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遺物/異物《イブツ》

更新が遅くてすみません。

ザ、スランプ。

なんとか今月中に10万字書かねば。

 私がビットさんの攫われている場所に向かう一時間前。

 日が昇り、正午近い時間になっても彼が帰ってこない事に私達は焦りを覚えていた。


「……ビットさん、遅いですね」


 従者のジャコの言葉に私は同意する。

 彼が男娼という特殊な仕事をしていたのは驚いたけど、こんなに時間を取るものかしら?


「………レイラさんに確認しようかしら」


「はい」


 私達はいそいそと部屋を出て一階に降りていった。


「………ねえ、レイラさん…ビットさんの事なんだけど…」


「今ちょっと黙ってて!」


「は、はい」


 私達が食堂に降りて行くと、レイラさんが宿の玄関からバタバタと奥に駆けて行った。

 ジェイクさんがそれを追いかけているのを見るに、レイラさん達もビットさんが帰らない事に思う所があるみたい。

 私とジャコは頷き合って二人の後を追った。


「レイラさん、ジェイクさん…」


「………ジィさんの連れか。どうした?」


 宿の奥にあるジェイクさん達の家の居間に入ると、レイラさんは椅子に座ってテーブルの上に乗っている金属の箱を開いていた。

 側に居たジェイクさんがその熊のような体格を振り向かせ、じろりと私達を見る。

 有無を言わせぬ迫力に一歩たじろぐが、意を決してビットさんの帰りが遅い事が心配だと言うと、ジェイクさんは目を閉じて頷き、顎でレイラさんの方を示す。


「………なに、これ…」


 サビの浮いた金属の箱の中身を見て、私とジャコは目を丸くした。


「ビットが持ってた道具よ。あいつが私達に持たせてたの」


 パチパチとボタンを叩きながらレイラさんが答えた。

 箱に見えたそれは、実際は全く異なる用途を持っているらしい。

 箱の蓋の部分には四角い硝子のような板が嵌め込まれており、その向こうでは『絵が動いている』。

 分かりづらい表現かもしれないが、私に取ってはこう表現するしか無い。

 箱の下の部分は文書作成機タイプライターの様に文字や記号が書かれたボタンが付いていて、ボタンと絵は連動しているみたい。

 大きな円が描かれた内側に、放射状に細かな四角が幾つも並んでいる。

 レイラさんがボタンを叩くと、端の方で赤い点が一つ、ピカピカと点滅した。


「ビットを見つけたわ。町外れの方に居るみたい」


「え…どうして分かったの?」


 レイラさんが振り向いてそう言ったので、私は驚いて問い返した。


「この赤い点は、ビットの今いる場所を示しているの。あいつは常に自分の居場所を発信する道具を持ってて、この箱がそれを受信してる」


「はっしん…じゅしん…?」


 意味の分からない単語に私は首を傾げる。


「私も詳しくは知らない……あいつは『時代と共に廃れた物だ』って言ってた」


 時代と共に廃れた?

 意味は分からなかったが、その言葉で私は彼の口にした事を思い出した。

 『自分は旧時代末期の生まれ』。

 それがもし嘘で無いならば、あの箱のような道具は旧時代の遺産、とてつもなく貴重なものではなかろうか。

 私の驚愕を余所に、レイラさんは目だけでジェイクさんに何かを訴える。

 その目を見たジェイクさんは一つ頷き、部屋の奥へ引っ込んだ。


「付いて行くなら好きにして。人手は多いほうがいいから」


「………付いて行く?」


 私の疑問に、レイラさんは私達をジトッと睨みつけてくる。


「あんたたち、どうせビットに手を貸すとか何とか言われたんでしょ?」


「え…」


 なんで分かったの?


「なんで分かったの?っていう顔してるわね。あいつの言いそうなことだからよ」


 顔に出ていたのか、ため息混じりにレイラさんは私達の疑問に答えた。


「あいつは、自分が面白いと思ったことなら平気で首を突っ込むような勝手な奴よ。あんたたちが何者か知らないけど、あいつが興味を持つような面倒事を抱えてるんでしょ?」


「………」


 淀みなく言い切ったレイラさんに私は目を点にした。

 ………なんというか、ビットさんみたいな洞察力だ。


「ビットに借りを作ると色々と面倒だから、恩を売って損は無いと思うわ」


 レイラさんはそう言うと、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 レイラさんとの話が終わった直後、ジェイクさんが居間に戻ってきた。


「……行くぞ」


「あ、ジェイクさん……!?」


 部屋の奥から出てきたジェイクさんの姿に、私達は目を見張った。

 先程までの寡黙なおじさんという印象から一転、現在の彼は先日の狼藉者とは一線を画する屈強な冒険者らしい姿をしている。

 使い込まれた黒い鋼の重鎧ヘビィアーマーを全身に纏っているジェイクさんの背中には、凡そ人間が持つには規格外の巨大な戦斧が背負われていた。


「……付いてくるなら好きにしろ」


「…あ、待って下さい!」


 あんな重装備で平然としているジェイクさんの膂力に戦慄しつつ、私達は裏口から外に出るジェイクさんの後を追った。





 私達は街の中を全速力で疾走していた。

 ………それにしても…。


「はぁっ…はぁっ…ジェイク…さん…!」


「………どうした?」


 私の制止の声を受けて、私達の前を走っていたジェイクさんが足を止めてこちらに振り返る。

 あんなに重そうな格好でなんで私達より速く動けるの!?


「はっ…はっ…方角は…こっちで合ってるんですか…?」


 切らした息を整えながらそう訊くと、ジェイクさんはコクリと一つ頷く。

 そしてじっと私の顔を見た。


「あ、あの…?」


「………さっきは言いそびれていたが、ジィさんの道具の事はあまり触れ込まないで欲しい」


「…え…?」


 ビットさんの道具って、あの箱の事よね?

 わざわざ言うつもりも無いけれど、ジェイクさんはどうしてそんな事を?


「……ジィさんの事をどこまで聞いた?」


「え?あ、えー、と…」


 ……いきなり問われてすこし躊躇ったけど、私達が吸血種ノスフェラトゥだってこと以外は別に話してもいいよね…。

 彼が常人種とも吸血種とも違う人間だということ、旧時代から生きていることなど、一昨日から昨日に掛けてビットさんと話したことを思い出しながらジェイクさんに答えた。


「………そこまで聞いてたか。ジィさんにしては珍しいな」


 『あまり自分の事を話す事は無いんだが』とジェイクさんは顎を撫でる。

 ………どういうこと?


「ああ、ジィさんは手前ェが普通の人間じゃねぇってことは言っても、旧時代の人間だってのはあんまり口にしないんだ」


 腕を組んで静かにそうジェイクさんは口火を切る。


「なんでも、『今の時代に取って俺と俺が生きていた時代の産物はただの異物でしかない』んだと」


「……異物」


 過去の産物がどうして異物になってしまうのだろう?


「深い意味は俺にも分からん。ガルサで一番付き合いの長いバァさんなら何か知ってるんだろうが、ダチを売る真似をする人間じゃねぇしな」


 『ちゃんと答えられなくてすまん』とジェイクさんは再び顎を撫でた。

 そして表情を引き締めて私達に背を向ける。


「……あんたらの息も戻った様だし、長話はここまでだ。行くぞ」


「っ、はい」


 悠長に話している時間は無いはずなのに、私達が休む時間を作ってくれていたのね。

 ジェイクさんの心遣いに感謝しつつ、私達は再び走りだした。




「……ここか」


 入り組んだガルサの街中を走り通し、私達は町外れの廃屋の裏に出た。

 レイラさんが弄っていた箱の絵を基に、ガルサの位置関係を考えればここだと私達は見ている。


「ビットさん、大丈夫でしょうか」


 ジャコの言葉に私は首肯し、ジェイクさんに目を向ける。


「ジェイクさん、まずは入り口を…」


「そんな暇はない」


 そう言ってジェイクさんは背負っていた戦斧を手に取り、構える。

 …………え?


「ジャコ、伏せて!」


「は、はい!」


 ジェイクさんのやろうとした事を察した私達は慌てて身体を伏せると、ジェイクさんは振り上げた戦斧を力の限り廃屋の石壁に振り下ろした。

 一撃で石壁は粉々に砕け散り、土埃が辺りに巻き上がる。

 私達は崩れた穴へ直ぐ様飛び込んだ。

 直後に私達の目に飛び込んできたのは、鎖に拘束されたビットさんの姿と、紅い剣を振り上げる黒マント姿。


「ビットさん!?」


 私が叫ぶも間に合わず、剣が振り下ろされる。

 宙を舞う彼の頭と一瞬目が合った。

 無音の部屋でごとん、と、一際大きな音を立てて彼の頭は床に落ちた。

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