友達作りは最初が肝心。
こちらが、起き上がるのを律儀に待っていてくれているらしい。
先程まであった、挑発的な発言が鳴りを潜めて、真っ直ぐこちらを向いている。
この場に居る物だけでも、3対2。縦ロールさんを除いて、弓使いも合わせれば、4対1。
不利だねぇ。でも、見方を変えれば、いきなり、4人と友達になれるかもしれないんだ。逃げる気はないね。
むしろ、チャンスだ。
それにしても、初手で切る羽目になるとは思わなかった。
HPゲージが、ミリ単位なのを確認しながら、そう考える。
頭を貫かれながら、生き残った理由。それは、所謂、鬼面の効果に他ならない。
本来なら、HPは全損して、リスポーンする羽目になっていた。
けれど、それをギリギリで生き伸ばせるスキルを持っているのが、鬼面の力によるものだ。
鬼面は、元々、2つのアイテムが1つの装備になっているせいか、装備効果を2つ所持している。ちょうど、鬼面を真ん中で2つに分かれている。2色。
赤と、青の色で能力が違っている。
今回発動したのは、青のスキル。
[身代鬼哭]。
HPが0になる攻撃を受けた時、HP1で耐えることができる。食いしばりの効果だ。それだげじゃなく、今わかったことだが、全能力が上昇している。もしかしたら、スキル発動によって全能力上昇の効果が乗るのかもな。もしくは、[過剰適応]の様に、HPが減るほど能力は上がるのか。いや、あれは違うか…………。[過剰適応]は制限時間が、HPの幅なのであって、HPの減る割合の幅が能力の上昇と関係はなかったか。要検証だな。
まあいい。今は、このスキルについてだ。
このスキルを発動して気づいてのは、クールタイムがクソ長いこと。たぶん、今回の戦闘でもう一度使えることは、ないかな。チラッと、見ただけで10分程はあった。1戦闘時間にしては長すぎる。長期戦を意識した戦いじゃなければ2回目の発動は絶望的だな。
そして、赤のスキルなんだが…………。
どうやら、奴さんらの作戦会議が終わったらしい。動き出そうとしている。
スキルは後回しだな。まあ、どうせ、鬼の紋章の検証はしなきゃならないんだ。それには、両方のスキル発動が必要になる。
向こう側が動いた。小さく位置を変えている。
武器を構え、仲間同士で視線を交わす。
「なるほど。」
なら、こっちも準備を終わらせるとしよう。
鬼面の検証。スキルの確認。
そして、友達作り。やることは多い。
ゆっくりと立ち上がり。
「さて。」
鬼面の奥で。
「仲良くなろうか。」
もちろん、向こうはそんなつもりではないだろうけど。
…………やっぱり、何らかのスキルなのかね。
矢が当たる瞬間に感じだ、思考が発言に集中するような感覚。それを思い出し、プレイヤーキラーを見つめる。
相手は何も喋らない。
なのに、目配せするだけで位置を変えたり、武器を構えたり。
元々考えていた作戦を伝えていたのか、今、この場で組み立てているのか。
どっちにしろ、後手に回るしかない。もし、こちらが攻め手に回った場合、囲まれてリンチに合うだけだからな。相手の作戦を最初に見切り、完璧に対処して、カウンターを決める必要がある。
ゲームの難易度が、2段階ぐらい上がった気がするぜ……。
初心者が、対。集団戦に慣れたプレイヤーキラー。冷静に考えると酷いマッチングだ。一歩間違えれば、いじめだぞ。
でも、これは仲良くなるための前準備だ。
さあ、魂の殴り合いだ。武器使うけど…………。
そんなことを考えていると、沈黙を破るように声が響いた。
「__どうやら、時間をもらちゃったみたいだけど、そちらから、攻めてもらってもよかったのよ。」
そっちこそ、変なことを言う。
掠っただけで、即リスポーンするような相手に、何を警戒してるのか。
まあ、即死する攻撃を食らっても、生き延びている程だもんな。怖いに決まってるか。
「__ブツブツと。何か喋っていたようだけれど、話す気はないそうね。警戒されちゃったわ。」
はは。また、変なことを言う。
コミュ障がそんな直ぐに問いかけを返せると思うかね。不可能さ。
一朝一夕で治ったら、コミュ障なんてレッテル貼られてないさ。
この場の沈黙が落ちる。互いに動かない。
空気だけが張り詰めていく。
そして。
「__やりなさい。貴方たち。」
その場に居た、2つの影が消える。
いや、高速で移動している。甲冑とフードを被った2人が、黒髪から左右に分かれて挟み込むように駆ける。
この挙動には、見覚えがある。
寅の時と同じ、目ですら捉えることの出来ない高速移動。
だが、俺の目線は対象に釘付けになっている。
対象は杖を持ち、口が動く。何かを喋ろうとしているが、詠唱時間より、この距離なら俺の攻撃の方が早い。近接の届く距離。数歩踏み込めば、武器の範囲以内。
円を描くような開いた、相手の軌道。
無防備な相手の、リーダー。出の遅い魔法の兆候。
狙いを定める。一歩。重心を前へ、踏み出し。
そして、
__まあ、罠だよね。
思考と同時。
高速で、飛翔する物体を捉え、身体の重心を変える。後方へ跳躍。
風を切る音が聞こえ、矢が地面に突き刺さる。土が跳ねるのを見て、確信する。弓使い。やっぱり、狙っていた。
着地と同時にインベントリを開き、取り出したナイフを、対象に投げつける。狙いは殺傷ではない。詠唱の妨害。
その間に、影が迫る。
左右から、高速移動していた二人が間合いへ入る。
インベントリから取り出した武器。今度は、ナイフじゃない物を取り出し。リーチ(攻撃範囲)に物を言わせた横薙ぎ。
風圧が唸りを上げ、2人の動きが止まる。
足の止まった相手。その隙へ追撃。再びナイフを投げつけ、強制的に下がらせる。そこで、動きが止める。
一連の攻防が終わり。静寂。プレイヤーキラーたちがこちらを睨む。
片手にはナイフ。
もう片方には槍を携え。
鬼面の奥で口元が吊り上がる。戦いはまだ始まったばかりだ。
けれど、少しだけ確信している。
__案外、仲良くなれるかもしれない。
|《赤青鬼面・両面》
|赤と青、二つの色を宿した鬼面。
|中央から割れているにも関わらず、
|その断面だけは、不自然なほど綺麗に噛み合っている。
|
|赤は怒りを、青は慈しみを。だが、そのどちらも、
|既に原型を失って久しい。
|
|濁った双眸は、同じ方向を見据えている。
|互いを探すこともなく、
|ただ、その先にある何かだけを見続けていた。
|
|向き合うことを諦めたのか。
|あるいは。
|最後には、同じ景色を見ていたのか。
|
|誰にも、それは判別できない。
|
|二つの色は混ざり合わない。
|だが、最後まで並び立っていた。




