終局 ~悔恨の悲憤~
テンポとか、その他色々考えながら書いていました(笑)
特にテンポ。
これがまたままならない!
うまくいっていれば幸いです──では、どうぞ!
これで三章は終わりです(*`・ω・)ゞ
ドミニクはシガールを伴って、王都近郊まで足を運んでいた。臓物が散らかる、悪夢のような戦闘を終えて一月半が経過している。にも関わらず、目抜き通りは以前と変わらぬ賑わいを見せていた。まるであの惨状が何処か遠い国での出来事であると、そう思わせる光景だ。
城へと向かう彼の背中をドミニクが見送る。
「そったら、儂は国さ帰ぇんべ」
「ありがとうございました。ドミニクさんもお元気で!」
「お前もな、無謀な戦い方はやめれ? 死んじまうぞ」
それは彼の本心なのだと、シガールはそう感じた。
他人に傷付いて欲しくない一心なのだろう。集団に在っても和を重視する、そんな男だからだ。何処まで行っても、荒事に向きでは無さそうな人柄である。
好感が持てない訳ではない。
だが、剣を取ると決めた彼とは相容れぬ思想だ。戦わずして、ただのうのうと生きる。それが出来ればどれだけ楽だろうか。自分だけが生き残った──一度ならず二度までも。
「ありがとうございます、ドミニクさん! また何処かで!」
力を求める意思は衰えるどころか、より一層貪欲となっていた。焦燥が心の奥で燻るが、すぐに迷いは不要だと思い直す。
──絶対に負けるものか!
決意を新たにした彼の目は鋭く、通行人が避ける程である。装備が襤褸となっていることもあり、混雑の中にも道が開かれる有り様だった。商人は勿論のこと、街の自警団でさえもがたじろいだ。
何より見てくれが酷かった。その風体たるや、お伽噺に出てくる骸骨騎士さながらである。体力が回復している為に、その歩みは予想以上に力強いわけだ。不気味がられるのも無理はない。
聞けば何処かの古戦場から骸骨騎士が復活、受肉したのではないかと言う荒唐無稽な話までされていた。
好奇半分、畏怖半分の衆人を尻目に、王城へと辿り着く。ゴシック調で描かれるアーチは、柔らかで荘厳な雰囲気をもたらしていた。白亜の外壁と尖塔がそれを引き立たせ、天を衝かんばかりにそびえている。
久々に見たせいか、束の間呆気に取られた。視線を前に戻すと、守衛が四人駆けつけてくるところである。門の手前ではあるが、見た目が見た目だ。止まれと一喝され、即座に前後を挟まれてしまう。長槍を携えていながら、その扱いは熟達した者のそれだ。シガールは、かなりの遣い手なのだと判断した。
「貴様、何者だ! 所属を答えろ!」
「俺は先々月のアバンツァータ侵攻の防衛に当たった者だ。急造の部隊故、仮に混成軍とされていた。部隊長はスブニール殿である」
咄嗟に赤雷の口調を意識した。
果たして、流暢な受け答えに守衛たちはそれぞれ顔を見合わせる。不審な出で立ちではあるが、彼らとて先の侵攻は既知のことだった。
しかし、半ば非正規の扱いを受けていた部隊の事までは分かりかねたのだ。話を通す旨を受けて、シガールは待たされる。さほど待たない内に、城内から戻ってきた一人が言った。
「入れ。団長殿もいらっしゃる。貴殿と話がしたいようだ」
礼を言って中へ入ろうとすると、上擦った声で引き留められる。
「待て。そのままでは宜しくない。甲冑を貸与する故、付いてくると良い」
シガールも、流石に壊れた鎧でのお目通りは避けたかった。何より、ここは王族の住居である。みすぼらしい姿であれば、最悪門前払いも有り得た訳だ。そこまで考えるに至り、彼は話を付けられたことは奇跡に近いと思うのだった。
彼らに連れられ、詰め所で板金鎧を着ける。兜は要らないということだ。暗殺の防止だろうか、向けられる視線も刺すようなものである。
もっとも、今のシガールは丸腰だ。その状態で完全武装の兵士に四方を囲まれるというのは、やや不安であった。
無言に耐えきれず、シガールは口を開く。
「そう言えば、目抜き通りに旨いパン屋があるのを知ってるか?」
「ほぉ……それは何処だ? 私は普段、食にはあまり関心が持てないのだが、是非教えて頂きたい」
「お前が言うのは、中央広場正面に向かって北西のことだろう?」
「違う、教会がある通りのパン屋でだな……」
思わぬことで、守衛との会話が弾む。やれあのパン屋がまずいだの、あそこの娘が美人だのと賑わうことになった。勿論、声は若干落としているが、それでも充分楽しめるものだ。
やがて、個室の前に辿り着く。
促されて訪室すると、そこには碧眼の男が居た。光を帯びて輝く金髪は短めであるが故に、清潔かつ華麗である。立ち居振る舞いは優雅でありながら、一分の隙もない。切れ長の双眸が、シガールを捉える。
「お前か、先の戦いで生き残ったというのは」
「俺は殿に居ました。それでもどうにか生きています」
じっくりと眺められること数分、ついに彼が沈黙を破った。彼こそがシエル王国騎士団の長、ローランその人である。
とは言え、シガールが知るのはその名前だけだ。物心付く前より様々な場所へ移動したシガールだが、彼の功績までは知らない。多くの騎士を統べるのが団長の責務だろうと、そう思われたからだ。
──だが、違った。
目の前の男は、赤雷とどちらが上か判断がつかない。肌を刺す剣気に、彼はたじろぐ。繕っていた口調が素に戻ったのはその証左である。つまるところ、この男は叩き上げの精鋭であり、戦士でもあるわけだ。シガールは言葉に詰まる。
──が、同時に目指すべき高みも定まった。
「……成る程、いい目をしている」
ふと、ローランが相好を崩す。柔和な笑顔に出端を挫かれた。
「想像と全然違いますね」
「よく言われる、『目付きが悪い』とな。まあ、そこまで殺気を放ってくれるなよ? ……俺とて、抑えられんかも知れんからな」
思わぬ言葉に、シガールは沈黙する。
理由は二つある。一つは試していたことがばれたことに対すること。もっとも、こちらは露見することを承知でしていたことだ。さして驚くことではない。
寧ろ二つ目の理由が、彼を慄然とさせた。彼が最後に言った言葉。
控え目に言っても、この場で躍りかかって来そうな空気を感じたのである。本人は警告のつもりだったのだろうが、シガールには最後通牒にしか思えなかったのだ。
固まる彼に、ローランは更に続ける。
「アバンツァータの軍は結局、敗走の報せを受けた我々で対処──撃滅した。……とは言え、前後の状況は現場でしか分からん。分かる範囲でいい、報告をして欲しいのだ」
「分かりました」
シガールは、事細かに伝達をした。合流するはずだった友軍の指揮官が暗殺されていたこと。そして一度撃退したはずの彼らが逆襲し、練度の低い兵が総崩れになったことまでもだ。
暫く考え込んでいた彼が、整った面貌を上げる。
「不足の事態があった訳か。それにしては僥倖な結果だな。助かる。これで事後処理は問題ない」
シガールに王都近郊の詰め所に戻る指示をし、自身も腰を上げた時、思い出したように彼は言った。
「そう言えば、指揮官はスブニールとか言ったか?」
「スブニールさんを知ってるんですか! い、今どこに!?」
「案内しよう。付いてくると良い」
ローランはそう言うと、歩き出した。その顔は何処か物憂げであると感じるが、シガールは気のせいだと頭を振る。
硝子細工の並ぶ、豪奢な本殿を抜け、彼らが訪れたのは地下への入口だ。物々しげな鉄格子があらぬ感情を掻き立て、がなるようだった。
「ちょっと、どういうことですか、ローランさん!」
衛兵に耳打ちし、錠前を外してもらうと、彼は会った方がいいだろうとだけ答える。
居ても立ってもいられず、シガールは灯りも持たずに駆け込む。制止する声も聞かぬふりで通した。
「スブニールさん、何処ですか!?」
湿った風に、衣擦れの音が混じる。そこへ目をやれば、痩せ細った男が居た。髪も髯も伸び放題で、異臭すら感じるが彼の顔には見覚えがある──スブニールだ。
投獄されているせいか、弱っているらしかった。
「シガール! 生きていたのか!?」
掠れた声であるが、僅かに力が籠っていた。格子に手を掛け、シガールは捲し立てる。彼は覚束無い足取りで、シガールの前にやって来た。
「あぁ、良かった。本当に良かった……」
「シガール。君には酷な話だが、彼は流刑となった」
「嘘だろ……」
感動の再会はしかし、終わりを告げる。
ローランの話によれば、状況はどうあれ兵を多数死なせての大敗だ。よって臨時の軍法会議が開かれ、そこで決議された刑罰がそれなのだと言う。勿論、国家の危機に陥りかけたということも加味してのことだった。
民衆に侵略されるという噂が流れれば、大混乱も否定できない。箝口令が敷かれているとのことだ。加えて、傭兵の台頭を快く思わぬ貴族らの思惑が絡んでいる、そんな可能性もあるらしい。何故なら部隊の立て直しは迅速で、被害を拡大させなかった。それは彼の動きがあってこそだ。量刑がやや重すぎる気がしたからである。
そもそも流刑は無人島に罪人を棄てるもの。処刑に比べれば生ぬるいやも知れないが、飢えて死ぬという恐怖が付きまとう、恐ろしい刑罰だ。遠回しに殺すと言うようなものだった。
──シガールが膝から崩れ落ちる。澎湃と伝う涙が、石畳を濡らした。
屋台で食べた軽食が旨いとか不味いとかで騒いだ、他愛ない毎日が懐かしい。
気持ちのいい男たちと笑い合った頃に戻りたかった。
スブニールの彼を案じる言葉が、幾つも投げ掛けられる。過ぎ去りし日々が去来し、悲嘆し、憤激した。
その言葉は怨嗟で上塗りされる。それは他ならぬ自身へ向けられたものだった。滅びの森で救えなかった時と全く同じ気分である。
ローランが地下牢から退出した直後、シガールは床を叩く。自身の腕や掌の骨が砕け、血が吹き出しても尚やめようとしなかった。
──シガールが、吼える。
「ちくしょおおおおおお! うわああああ!」
澎湃……水が逆巻く様子。転じて、水が溢れだすなどの様子を表す言葉。
↑多分コレ常用漢字ではないのではないかと(笑)
改めまして、三章はこれで完結です!
次は三・五章。
赤雷、アルシュとミシェルの三人が、主役です。
時系列で言えば、北方で主人公達が敗走した直後くらいになるかと思われます。
稚拙かとは思いますが、お楽しみ頂ければ幸いです(*`・ω・)ゞ




