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今の私に答えられるものは、はたしてどれだろうか?
色々と見せられてきたが、確信を持てるものは一つだけだった。
他はまだ色々と怪しい。混ざっている記憶もありそうだし、勘違いとかもありそうだ。
まあ、それでも、おおよその推測は出来る。
自分のプロフィールを推測しながら埋めるというのも妙な話だが、それが目覚めるのに必要ならやるしかない。
とはいえ、まだ情報が足りていない気もする。
どれだけ振り返ってみても、最後の質問には答えられる気がしなかったからだ。糸口すらない気がする。
……いや、それとも、もう充分なのだろうか? そもそも忘れていない情報の中に答えがあるという可能性。
「とりあえず、確実なところを埋めておくか」
そう呟いて、私は三番目の質問の記入欄に『女性』という文字を刻んだ。
仮に変声期前の年齢だろうが鏡に映った顔が中性的だろうが、自分の身体を適当にぺたぺた触ればすぐにわかる事なので、これは本当に簡単だった。
これで、あと9問。
――と、そこで、私は紙を抑えるために置いた左腕についていた時計の存在に気づいた。
これは、私のものだ。時計職人によるオートクチュールで、ハナミズキへの就職が決まった際に自分へのプレゼントとして買ったのだ。
……あぁ、そうだ、私は化粧品会社に勤めていた。とにかく男がいない職場に就きたかった。
アカリと別の進路を選んだ以上、それは最優先事項で…………でも、どうして私はアカリと一緒の場所を選ばなかっただろう? ずっとそうしてきたのに、どうして?
それを考えようとすると、急に胸が痛くなった。
考えてもいい事はない。
そんな事より、時計をよく見た方がいい。きっとそう。
私は再び時計に意識を傾けて、それが壊れているという事実に辿り着いた。
針が11時43分47秒で止まっている。
もしかしたら、この時間になにかがあったのかもしれない。
午前なら職場で、午後なら自宅でという事になるのだろうが、残念ながらこの時計にはその表記がなかった。デザイン優先の小物としての価値を私が優先した結果だ。
まあ、特に問題はない。そもそも午前の可能性は低いからだ。もし危険な目に合うとしたら、それは職場でではない。
とはいえ、自宅という線も薄い気がする。だから、帰宅途中と考えるのが自然――と、そこで、私はアカリとの約束を思い出した。
日が変わる前に、彼女と待ち合わせをしていたのだ。
けれど、どういう理由で、そんな夜中に会う事になったのかは覚えていなくて……
「――だから、そんな事どうでもいいでしょう! 思い出す必要なんてない! 全部、排除すればそれでいいだけなんだからっ!」
突然、背後からシズカの怒声が響く。
振り返ると、そこには返り血塗れの彼女がいた。手にしたナイフから、ぽたぽたと血が滴り、白いこの部屋を汚していく。
痛ましい姿だった。
「……シズカ」
「なんでそんな目をするの? あなたが望んだ事でしょ? 全部、あなたが望んだから、だから私は…………もういい。帰りたければ一人で帰れば?」
言って、彼女は背後に現れた扉を開けて出て行ってしまった。
その足跡の傍に、手紙のようなものが一つ落ちている事に気付く。
拾い上げると、それが結婚式の招待状だという事がわかった。
そして、その差出人の名前は九条アカリとなっていて……私は、今全てを埋める事が出来る状態に至ったのだと理解した。
同時に、自分が大きな分岐点にいる事にも気付く。
彼女を追いかけるべきか、それともこのまま席に戻って記入欄を埋めきるのか。
私には、どちらが正しい事なのかわからなかった。
どちらが自分にとって都合がいいのかは、わかり切っていたのに、それでもわからなかったのだ。




