時間稼ぎの交差点
このゲームのステータスは、少し変わっている。
一般的なRPGのように、レベルアップで手に入れたポイントを好きな能力へ割り振る方式ではない。
筋力を上げたいなら筋力補正の付いたスキルを。魔法を使いたいなら知力補正の付いたスキルを。
そんな風に、スキルに付随した上昇値を元に、自身の能力値そのものが変化する仕組みになっている。
まるで、縛りプレイを強制させられているような気さえする。だが、それとは裏腹に、スキルによるステータスを上昇させる能力をもった物もあり、あまり、ステータスの”差”というものを意識してプレイしてなかった。
と、言うよりも、意識させずにプレイさせていることが不自然なほどだ。
スキルを交換するたびに、身体のある場所が、上昇し、また別の場所が、低下するのがアバター内で毎度行っている。筋力が増えたり、技量が上がったり、知力が伸びる。本来なら、その変化に身体が追いつくはずがない。
少し大袈裟に表現するなら、寝たきりの病弱でまともに走ることすらできなかった人が、いきなりアスリート並みの身体能力が手に入ったようなものだ。果たしてその人は、その身体を使いこなせるだろうか。リハビリすらまともにしてこなかっただろうに、身体の使い方を慣らすのは、想像に難くないほどの努力が必要になってくるだろう。
しかし、このゲームでは、それが起きない。スキルを変えた瞬間には、身体能力も変わる。そして次の瞬間には、もう使えている。違和感も、不自由さもない。最初から、その身体だったかのように使いこなせる。まるで、ロボットの機体を乗り換えるように”身体能力”を着せ替えている。そして、その切り替えを意識させることなく身体になじませる。これが、このゲームの凄さを醸し出していると、同時に異常さを孕んでいる。もしや、俺だけが、すぐにステータスを使いこなせる。才能マンなのかと驕ってみたくなるが、そういう訳でもなさそうだ。
なにせ、俺よりも遥かにステータスを急激に増やした存在が、目の間に立っているのだから。
黒髪のプレイヤーキラー。
つい数秒前まで、魔法職だったはずの者。その身体に、今、異常な量の能力値が流れ込んでいる。
自身の速度に、こける様子は無く。溢れる力に押しつぶされるようなことも無い。
俺の中のイメージだと、髪が金髪になって逆立っている気さえしてくる。まあ、これは完全に妄想だけど。どこの戦闘民族だよ…………。
両手で握られた一本の槍。それをまるで玩具でも弄ぶかのように振り回していた。まるで、ペン回しの様に振り回している。膨れ上がった力に身体が振り回されている様子は無いが、それでも、身体の調子を確かめているらしい。その一振りごとに空気が悲鳴を上げていた。風を切る音じゃない。押し潰している。圧縮された空気が弾けるような音。槍が通るたびに周囲の髪や衣服が揺れる。
風圧が届きそうなほどだ。流石に、目を離せそうにない。
それにしても、完全に高を括っていた。
スキルコネクトは使うとクールタイムが倍以上掛かる物もあり、初手で切る物でもないし、それでも、中盤で使うのも躊躇うものだ。不発に終われば、ただの、案山子になるしかない大技を、たとえ仲間がいるとしても雑に使うことがないだろうと思っていた。
やっぱり、プレイヤ―相手だと予測がつかないことがあるもんだ。
「__本当は、このスキルコネクトは鬼を相手に使うために準備してたの。」
黒い髪を揺らし、こちらに話しかけてきた。
__おしゃべりなこって………言葉は返って来ませんよ…。
「__半端な攻撃は通用しなかったから、なら、半端じゃない攻撃ならどうかしらって思って。」
__無視したい訳じゃないんだ……「物凄い脳筋戦法ですね」とか返したいんだ……。
「__貴方が起き上がった時から、ただの、プレイヤーとは思えなくなった。私の知らない力が、発動した事がわかったわ。だから、殺して奪ってあげる。PKの醍醐味だもの。」
__追剥でも、するつもりなのか。この仮面は渡さないぞ!
「__貴方、プレイヤーキラーに会ったことは初めてわよね。なら、[プレイヤーキラー]のスキルを知らないでしょう。教えてあげるこのスキルはね。殺した対象のスキルをランダムに1つ奪うことができるのよ。」
__なんだと! 奪うってそういうことか。アイテムについてるスキルも対象なのか? ずるいなそれは…………。
「__また、[プレイヤーキラー]を倒すと、プレイヤーキラーの所持している好きなスキルを1つ未所持のまま、スキル一覧で手に入れることが可能になるの。」
__なんだそれ、不公平だぞ! プレイヤーキラーのお得そうなんだが。
「__つまり、何が言いたいかと言うとね。」
言葉を詰まらせたと思ったら、暗い圧と同時に刺すような表情。
「__出し惜しみしてたら、絞りとるわよ。」
舐めプしてんじゃねえよと、殺意のこもった熱い視線に、震えあがりそうな感覚が襲う。
__はは、バレてーら…………。
俺がまだ、まともにスキルを使ってないことに。
俺がまだ、まともに戦ってないことに。気づいていたらしい。
目的は時間稼ぎ。だけど、現状の対抗手段がないことが問題だったんだけど。
__怖っわ。
四の五の言ってらんねぇな。出し惜しみしてるわけじゃないんだけど。このままじゃ、無抵抗で殺されそうだ。
ビビり散らかしてたが、いきなり、圧が止む。
殺意の波動というものを初めて感じて感動と恐怖に挟まれてたのに、いきなり消える。
「__時間稼ぎに、付き合ってありがとう。」
さっきまでの表情が嘘だったかのように、圧の無い言葉。
その言葉に被せるように、2つ。言葉が重なる。スキルの発動。
いつの間にか、黒髪のプレイヤ―キラーの後ろに甲冑頭とフードが控え、[疾走]のスキルを発動していた。
あっ。と、思ったのも束の間。
また、2つ力が収束されていく。黒髪へ集まっていく。移動速度の上昇。
さらに強くなり、さらに速くなる。
やっべぇ。完成させちゃった。




