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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三章 剣ノ勲
72/120

遺された者

久々の心理描写メインのパート。

巧く書けているか、怪しいですがお楽しみ頂けると嬉しいです!


……おいちょっと待て、元々これチャンバラものだったろ? その企画何処行った!?←自業自得の鑑



 シガールは、味方から離れた場所で立ち尽くしていた。

 否、正確には彼らの骸。その横に(シガール)の姿がある。

 お世話にも、折り合いが良いと言えない間柄ではあるが、末期(まつご)の顔に思いが揺れる。

 あるものは、悪鬼の如き形相を。またあるものは穏やかな表情をしていたからだ。

 思えば、父や母が浮かべていた顔は、心なしか晴れやかだった。彼には、それが釈然としないものに映ったのだ。


 ──守ろうとして、何一つ守れなかったのに……。


 彼の抱えるしこりはそれだった。

 敬愛すべき父の言葉。厳しくも優しい母を守れという命を、遂行することが叶わなかった。結局母は凶刃に貫かれて死亡し、父も同様の──それにしては随分と(むご)い──最期を辿(たど)ったのだ。

 恨まれても仕方ないことをしでかした。そう考える彼は、自身を責めに責めた。だからこそ短い間とはいえ、仲間だった者の死にも胸が痛んだ。

 (くら)い感情が(にじ)み出る。しかし、それは心の奥底に飲み込まれてしまう。

 かつて、赤雷がアルシュと話している際の言葉を思い出したからだ。


 ──死んだら全て終わり。そうやって宣う輩がいるが、そうじゃない。死者ってのは、案外近くで見守ってるもんなのさ。


 アルシュが意地悪げに冷笑を浮かべていたが、赤雷は至って真面目な口調だった。


 ──俺らの国じゃ、魂は不滅の存在でな。直接的に干渉できる訳じゃないが、遺された者の幸せを望んでいる。いつでも笑顔でいられるように、な。


 当時はまだ考えが及ばなかった。

 感情だけが先行し、彼の意見を一蹴することに終始していたのである。アルシュがそれ以上何も言わなかったことから、赤雷にやり込められたと思わないでもなかったのだ。

 ──だが、違う。

 アルシュは彼の真摯(しんし)な態度と、信仰を笑うことが出来なかったのだ。それが差すところは即ち、彼の傷──つまりは、無念の内に息絶えた彼の妻子──を開くことになりかねない。

 今ではシガールもそれとは知らぬだけで、アルシュと同じ考えだったのやも知れない。

 この場でそれを否定すれば、それはそのまま父や母、そしてマジー。かつての仲間たちを切り捨てることと同義になるからだ。

 ましてや忘れるなぞ言語道断。第一に忘れようもない。


 ──この死んでる敵達にも、家族は居るだろうに。……俺は、なんてことを。


 かつて自らが味わった苦痛を、彼らに与えてしまったのではないか。シガールは煩悶した。

 倒すべき怨敵のはずである。

 (ゆる)そうという気持ちとは裏腹に、殺すべしとする非情の念は拭えなかった。()しくも、後者の方が勝っている。それでいて、心がざわつくことは一切ないのだ。真の意味で、彼は自己嫌悪に陥りそうだった。

 自分は、かつて仲間たちを陥れた者と何ら変わりないのではないか。そんな思考が幾度も巡ったからである。

 虫酸が走る思いに、吐き気を催す。

 如何なお題目を掲げたとて、それが人殺しの所業でないなどとどうして言えようか。

 弁明は脳裏を駆け巡れど、それは何処までも空虚なものだった。


 「俺は、ただ──!?」


 そこまで言いかけたところで、シガールの肩に手が置かれる。驚愕しそちらを向けばスブニール。後ろにはレミーらが居た。

 普段彼が目に付かない場所に居ようものなら、声を(あら)らげる男共は、見守るような面持ちをしている。


 「俺も結構若いのを見てきたけどよ。お前、実はこう言うの辛いんだろ。何なら今からでもいい。下働きでも雇うつもりだからな」


 「──え?」


 想定の範疇(はんちゅう)を越えた言葉に、彼は固まる。まるで前線から身を引けと言わんばかりだった為、面食らってしまったのだ。


 「スブニールはな、戦場で壊れていく新入りを見てきたんだ。それこそ何十人とな。シガールにもそうなって欲しくない、こいつはそう言ってるんだ」


 「そうだぞ。何だかんだ言って頭は面倒見が良い」


 スブニールの言葉を継いだレミーに続き、ジルベールまでもが口を開く。

 傭兵連中の幾人かも、案ずるような気配を漂わせていた。よほどシガールが可愛いらしい。妻帯者も数多いことから、自分の子供のように思っているのかも知れなかった。もしくは、死別した我が子に投影しているのだろうか。

 それを差し引いて尚、甘美な誘いだ。きっと居心地のいい職場になる。笑顔が溢れる、誰もが気持ちのいい兄貴分のような男だ。心の傷もいずれは癒えることだろう。


 ──それは、魅力的ですね!


 しかし、喉元まで上がって来た言葉を彼は──心の奥底まで()み込んだ。助けて欲しい、この苦しみを何とかして欲しい。その願いすら退けて。

 平時と何一つ変わらぬ調子で言い放った。


 「大丈夫です! 俺、こう見えても剣を振るうのが性に合ってるみたいですから」


 スブニールは、不承不承(ふしょうぶしょう)と言った様子で了承の意を示す──とはいえ、いっそくどいほどに食い下がってはいたが──とシガールらと一緒に下がる。どうやら、撤収準備に掛かるらしい。


 この時の会話だが、シガールは全くと言っていいほど覚えていない。

 笑顔を浮かべる裏で、自身への呪詛(じゅそ)を延々と紡いでいたからだ。


 (俺が幸せになるなんて、許されない。俺は、皆の無念を抱えて剣を取っている……。敗北は赦されない。剣を捨てるなんて──有り得ない。いつか、必ず誰かを守れるようになってみせる……!)

このパートは、鬱展開自動生成システムの如月と……画面の前の皆さんの提供でお送りします。


シリアスマシマシ、鬱多め。

如月の頭は今日も暗澹としてます(ニッコリ)

↑重症だが、鬱展開書くやつとしては正常orz

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