拷問?
結構生々しいグロさ。
ご注意下さい。
「………ううっ…!」
決着が付いた直後、アルカ嬢は膝から床に崩れ落ちる。
「アルカ様!?」
自分の怪我も塞がりきって無いだろうに、それを見たジャコがアワアワと彼女に駆け寄った。
「アルカ様!アルカ様!」
「……だい…じょうぶ…というかあんまり大きな声を出さないで…頭に響くから」
突っ伏している嬢は辛そうな声を上げながらジャコに応答する。
意識ははっきりしているようだが、身体を思うように動かせないようだ。
「…よう。お互い死に体だねぇ」
「…ええ。でも、生きてる」
ジェイクに担がれながら嬢の側に寄ってそう言うと、彼女も苦笑しながらそう答えた。
「俺はともかく、他に死人が出てないのは重畳だ」
俺は離れた場所で倒れる仔猫ちゃんに目を向ける。
どうやらギリギリで急所は外れていたらしく、耳を澄まさなければ分からない程度のか細い呼吸音が聞こえた。
「…!化け猫…!」
仔猫ちゃんにまだ息があると分かったジャコの目に険しいものが宿る。
今の今まで殺し合っていた相手だ。確実に始末しておきたいのは分かる。
「待った。仔猫ちゃんにゃまだ利用価値がある」
「………しかし…」
静止をかける俺だが、ジャコは知ったことかと剣呑な目で睨みつけてきた。
主人の安全を第一に考えればここで仔猫ちゃんを殺しておくのは最善だろうねぇ。
けど、それは最上じゃぁねぇんだなぁ。
俺はジェイクの手助けを借りながらアルカ嬢の側に座る。
「アルカ嬢、コイツの身柄は俺が一旦預かる。いいかい?」
「………ええ…お願い…します…」
俺の問いにそれだけ返すとアルカ嬢はゆっくりと目を閉じた。
「アルカ様!」
「しぃー…」
嬢に駆け寄るジャコを阻む。
「すぅ…すぅ…」
「今は寝かせといてやんな」
いきなり吸血して疲れたんだろう、彼女はぐっすりと眠っていた。
一応後でギンに診てもらうか。
俺はそんなことを考えながらジェイクに目を向ける。
「………ジェエエェェイク。なんか食いもん持ってねぇ?」
そう言った瞬間、俺の腹から獣の唸り声と間違えそうな程の腹の虫。
言い方は軽かったが、このレベルの空腹感はやばい。
底をつきかけた魔力を回復させるために仮死状態になりかねん。
正直いつ気絶してもおかしくなかった。
「………あいよ。どうせそんなことだろうと思ったよ」
そう言ってジェイクは腰の袋から銀紙に包まれた棒を数本取り出した。
携行食のチョコバーだ。
「サンキュー!」
有無を言わさずそれをひったくり、銀紙を剥がしてムシャムシャと貪り食う。
ああ、チョコとナッツの甘さが沁みる…。
無心になってチョコバーを腹に収めていき、ものの一分で食い尽くすと俺は仔猫ちゃんに視線を移した。
「ジャコ、まだ血晶魔法は使えるかい?」
「は、はい。でも少し血を流しすぎたのであまり大きなものでなければですが…」
口の周りや指についたチョコを舐め取りながら質問すると、ジャコは若干弱気な返答。
多少でも使えるんなら十分だな。
「これから仔猫ちゃんの応急処置をしようと思うんだけど、暴れられちゃ面倒だから拘束具一式よろしく。猿轡と手枷足枷ね」
「わかりました」
そう言ってジャコは自分の腕に付いていた傷を軽く抉って傷口を広げる。
………わー、ワイルド。
それを横目に俺は立ち上がって仔猫ちゃんの側に寄る。
「……ひゅー…かひゅ…」
「うわー、ホントにギリギリだな」
仰向けにし、傷の具合を見てそう呟く。
辛うじて動脈を外しているので出血は派手だが広く飛び散った印象だ。
血の色も薄いから内蔵にダメージは無さそう。
「ちょいと失敬」
服のボタンをあけて肌蹴させ、状況が状況なら生唾ものの仔猫ちゃんの胸に、指を突っ込んで傷を広げる。
アバラにヒビが入っているが折れて肺に刺さってはいない。
よく見ると傷の隙間に紅い血晶が見えた。
成る程ね。
「斬られる直前に皮下脂肪と筋肉の間に血晶を張ってやがったか。痛かったろうに」
ついでに胸の脂肪が上手いことクッションになったようだ。
これなら縫合すりゃすぐに塞がるかな。
俺は上着のポケットを漁り手のひらサイズの平べったいケースを取り出す。
中身は昔から使っている救急医療キットだ。
中を開き、ピンセットとガーゼ、縫合糸と針とウォッカが入った小瓶を取り出す。
消毒液は切らしていたので代わりに詰めたものだが、度数90超えなので消毒には問題ない。
縫合糸も無くなりそうだな。ギンに新しいの作ってもらうか。
「ビットさん、用意できました」
「ん、ありがと」
ジャコがゴテゴテとした拘束具を持ってきてくれた。
俺を拘束していた鎖を思わせる紅いそれを仔猫ちゃんの手足に取り付ける。
手は縫合の邪魔なので後ろ手にした。
猿轡は後でもいいかな。
酒の小瓶の栓を開け、中身を適当に傷口にぶっかけた。
「っ!?!?!?あがぁぁぁぁぁ!?!?」
傷に染みたのか、仔猫ちゃんは絶叫をあげて目を覚ました。
「…………エグい」
ジャコとジェイクが同時にそう呟く。
医学は専門じゃねぇんだ。ほっとけ。
「がっ…がはっ…!」
「おはようさん。生きててよかったね」
俺がそう言うと、仔猫ちゃんは凄まじい顔で睨んできた。
しかし涙目なので迫力ゼロだ。
「きっ…さまっ…!」
「はいはい。文句も罵倒も後で幾らでも聞いてやるから、今は治療の邪魔すんな。というかお前、俺の首落としてんだから、この程度で文句言うな」
暴れたらまた血が噴き出しかねん。
弱々しく声を上げる仔猫ちゃんを受け流しながら俺は処置を続ける。
ピンセットでガーゼをつまみ、傷口の周りの血を拭き取り始めると、仔猫ちゃんは先程より小さくうめき声を上げた。
リドカインかメピバカインでもありゃいいんだけどねぇ。最悪コカインも可。
無い物ねだりしても仕方ない。針麻酔の心得もねぇし。
縫合糸を針に通し、肩傷の端に突き刺す。
「きさま…な…ぜ…」
「お前にゃ色々訊きたいことがあるんでな。大人しく寝てろ」
「…………」
それを聞いた仔猫ちゃんは目を閉じる。
どうやら再び気を失ったようだ。
起きててうんうん唸られても面倒だから都合がいい。
俺は淡々と応急処置を続けた。
「よし、これで一応死にゃしねぇだろ」
糸を結んでハサミで切り取り、一息つく。
縫い目は均等で歪みも見当たらない。
これなら吸血種の回復力で綺麗に塞がるだろう。
額に手を当てると、汗でびっしょりとぬれていた。
やっぱ他人の傷を塞ぐのは神経すり減らすなぁ。
「ジェイク、帰るぞ。コイツとアルカ嬢頼む」
「あいよ」
ジェイクは俺の指示に頷き、仔猫ちゃんを肩に担ぎ上げるとアルカ嬢の方へと向かう。
俺は医療キットを仕舞って立ち上がり、のろのろと歩き始めた。
…………疲れた。風呂入りてぇ。
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