言ってやると、バカ共が鼻血を出してぶっ倒れた。

 ははははは、そのまま貧血で死ね。





「…………」


 すとととととと、と淀みなく包丁を走らせる。

 乱切り野菜は包丁の腹に乗せてボウルに放り込んで、鍋が沸騰したらぶちまけろー。

 細切れにした野菜は挽肉と混ぜて種にし、生地に包んで蒸し焼きかスープの具材。

 お、牛肉とピーマン。青椒肉絲もいいな。

 鶏はまるごと一羽あったので詰め物にしよう。

 濃い味付けばっかりだし、サラダのドレッシングはレモンベースで塩分油分控えめのあっさり系。

 豚肉も下味は付けずに薄切りにして軽く湯通し、キャベツを添えて魚醤とレモンで。

 カボチャの中身を繰り抜いて種を取り、生クリームと鶏肉、玉ねぎと混ぜて繰り抜いたカボチャの器に流し込む。。

 そんでもって大本命。小麦粉と卵黄、卵白を分けてから混ぜたものと牛乳と砂糖を混ぜた生地を型に流し込んでカボチャと一緒にオーブンに突っ込む。

 ふふふ、コイツで仔猫ちゃんもイチコロだぜ。





「お待たせしましたお客様。本日のディナーでございまーす」


「うおぉぉぉぉ!!!」


 バカ共が沸くけど無視。

 ジェイクとレイラちゃんの三人で料理の乗った大皿をテーブルに並べていく。

 全て並べ終え、俺は適当な席に着き、両手を合わせた。


「そんじゃ、頂きます」


 それを合図に、皆一斉にフォークや手づかみで料理を口に運んでいく。


「………あつっ…美味しい…!」


 肉饅頭にかぶりついたアルカ嬢が、饅頭の中身から溢れた肉汁に悪戦苦闘しながらそう漏らす。


「しつこくない甘さですね……是非レシピを教えて下さい」


 カボチャグラタンに舌鼓を打つジャコだが、お前それ共食いじゃねーの?


「………美味い」


 目を輝かせながら鶏の丸焼きに黙々とかぶりつく仔猫ちゃん。……それ玉ねぎ入ってんだけど、平気なのね。

 元を辿れば吸血種も人間だから代謝に大した違いなんぞ無いんだろうけど。


「うん。美味いねぇ。酒の肴にいい」


 あ、ギンが青椒肉絲をツマミに飲んでる酒って俺のボトルじゃねーか!?

 俺がギンから酒を取り返そうと躍起になる間も他の皆は美味そうに料理を平らげていく。

 その顔は全て笑顔。

 面倒であるのは変わりないが、たまには飯を作ってやるのも悪かねぇな。






「………そろそろかな」


 宴も終盤に差し掛かった頃、俺は再び厨房に戻る。

 焼きあげて氷室に入れている生地がもう冷えてもいい頃だ。

 ミトンを付けて氷室に手を突っ込み、トレーごと取り出すと、型くずれする事無く綺麗に形を保ったスポンジが顔を出す。

 俺はそれを上下に切り分け、間にホイップクリームとイチゴを挟み込む。

 更にスポンジを覆うようにクリームを塗りたくり、その上にイチゴを乗せた。

 ナイフで切り分け、皿にのせる。

 これぞ年頃の少女に取って永遠の好物であり敵である神の食物。

 イチゴのショートケーキである。


「ほい、デザート」


「………………」


「おや、こりゃいい」


 アルカ嬢、ジャコ、レイラちゃん、ギン、そして本命の仔猫ちゃんの目の前にケーキの乗った皿を置く。

 たらふく料理を平らげた少女たちはケーキとにらめっこ。


「ん、優しい甘さだねぇ」


 しかしギンは直ぐ様フォークを手にとってケーキを口に運ぶ。

 やっぱギンくらいのババァになるとカロリーとか気にしないのね。いや、脂肪が全部乳とケツに行ってるからか?


「あんたを焼きあげてやろうか?」


「ごめんなさい」


 失礼なことを考えていたのが分かったのか、ギンは指先に火を灯しながら睨んできた。土下座した。


「…………」


 他の皆は未だにケーキと睨み合いを続けている。


「早く食べないと溶けるぞ」


「……ッ」


 ごくん、と誰かが唾を飲み込む。

 それが引き金になったのか、少女たちは一斉にフォークを手に取り、ゆっくりとケーキを口に持っていく。

 ゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。


「…………………………お…美味しい……………」


 そこからは早かった。

 少女は獣になり、一心不乱にケーキを貪る。

 一分とかからずにケーキは皿から欠片も残さず消え去った。


「よう仔猫ちゃん、夢中になってたけど、そんなに美味かったか?」


「……………」


 俺に声を掛けられ、仔猫ちゃんはビクッと耳を立てながらこっちを見る。

 ケーキの余韻を残すためか、ただ無言でコクコクと首を縦に振った。


「そんじゃ商談の続きだ。お前が俺達に就くなら週イチでこういうデザートを付ける。どうす「仲間になる!!」……商談成立だ」


 言い切る前に食い気味で返事をした仔猫ちゃんに若干気圧される。

 やっぱ女の子にゃ甘味が効果テキメンだな。

 こうして化け猫(ケット・シー)、キーシャ・トレインは俺達の仲間になった。

仲間が増えたよ!やったねビット!

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