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2-1

 もっと自信を持ちなさい、と私は昔からよく母に言われていました。

 何をするにも人の顔色ばかりを窺って、能動的に行動することが出来なかった私に、いつも母は苛立っているようでした。

 私が生まれて間もなく父が亡くなって、経済的に厳しくなった事も、今にして思えば理由の一つだったのかもしれません。

 結局、私は母の望むような椋鳥(むくどり)ランにはなれませんした。

 自分がないから、母の望んだ高校まで進学して、母の望んだ相手とお見合いをして、母が望んだとおりに結婚をしました。

 ただ、その事に、殊更不満もありませんでした。

 私には本当に主体性というものがなくて、だから誰かに指示されるのはけして苦ではなかったからです。

 でも、母が死んで、私に指示をしてくれる人がいなくなって、私は自分がどうすればいいのかが判らなくなりました。

 夫にそれを求める事が出来たら良かったのでしょうけど、彼は私に何も望みませんでした。

 ……いえ、一つだけ望んでいたけれど、私にはそれが出来なかったから、何も望まなくなったんです。

 そうして期待を得られなかった現実を前に、夫はやがて他の女性との時間を大切にするようになりました。食事も外で取る事が多くなって、滅多に家に帰って来なくなりました。

 その所為で、私はずっと家の中で一人。

 学生時代の友人とも特に付き合いが続いていたわけでもなく、本当に一人で居る時間が多くて、そこで初めて能動的に何かをしなければならないと思ったんです。

 それで、久しぶりに帰って来た夫に言いました。私も働きに出たいと。

 夫は難色を示しましたが、多少は私への負い目もあったのでしょう。御両親に相談してくれて、私は化粧品会社への就職が決まりました。いわゆるコネ入社という奴ですね。

 正直、こんな有名な企業で働くことになるとは思っていなくて、ちょっと焦りました。やっぱり断ろうとも思いました。正当な方法で採用されなかった方に、申し訳なさも覚えていたので。

 ただ、最終的に、その悪い事も含めて、私は自分の変化を選びたかったから、甘える事にしたんです。

 本当に、良かった。おかげで貴女に会えた。

 一目ぼれでした。なんて美しい方なんだろうって。姿も声も立ち振る舞いも、なにもかもが可憐で儚くて、なのに凛々しくて艶やかでもあって、まるで感動の全てを内包しているようで、私、あの時の衝撃は一生忘れません。

 お話がしたいなって、出来れば仲良くなりたいなって、最初は本当にそれだけでした。あの時の私には、なんの価値もありませんでしたから。

 だから、それが嫌で、私頑張りました。いっぱい優秀な人の髪の毛とかを食べて、その人の優秀な部分を、より効率的に自分に取り込む事にしました。

 ……あぁ、そういえば、この話は誰にもしていませんでしたね。私、昔からそういう体質だったんです。参考にするためにはその人の一部を食べる必要があって、食べれば食べるだけ、それをより深く理解する事が出来ました。

 ちょっと普通じゃないですよね。でも、これがきっとかつては魔法と呼ばれた、特別な才能というものなんでしょう。

 おかげで、私はすぐに周囲と並ぶ事が出来ました。貴女にも興味をもってもらえるようになりました。こんなに無理をしたのは初めてで、拒絶反応に悩まされる日も多くありましたが、こうして貴女の全てを手に入れる事が出来るところにまで辿り着く事が出来た以上、どうでもいい事ですね。

 愛しています。

 誰よりも何よりも美しい貴女だけを、ずっと感じていたいほどに。

 そのためにも、不安要素は排除しないといけません。貴女だけを感じたいのに、貴女以外の事を考えてしまうかもしれないなんて、耐えられませんから。


 だから私、今から九条アカリを殺しに行きますね。


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