表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンテルジー  作者: タンタタン
第一の戦線
PR
13/16

第12話ただ、信じて…

ボクの身の回りには、常に『死』が着いて回った。

最初はボクが4歳の時だった、昨日まで一緒に笑い合っていた友達が、仲の良かった友達が死んだ。

突然だった。

葬儀の時、ボクの心を支配したのは怒りでも悲しみでもない、底の見えない『虚無』だった。

それを皮切りに、『死』は、尚の事ボクに近づいた。

ご近所さんが炎に飲まれ灰となり、

おじいちゃんが鈍い音をさせながら原型を留めない肉塊となり、

おばあちゃんが激流となった青に呑まれた。

最後には父親も、母親も、弟でさえも、等しく僕の前から姿を消した。

いつからか、周囲のボクを見る目は冷たく、冷ややかなものに変わっていた。

「アイツは『死神』だ」「こっちにくるんじゃない、『疫病神』が」

周りから向けられる容赦のない罵倒、そしてボクの周りからいなくなって行く人達。

それでもボクはその現状を、甘んじて受け入れるしかなかった。

ボクが16歳の時には、ボクは1人になっていた。

そしてボクは、自ら『死』に向かって行く事にした。

ボクは横断歩道の真ん中で立ち止まった。

耳元からけたたましいクラクションの音がする、しかしボクの決意は揺るがなかった。

そのまま、車に撥ねられ、ボクの人生は終わった……筈だった。

――望んだ結果は訪れなかった。 いや、訪れはした。だけどボクはそれでも意識があった。

撥ねられ、轢かれ、潰され、ぐちゃぐちゃになったボクはそれでも尚意識があった。

よろよろと、立ち上がる。

足も轢かれて、潰されていたのでとても歩きづらかった。

ようやく立ち上がった頃には、ぐちゃぐちゃになった身体はほとんど元通りになっていた。

――あぁ、本当にボクは人間ではなくなってしまったんだな

それを自覚した瞬間、頭の中に声が響く。

『―――――――』

ボクの理性は、その一言で消し飛んだ。

そしてその日からボクは、完全に、バケモノになったんだ。


――――――――――――

「んー…これは……」

「これは?」

「キョンシーだね!」

「だからさっきそう言いましたわよね!?」

作戦室に戻ったフォンデュ達一向は、捕獲したキョンシーを、千夏に"鑑定"してもらっていた。

「でもでも〜ちなっちゃんの能力が使えるってことはこのキョンシーちゃん?モンスターじゃなくて〜」

「能力者だと思うよ〜」

「確かにそうですわね…ですがわたくしと出会った時の彼…または彼女は、理性のない…それこそモンスターでしたわ。とても能力者には…」

「も〜フォンデュちゃんは忘れちゃったの〜?」

「?なにを…ですの?」

「フォンデュちゃんが能力に目覚めた時!その時、フォンデュちゃんの能力は暴走してたんだよ〜!」

フォンデュは咄嗟に息を呑んだ、それはつまり…

「彼、もしくは彼女は、キョンシー…それ自体が能力で、その能力が暴走していた…ということになのかしら?」

「…そのとーり!フォンデュちゃん、百億万点!」

「そんな数字は存在しませんわよ!?」

千夏の一言に咄嗟にツッコミを入れる。

すると千夏はアハハと笑って

「それを言うならフォンデュちゃんだって〜!このキョンシーちゃん、女の子だよ?見たらわかるじゃ〜ん!」

「それは貴方だからですわよ!?」

キョンシーは服装こそ女性のような服装だったものの、そのボロボロの肉体と荒々しい動きで、性別がどちらなのか中々区別がつかなかった。


――――ガタッ


突如、物音が聞こえた。咄嗟にフォンデュは、拘束されたキョンシーの方を見る。キョンシーの目が…開いていた。

「千夏さん…キョンシーが目を覚ましましたわ…」

「わぁ〜!本当だ〜」

「わぁ〜、じゃありませんわ!?……どうですの?」

「暴走は…してないね」

キョンシーはキョロキョロと周りを見渡すと徐に口を開いた。

「…ごめんなさい」

「生きててごめんなさい」

「殺して…ごめんなさい」

今にも泣き出しそうな声で、ただただ謝り続けるキョンシーをみて、フォンデュは思った。

(わたくしと…あの時のわたくしと、似ていますわ…)

キョンシーは、俯きながら、謝罪の言葉を吐き続けている。そのキョンシーに、一歩、二歩とフォンデュが近づいて行く。

「フォンデュちゃん!?」

流石の千夏も少し驚いた。しかしフォンデュはそのままキョンシーの目の前に立ち

「顔を上げなさい!」

キョンシーはビクりと肩を振るわせると、恐る恐る顔を上げる。

涙と、後悔に塗れた顔が、そこにはあった。

「貴方は、何故謝っているんですの?」

「何に、謝っているんですの?」

キョンシーは唇を噛みながら。

「ボクが…殺した…」

「家族も…知らない人達も…」

「沢山…沢山…」

キョンシーはまた俯いてしまう。

「そうですわね」

「貴方は、殺してしまったのかもしれませんわ」

「理性なき獣になって、何もかもを、破壊し尽くしたのかもしれませんわ」

「でも…」

「それは貴方が、望んでやったことでしたの?」

「人を殺したいから、能力を使ったのかしら?」

キョンシーは俯きながら、こう言い返す。

「……違う」

「ボクは、殺したくなんて…失いたくなんて、なかった。望んでなんて…なかった」

「そうですわよね、貴方は、そんなこと望んでなかったはずですわ」

「でも、」

「だからと言って、罪が消える訳ではありませんわ」

キョンシーはさらに俯いてしまう。

「だからこそ、その罪から目を背けては、逃げてはいけませんわ」

「向き合い続け、生き続ける。それが貴方にできる"贖罪"ですわ」

「…わたくしも、一度能力の暴走で、人を殺してしまったことが、ありますわ…」

一瞬の沈黙、

「…え?」

キョンシーが驚いたような顔を見せる

「わたくしも、同じでしたの」

「わたくしも、過去、能力に呑まれて、人を……殺してしまったことがありますわ」

「でも、その時、ある人物がわたくしを、わたくしの心を救ってくれた」

「だから…だから今度は、わたくしが貴方を、孤独には、させませんわ」

キョンシーは顔を上げる

「ボクでも、今からでも、間に合うの?」

「間に合いますわ」

「ッ………!」

キョンシーは、嬉しそうに少し笑った後、泣いた。声をあげて泣いた。キョンシーが泣き止んだあたりで、フォンデュはまた口を開いた。

「そういえばまだ、貴方の名前を聞いていませんでしたわね、キョンシーさん、貴方の…名前は?」

キョンシーは、赤く腫れた瞼で、フォンデュを見つめて

「ボクは…ボクの名前は……」

――――――――――――

ボクの心を、救ってくれた彼女。

ボクのずっと欲しかった言葉をくれた彼女。

そうだ、名乗らなきゃ、ボクの名前を…

ボクの……名前は!

『――――――――』

『―――――――――――――――』

――ボクの頭の中に、また声が響いた。


――――――――――――

その瞬間―――

キョンシーの様子が変わる。

「ッ………ア゛ァ!」

頭を抑え、苦しそうにその場に崩れ落ちる。

「大丈夫ですの!?」

フォンデュが思わず、駆け寄ろうとする、が

「…フォンデュちゃん」

千夏のこれまで聞いたことのない緊張を孕んだ声が

「離れて」

フォンデュの動きを止めた。

「このキョンシーちゃんは…またモンスターになった」

千夏は悲しそうに、そう告げた。

今、フォンデュの目に映るキョンシーの…彼女の顔は、苦しんでいるように見えた。

しかし彼女の身体は、その苦しみに反して、動く。

蜘蛛の糸の拘束から、強引に逃れる。

「フォンデュちゃん!やるよ!」

千夏は覚悟を決めたように、フォンデュに声をかける。しかしフォンデュは、フォンデュだけは信じていた。信じたかった

「違いますわ!彼女は、あの子に戦う気なんてありませんわ!」

「あの子になくても何かしらの力があの子の身体を無理やり動かしてるの!覚悟決めて!フォンデュちゃん!」

拘束から逃れたキョンシーは、最後にフォンデュの方を向き、その時だけは、ほんの一瞬、優しい柔らかい笑みを浮かべて……

「ありがとう」

そう言った気がした。

その後キョンシーは、作戦室から姿を消した。

フォンデュはただ、キョンシーが去っていった窓の外を、見つめ続けた。

作戦室に残っていたのは、2人の少女と、信じた心、そして、割れた窓ガラスの破片だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ