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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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序章

一番の出だし。

すっごい大事な場面!

分かっている、分かっているんだけど──トイレ行きたい(汗)

 ゴシック建築の城が丘の上に根を下ろしていた。城下には篝火(かがりび)()かれ、町が宵闇に包まれることを拒んでいる。

 喧騒とは縁遠い、夜は静かな場所だ。もっとも、王都に比べればではある。酒場の灯りは控えめで数は少なく、娼婦(しょうふ)の客引きも疎らだ。巡回中の兵士が多いせいか、夜の町としてはかなり消極的に映った。装備の奏でる音が大仰なせいもあるだろう。まるで民草が、物々しげな彼らの存在に畏縮しているようですらあった。

 町はずれにある堅牢な城は、領主の住まいである。


 夜明けも程近い頃、その居住区画に動くものがあった。それは、(はり)の上を歩いていく人物の姿だ。

 服装は黒一色。果ては装身具から武器に至るまで、全てが黒塗り。目元が辛うじて判別できるのは、目出しの頭巾を身に付けているが故だ。まさに、隠密と言った出で立ちである。

 不安定な足場の上で、頭巾の(ひも)が揺れた。足取りは堂々としており、自身が落下せぬことを信じて疑わないようだ。

 時折観察すれば、重装の兵が行き交うことが分かる。仮眠での交替、愚痴(ぐち)をこぼすなどと十人十色の様子である。

 六〇を数える程歩いただろうか、豪奢(ごうしゃ)な衣服を(まと)った男が彼女(・・)の眼下に現れた。恰幅(かっぷく)のいい体型で、余程の大食漢だと思われた。だらしなくこぼれた腹の肉が垂れ下がっている。華美ではあるが、過剰なまでの服飾が却って悪趣味である。

 数多くの装飾品を身に付け、下品な笑みをはりつける。そんな男だった。


 ──領主一人だけね。


 言葉に出さず、状況を反芻(はんすう)。事前に彼の顔は知っていた為、問題はない。あるとするならば、動悸(どうき)である。なにぶん、このような案件は初めてなのだ。有り体に言えば不安しかない。装備は最低限の刀剣に、鍵縄(かぎなわ)などの小道具が少々である。真っ向勝負では話にもならない。

 そもそも目立つようなことがあれば、この仕事は実質上失敗してしまう。邪魔だからといって、彼らを始末して遺体が出てくれば、血眼となって下手人を探すだろう。

 仮に衛兵に捕縛されようものなら、待ち受けるのは有らん限りの(はずか)しめを受けた後の処刑だ。最悪、死ぬまで慰みものにされかねない。

 短剣の柄に手を掛ければ、微かに震えているのが知れた。

 しかし、他に適任が居ないのも、また確かである。


 (はや)る気持ちと、慎重に行動すべきだと言う理性が衝突する。ひとつでも違えれば、待ち受けるのは絶望という名の泥濘だ──そうして、彼女は自身に言い聞かせた。

 背中を嫌な汗が、伝う。

 甘い恋心が顔を覗かせ、想い人への渇望が渦巻く。それが(かえ)って在りもしないおぞましい想像を掻き立てた。

 無事に戻らなくては。強迫観念にも似た思いに胸を焦がす。

 その時、ふと師の言葉が脳裏を(よぎ)った。


 ──『余計なことは考えるな』。そう、周りをよく観察しなくては……。


 彼女は大きく息を吐くと、足運びに細心の注意を払いながら彼の後を追った。

次回から、通常パート。

塵溜めから出立した後になる予定です。


初めての大掛かりな仕事。

誰だ、初めてのおつかいとか言ったの(笑)!

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