死人に口なし、生者は泣き虫。
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「__あら? もう、終わっちゃた…………。」
仰向けに倒れたプレイヤーを見下ろしながら、私はゆっくりと瞬きをした。
相手のHPゲージを確認することはできないが、”矢”が頭に入ったことは確信している。
ヘッドショット。どれだけHPにステータスを振ってようが、人の弱点は変わらない。
頭部への致命傷。まともに当たった場合、HPは全損する。少なくとも、1日2日程度、レベル上げに勤しんだ程度で、その事実が変わることはない。
拍子抜け。それが正直な感想。
「__もう少し楽しめるかと思ったのだけれど。」
この場所に出てきた者は、3人。私は、無手で話しかけていた。後ろの2人はいつの間にか武器を保持していたけど、どちらも近接武器。
つまり、矢を射ったのは私たち3人の中にはいない。
なら、この矢を放ったのは誰か。簡単な話。私たちは最初から3人ではない。
森の中。もう1人の私たちの仲間がそこで、ずっと狙いを定めていた。
こちらが会話している間も、挑発している間も、照準は一切ぶれない。
そして、相手の意識が完全にこちらへ向いた瞬間。
__気づけなかったでしょう? 私たちが3人だけじゃないことに。
PKを始めた時、最初に思いついた必勝パターン。
ミスディレクションっていう、マジシャンが使う視線誘導のテクニック。
人の意識は案外単純。“見たいもの”を目で追い、“見せられたもの”に縛られる。
まず初めに、私が話しかけながら登場することで視線を集め、意識を向けさせる。その時に、相手が視線を向ける場所は、プレイヤーネーム。プレイヤーキラーを示す赤色が無意識に緊張を作らせる。その次に、後ろの2人が現れることで、視線が分散し、数を意識させる。けれど、視野が広がる前に、2人が私の傍によるため、分散した意識がひとまとめになる。その時点で、相手は無意識に私たちの共通点である赤色を追うようになる。これで、慣らしはおわり。
私が緊張感を高める言葉を放つと同時に、2人は武器を持ち煽るような動きをすることで、情報に目がくらみ、視野は狭まり、色は赤色しか映らなくなる。
そして。
その時にはもう、矢は飛んでいる。
「__呆気なかったわね。」
もちろん、効かない相手もいる。意識が元々何処向いてるかわかんない奴や、複数人いる時。
けど、今回は違う。会話に乗ってくるような煽るような返答をしていたし、数は1人しかいない。そして隣に居たNPCは非戦闘員。お荷物ちゃん。
条件は完璧。これで死んでない方がおかしい。
「__さっさと、身ぐるみ剥いで拠点、建て直さないとね。」
と、いうか。これ、ちゃんと機能しているのかしら?
折れている黒い塔を眺めながら、プレイヤーに近づこうと動いたその時。
足が止まる。足元から、何かが絡みつくような音が響いた。
違う。音は足元からじゃない。辺り一帯から響いている。
次の一歩を踏み出そうとして気付く。足が動かない。
「__え?」
身体が重い。まるで見えない泥に沈められたみたいに。
そして、聞こえる。
泣いている。誰かが泣いている。
いや、違う。
これは__
”哭き声”だ。
何かを失った者の声。何かを守れなかった者の声。
空っぽの、底の抜けたような哭き声が、瓦礫の上を這うように響き渡る。
声が、この場所を支配している。足が、身体が、指が、動かない。
唯一動く、目線だけがその者を捉える。
哭いている。
鬼の仮面。歪んだ片方が、まるで割れた器のように震え、哭き声を漏らす。
青い気配が、地面から立ち上る霧のように漂い始める。
__何……を、起こしたの……?
緊張が、高まっていく。視野は狭まり。色が赤と青しか映らない。
仮面は哭き声を上げながら、ゆっくりと起き上がる。
もう、哭き声は聞こえない。
代わりに──静寂が、恐怖を増幅させる。
仰向けに倒れていたはずの者が。
ゆっくりと、ゆっくりと、起き上がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ダメージの残る頭を押さえながら、身体を起こす。
耳がキンキンする。うるさいな、これ。
HPゲージを確認すれば、残りミリ単位。掠っただけで、即死するHPの量だ。
「このゲーム始めてから、こういうの多いな……。」
死にかけ。瀕死。HP一桁。そんな状況ばかり経験している気がする。
けれど不思議なことに、こういう状態になると妙に頭が冴える。集中力も上がし、反応も良くなる。
死にゲーやってる人なら、理解できると思う。追い込まれるほど、パフォーマンスが良くなる現象。何でだろうな、あれ。火事場の馬鹿力みたいなものだろうか。
今の自分がどれだけ冴えているのかは分からないけれど。少なくとも、さっきより頭は回っている気がする。
プレイヤー。人と話すの緊張しすぎて、相手がプレイヤーキラーなの、忘れてた。
「__私たちはプレイヤーキラー。」って名乗ってくれたから、思い出したけど。会話に集中しすぎて今の今まで、忘れてたよ。人と話すことに意識を取られすぎていた。
プレイヤーキラーだとか、敵だとか、そういう大事な部分が頭から消えていた。
コミュニケーション。恐るべし。
ヤバいな。
変なこと、言ってなかったかな。大丈夫かな。嫌われてないかな。失礼なこと言ってないかな。
思い返そうとするけど、思い返せば返すほど不安になる。
やめろ。やめてくれ。記憶を再生するな。俺の精神が死ぬ。
プレイヤキラー用の会話術なんて、教本に乗ってなかったぞ。サイコパス診断でも、やればいいのか?相手がやってたように、質問形式なら仲良くなれるのだろうか?わからない。さるお方達よ。教えてください。人付き合いの極意を。コミュ力カンスト勢の知恵を。どうか俺に。
くそっ。何のヒントも下りてこない。まだ、俺のコミュ力レベルが足らないというのか!
このままじゃ、誰も幸せにならない戦いが、始まってしまうではないか。こんな、争い。誰も望んじゃいない。悲しい戦いが…………。
__戦い………?
「………はっ! そういえば。」
聞いたことがある。漫画で、小説で、アニメで。
物語じゃ、よく聞く。言葉を交わすよりも、武器を交わした方が相手の言いたいことが伝わってくるという現象があるという。
はっ! 天啓が下った。まさか、戦えと言うのか。言葉ではなく、武器を交わして仲良くなれ。と言うのですか。
「そういうことか……!」
言葉では駄目なんだ。俺にはまだ早いんだ。
だから、戦えと言っている。武器を交わせと。心をぶつけろと。
その先に友情があるのだと。
「なるほど。」
全て繋がった。完璧だ。理論に穴が無い。
…………わかりました。そこまで言うのなら、仕方がない。相手も、乗り気のようですし、これで、仲良くなれるのなら!
「友達100人、できるかな!」
良し! メンタルの調子が戻って来た。完全復活だ。
怖くない方法で、人と話せる。
ならば戦おう。
全力で、本気で、誠心誠意。友達になるために。
「友達になるまで、殴るのをやめない。」




