時間を稼ぐ狂気
このゲームを始めたプレイヤ―に、最初に配られる武器種が、3つある。
近距離に対応するための”片手剣”。遠距離を対応するための”杖”。そして、中距離に対応するための物。
長物のためこれまでのフィールドでは出番がなかった武器。
”槍”。
リーチ(攻撃範囲)の長さによる、一方的な攻撃が可能となる代わりに、片手剣に比べると隙の大きい武器だ。片手で扱うなら、薙ぎ払いをメインで使う羽目になるが、本格的に使おうと思えば、突き攻撃が可能な両手に持つ必要がある。牽制のために、片手にはナイフを持っていたいから、今回は片手運用だ。強さ半減ってところかな。
でも、それでいい。俺は、やらなきゃならないことが多いんだ。友達作りが、優先順位としては高いが、他にも、縦ロールさんの戦線の離脱や、鬼の紋章の検証のための前準備。
それを、全部同時にやらなきゃならない。鬼の紋章については、別に後でいいだろと思いかもしれないが、条件があと1つで、完了するんだよ。鬼面のスキル。赤の能力を発動さすれば、紋章を発動することが可能となる。この状態で、発動したら”恰好”が付かないが、今はそんなこと言ってられねえ。
青のスキル。[身代鬼哭]が致死ダメージを耐える食いしばりの効果の様に、赤のスキルも、自分で発動することが少し困難だ。
けれど、これらやらなきゃならないリスト。
友達作りも、戦線の離脱も、鬼の紋章も。同時に解決する方法が存在する。
俺は、”時間稼ぎ”をすればいい。
そう。全ては時間が解決してくれる。
友達作りは、このまま、戦闘を続けてればいいし、戦線の離脱は、俺が移動すればいい。そして、鬼の紋章は時間が解決してくれる。
そのための、武器構成。
ナイフだけでは、受け性能が足らないし、槍だけでは、遠距離に対する牽制が出来ない。
それなら、どっちも、持っちゃえってことで、中遠距離に対応可能な”時間稼ぎ”構成。
先程の攻防でわかったが、相手はこちらのHPを見る手段はなさそうだ。もし、こちらが掠っただけで、死ぬと分かれば、槍の攻撃を許容して、無理やりに攻撃してたはずだからな。
こちらの攻撃に最大限、警戒しているのがわかる。
どちらも、攻撃を食らえば即死するかもしれない。緊張感の中で戦闘してるわけだからな。
__やはり、仲良くなれそうだ。
そんな結論に至った時だった。
槍の間合いから逃れた二人が距離を取る。スキルを切ったのがわかる。[疾走]による左右からの挟撃によって、中方への誘いと、動きを縫い留めようとしていた者達に。
2人にナイフを投げ付ける。
甲冑とフードの2人が同時に、回避を行い、こちらを警戒した目で見つめる。
スタミナが切れたわけではないそうだ。初期値のスタミナではなく、いくらか割り振っているのがわかる。レベルが、どれくらいなのかわからないが、もしかしたら、全てスタミナに振ってるのかもしれない。それなら、槍や、ナイフの攻撃に警戒し大振りに回避した理由に納得する。
あり得るかもしれない予想に、薄く思考する。
そんな考察をしていると。
黒い髪を揺らし、空間を切る様に、言葉が発せられる。
「__スキルコネクト。」
プレイヤーキラー側の一手。大技の合図が響く。
その言葉が聞こえると同時、2人が動き出す。スタミナの回復もそこそこだろうに、俺の周りを走り出す。円を描くように、俺を中心に、囲むように。
これは、黒髪を牽制しようとすると、2人に挟まれ槍を振るう前に近づかれるな。やるなら、2人から対処する必要があるみたいだが、それをしてると大技が__来る。
「__クラススキル[指揮官] × [プレイヤーキラー]。」
……ん?
待て。クラススキルってなんだ?プレイヤーキラーってスキル名なの?
聞いたことの無いスキルが耳に届くと、その訳の分からないスキルに、一瞬動きが止まる。
「__[支配者]。」
しまった。と、思ったときにはもう遅い。スキルコネクトが完成された。
初見の大技。一番止めなきゃいけない行動なのに、スキル名に驚いて動きが止まってることに気づかず考えていた。いや、ずるいよ。気になることしか言ってなかったもの。
クラススキル?クラス。職業…………?
いや、いや。なかったはずだ。少なくともキャラクタークリエイトの場面で、見落としは…………。
結構あったけど。職業欄がないことにはチャンと目を通してたはずだ。ヤバい。どんどん。自分に自信がなくなってくる。
待て待て、今は、戦闘中。考えるな。苦しくなってくる。
「__私に、スキルを寄越しなさい!」
スキルを寄越す?何を言ってるんだ?
スキルは、1人、3つまでだぞ。このゲームの常識だ。いろいろと、裏技はあるがその根本だけは、変わってないはずだ。
甲冑とフードの、2人がスキルを唱える。
それは、聞き覚えのあるスキル。自身でも、いくらか使ったことのあるスキル。
[バカぢから]、[ハイジャンプ]。筋力強化と、跳躍力の強化。
だが、2人にスキルを使ったような、圧力はない。しかし、別の1人の対象の威圧感だけが膨れ上がる。
力が集中している。
まるで、二人のスキルがそのまま流れ込んだように。
もしも、そうなら。爆発のような跳躍力をもち、赤いオーラを纏った暴力の化身が、こちらを見ている。
黒い髪を揺らし、杖を仕舞い。両手に槍を構えている。
__ステータスは、越されたかな…………。
暴力の塊が。
目の前に立っていた。




