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尋問

グロ描写があります。

ご注意ください。

「………ぅ…?」


 まぶた越しの光を受けて、ぼんやりと意識が覚醒する。

 頭を振りながら周囲に目を向けると、どうやら此処は町外れの廃屋らしい。

 日が差し込む割れた窓ガラスや、腐った床板がかなりホラー系。幽霊とか出そうだね。今は真っ昼間だけど。

 頭がズキズキと痛むが、二日酔いでは無い。


「………俺にゃ緊縛趣味なんぞ無ェっての」


 全身を縛り付ける、紅の水晶の様な鎖を見てため息を吐いた。

 俺の両足は文字通り地に足を着いていない。

 両手を後ろ手に、宙ぶらりんの状態で鎖で吊り下げられていた。

 そして紅く透き通ったその鎖は鉄でも、ましてや硝子でもない。


「……で、俺になんか用か?吸血種ノスフェラトゥ


「それは貴様がよく分かっていると思うがな」


 ぶら下がった俺を見上げている、この黒マントの血晶魔法ブラッドアーツが創り出したものだ。

 ジャコが使っていた時は手のひらに纏わせる程度だったが、これが本来の血晶魔法の使い方らしい。

 見下ろしながら俺は黒マントを観察する。

 アルカ嬢とジャコの中間程度の体格と高い声。

 マントの所為で襲われた時はよく分からなかったが、やはりコイツは女の様だ。

 フードを被っているので顔立ちは分かりづらいが、肌も綺麗だし、顎が細くて口元もセクスィー。

 左頬にある三筋の傷跡もちょっと色っぽい。

 これで実は男でしたとかだったらちょっとした詐欺だ。いや、俺も女顔なんだけどそこは棚に上げて。


「よく分かっているって、いきなり襲われた身としては、何が何だかわからんのだが」


「恍ける必要はない。貴様が化け提灯ジャック・オ・ランタンと接触したのは知っている」


「……ジャック・オ・ランタン?」


 俺はそれを聞いて首を傾げるが、ジャコの事を示しているとすぐに思い至った。

 化け提灯ジャック・オ・ランタンねぇ。言い得て妙だな。


「………厄除け祭にゃあ、ちと時期が早いぞ」


「…?なんの事かは分からないが、貴様が下衆な冒険者に痛めつけられ、化け提灯がそれを助けたのは分かっている」


 すっとぼけた俺の戯れ言に女は首を傾げたが、どうやら誤魔化されなかった様だ。

 ま、旧時代の残りカスだしなぁ。

 …………ん?

 俺はふと、女の口にした『下衆な冒険者』という単語から違和感を覚える。

 おそらくソイツはアージャを指しているのだろう。

 確かに先日俺は奴に襲われた。

 だが、それを知っているのは当事者であるジャコと俺、後から顔を出したアルカ嬢、そしてアージャと取り巻きたちしか知り得ない筈だ。

 この女が何故それを知っているのか。

 アージャの取り巻き共が漏らしたと考えたが多分違う。

 何故なら、昨日から今日にかけて、『吸血種が出た』という噂をとんと耳にしていないから。

 考えられる可能性は。


「因みに情報源の下衆どもは皆消えてもらった。良かったな、これからは安心して街を歩けるぞ」


 情報が漏れる前にこの女が、奴らを二度と口が利けない様にしたということ。

 自分を含め、吸血種の存在を隠すために。

 三流とはいえ奴らも冒険者だ。ちょっとやそっとで死ぬほどヤワじゃない。

 それをあっさりと殺ったコイツはかなりの手練らしいな。

 ………はぐらかすことも出来なくはないが、恐らくこの女には相手の意志を無視して口を割らせる方法があると思われる。

 そうじゃなきゃ、ものの一日で俺とジャコが接触したなんてバレるわけがない。

 なので俺は。


「………黙ってても無駄らしいな。『排斥派』」


 あっさりバラすことにした。


「………ふっ。その言葉が出たということは、お前は吸血姫アルカードとも接触したということか」


 フードの内側で女の唇が三日月に歪む。

 吸血姫アルカードね。

 どうやらアルカ嬢は俺の思った以上に高貴なお方だった様だ。


「目的は、アルカ嬢達の暗殺か」


「ほう、察しがいいな。………いや、吸血姫たちから話を聞いたか?」


「どうだかね」


 あくまでも自分は無関係という体を崩さず、俺は鎖に繋がれたまま肩を竦める。

 恍けながらも、俺は窓の外へ目を向けた。

 窓から差し込む陽光の角度からして、青猫亭を出てからかなりの時間が経っている。

 ……まだチャンスはある。


「確かに俺は昨日…んにゃ、一昨日か。アンタの言うアルカ嬢やジャコと顔を合わせたよ」


 けどそれだけ、と肩を竦める。

 概要は聞いたが詳しくは知らない。あくまでも蚊帳の外である事をアピールする。

 今は時間を稼ぐことを優先しねーと。


「穏健派と排斥派で吸血種が割れてるのは聞いたけど、それ以上の事は何も聞いちゃいない」


 皮肉げに口元を歪めながら目を細めると、女は疑わしげに頭を揺らす。


「では、吸血姫達の拠点は知らない、と?」


「………どうだろうな?ああ、東の地区から宿を移すとは聞いたな」


 口元を更に歪ませ、クツクツと笑って見せた。

 嘘は言っていない。

 ただ、移った宿が青猫亭だと言っていないだけだ。


「だからさっさと帰して……おおっ!?」


 じゃらんと鎖が揺れ、視線が下がる。

 足がつかない程度に身体を引き下ろされたのだ。

 女はぶら下がる俺に歩み寄って胸ぐらを掴み上げると、フードから覗く赤い瞳で俺を見る。


「貴様、生殺与奪を握られているというのに、私が怖くないのか?」


「生死が掛かってるって点では怖くない。痛いのはヤだけど」


 脅しに平然として答えると、女は訝しげに首を傾げた。

 だって俺死なんし。

 言った所でこの女は信じないだろうけど。


「つまり拷問の類は通用しないと言いたいのか?」


「いや痛いのヤだって言ったじゃん俺。一思いにブッ殺されてもどーってことねーってだけ」


 話が逸れているが、時間稼ぎには持って来いだ。

 出来る限りコイツの興味を引きつけろ。

 そうすりゃ…。


「…………その態度、気に食わないな。まるで貴様の手のひらの上に居るようで」


「さてな、んな大層な真似はしちゃ」「黙れ」


 言葉を遮られ、服の胸元が破られる。

 女は俺の胸に鋭く尖った爪を突き立て、五指で強く引っ掻いた。


「いでっ!?」


 肉が抉れ、胸から血が噴き出す。


「もう口を閉じろ。これ以上貴様の言葉に踊らされるのも癪だ」


「ぐぐ…俺が何も言わなきゃ、情報が手に入らないだろ…?」


 痛みに呻きながらも強がって笑う。


「口の減らない男だ。………もう貴様に訊く必要はない」


 そう言って女は指先に付いた俺の血を舐めとった。

 ………そうか、そういうことか。

 俺はその光景で全てを理解した。

 吸血種ノスフェラトゥは血を媒介にした魔法、血晶魔法ブラッドアーツを用いる。

 自らの血で武器を作り、他者の血で(・・・・・)精神に干渉する(・・・・・・・)

 恐らく女が血を舐めた事で、俺の記憶を読み取ろうというつもりだろう。

 ………詰んだか。

 俺は時間稼ぎに失敗したと肩を落とす。

 直後の事だった。


「…………ッ?……ぐぅっ!!??」


「ん…?」


 俺の血を舐めて数秒後、女は頭を押さえて苦しみだす。


「なんだ…!?なんだ、これは!?」


「………?」


 女は頭を振りながらうずくまり、俺を睨みつけた。


「…お、おい?どうした?大丈夫か?」


「大丈夫か…だと!?」


 俺の心配を余所に、女は俺の両肩を掴んで俺の身体を揺さぶる。


「貴様…貴様は、何故今まで生きていられた!?これ程までの死を体験して、何故生きている!?」


「………!」


 女の乱心の理由がわかった。

 この女、俺の人生の(・・・・・)全てを見やがった(・・・・・・・・)


「お前は……一体何なんだ!?」


 女が大声で問う。


「……………」


 その質問に対して、俺は一度目を閉じ、答えた。


「知りたきゃ、俺を殺ってみな」


「……うっ…!?」


 俺の目を見て女は一歩後ろに下がる。

 今の俺の目は、多分、生気の欠片も感じさせない虚無的なモノになっている。

 そしてその目の意味を、今のこの女は分かっているだろうな。

 だから。


「う…うわぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ッ!」


 俺の首に、血晶魔法の剣を振り下ろしたのは、正解だ。


「…………ビットさん!?」


 剣が俺の頭と身体を切り離す直前、廃屋の壁を突き破ってアルカ嬢達が飛び込んでくる。

 ………タイミングが良いのか悪いのか。

 首を切り飛ばされながら、俺は微妙な心境になった。

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