NPCとの食い違い。
「……お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんですわ。」
目にふちが少し腫れてる、縦ロールさんが頭を下げてくる。
「ああ……。大丈夫、大丈夫。役に立てて良かったよ。」
NPCとは、ただの情報提供者でも、報酬を渡すための装置でもなかった。彼らはこの世界に生きる住人であり、プレイヤーと同じように、それぞれの物語を歩む者なのだと、再確認できた。
自分の意思を持って行動する。これが、出来る時点でだいぶいいAIを乗せていると思うから、結構重要人物なのかなって思ってたけど、このゲーム。普通のモブのモンスターすら、作戦立てて行動するからな。
「本来であれば、もっと相応しい姿でお礼を申し上げるべきでしたのに……。このような有様では、淑女として失格ですわね。」
そう言って苦笑を浮かべると、彼女は表情を改めた。
「それから……大切なお話がございますの。」
「先ほど、壁から助け出していただいたこと。そして、わたくしが探しておりました品まで届けてくださったこと。」
「そのお二つのご恩に対して、きちんと報酬をお支払いしなければなりませんわ。」
彼女は胸元で手を重ね、申し訳なさそうに眉を下げる。
「ですが……情けないことに、今のわたくしは身一つで連れて来られてしまいましたものですから、貴方様へお渡しできるだけの価値ある品を持ち合わせておりませんの。」
「ご恩を受けたまま何も返せないなど、本来あってはならないことですのに……。」
「……申し訳ございませんわ。」
NPCは、ゲームの進行装置ではなかった。けど、それはそれ、仕事を請け負ったのだから報酬はもらいませんと。っと意気込んだはいいものの報酬なしか。
まあ、こうゆうこともあるか。在庫整理が出来たと思っとこ。
そういや、血清の使いかたを教えてもらおうかな。物的な報酬がもらえないならせめて、情報だけでも。
飲むとか言われたら、最悪売るしかなくなりそうだ。血なんか飲みたくねぇ。
「ですので! わたくし、決めましたわ!」
何をだろう?
「この我が家紋入りの”杖”、を渡そうと思いますの。」
「…………つえ?」
杖なら持ってるんだよな。初期装備だけど、プレイヤに最初期に所持させられた装備品。3つあり、その1つが、杖にされている。魔法を使うための媒体ではあるが、実際はその杖が無くても魔法を発動させることができる。初期装備として、配布されているだけに耐久力は保証されている。だから、今更もらってもあんまり意味はない。
「この杖には”氷の魔法”が閉じ込められていますの。この杖の紋と、氷の魔法が我が家との縁を示しますわ。」
「これは、わたくし、からの報酬。お忍びと言い訳を述べましたが、実際はあなたの素性が何処の方なのかわからないため、伏せていただけでしたの。改めまして、申しますわ。わたくし、__「マジか!よっしゃ。」_と申しますの。」
前言撤回だ。”氷魔法”。魔法取得欄の4つに乗ってない、正しく、レアスキルだ。
ちょうど欲しかったんだよね。魔法。
閏尾を完全な遠距離型にしようかと、考えてただけに、これはありがたい。既存の魔法でも良かったんだが、ベストタイミングで、レアなスキルが手に入った。それに、これたぶん武器スキルだろ。”杖に氷の魔法”が閉じ込められてるって言ってたし、いいクエスト報酬だ。
「あの、ちゃんと、わたくしの、名前聞いてましたの?セリフ被ってた気がするんですのよ。」
何か、言われてる気がするが、後だ後。
今は、氷の杖が先だ。詳細を確認する。
|《____の家紋入り杖。》
|由緒ある____家の家紋が刻まれた氷の杖。
|縦ロールの少女より託された品。
|
|氷は記憶する。
|誇りも、後悔も、喪失も。
|だからこそ、この杖が溶けることがない。
|この杖が示す先は、家の栄光か。
|それとも、新たな担い手か。
|
|装備効果:
|武器スキル[氷柱]を取得する。
やっぱりそうだ。武器スキルがある。なら、所持する対象を閏尾に渡すだけで、この杖は使えるな。残子のナイフと同じだ。
試しに、使ってみるか。ぶっつけ本番で、使えなかったら意味ないもんな。
杖を装備し、スキルが変更される。
武器スキルの[氷柱]がセットされてるのを確認して、杖を構え、発動する。
|スキル発動 [氷柱]。
魔法陣が形成され、文字が刻まれていく。陣が完成された瞬間。
地面に広がる霜が、一点へと集束する。小さな音と共に、氷の芽が地面を突き破る。
それは植物の成長にも似ていたけれど、その速度は異常だ。
氷は一瞬で天へ向かって伸び上がる。
「何ですの。一度で成功してしまいましたわ。」
想像通り、いや、それ以上だ。逆さになったつららってのがイメージしやすい。狙った場所の何処にでも生やせそう出し、高さは、3メートル程。生える速度は速いが、動き回る敵に当てるのは難しそうだな。動きの止まる瞬間を狙わないと当たんないかもな。けど、一番の目玉は、フィールドに残るとこ。
自分の意のままに、有利の場所を作ることができることが、この魔法の強みだ。
「楽しみだ。こんなことが、出来るなら、[土魔法]も取ってみようかな。」
有効フィールドの地形戦なんて、[土魔法]の十八番だろ。そう考えながら、スキル取得欄を横目で見ていると__違和感。
「あれ?どうしてだ?”ナイフ”の時は増えてなかったのに。」
スキル取得欄。その中に、[氷魔法]がnewの文字で、表示されている。
「いや、まあ、スキルで使えるならスキルの方がいいんだけど、ステータスも上がるし。」
けど、本格的に、スキルの取得理由が分かんなくなってきたな。スキルと似たような行動をすれば、取得できると考えた時はあったが、ナイフのスキル[残像]はそうじゃなかった。
スキルの、理解か。アリシアも言っていたな。そこに、ヒントがあるのかね。
まあいい。武器を使わないで、済むのならそれの方がいい。スキルポイントも余ってるし、取得します。
スキルの情報は、[水球]とほとんど、変わらないな。
|氷魔法[氷柱]
|スキル使用時、対象の場所に、氷柱を作り出す。
|
|ステータス上昇値
|INT(知力):10
スキルは、アイテムとは違い、情報量が少ないな。シンプルでいいけど。
「こっちでも、使ってみるか。」
「ん?」
疑問符を浮かべる縦ロールさんを一瞥して、そういや何か言ってた気がするけど…………いいか。
大事なことなら、また教えてくれるだろう。
家紋入りの杖を、インベントリに入れる。
これで、スキル欄に空きが出るから、スキルの[氷柱]を入れる。
|スキル発動 [氷柱]。
表示は変わらない。素手の魔法行使。
魔法陣が形成され、少しの間が空いた。その後、文字が刻まれていく。
陣の完成と共に、地面を走った冷気が白い軌跡を描く。先程と同じ、逆向きのつららが出来上がる。
生える速度は変わらないか。高さも変わらない見たいだし、威力の検証ができないのがもったいない。実戦で試すしかないか。
「何ですの!?」
縦ロールさんが、驚いている。何に驚いてるのか知らないけど、検証の邪魔はしないでほしいな。
それとも、何か気づいたのかもしれないな。元のスキルの持ち主だもんな。何か、変わった現象があったのかも。話を聞くか。
「何かわかったんですか?」
「どうして……ですの……? どうやって…………”杖”を使わず魔法を発動したんですの?」
「え?」
どうやっても、何も、スキルを発動したかから何だが。
だが縦ロールさんの表情は、本気で理解できないものを見るそれだった。
お互いの認識が食い違っている。
”スキルを使うのに武器が必要”なのはわかるんだが、縦ロールさんが言っていることでは、
”武器が無きゃスキルが使えない”みたいな言い方だ。
お互いがお互いの、
”現象”と、言動に混乱している。
自身の直感が言っている。この話はスキルの取得や理解に最も近づくための第一歩なんだと。
「__あら、私の拠点で、好き勝手やってる方は、どなた?」
第三者の声が、響く。
背筋に、冷たいものが走る。
杖には、大まかに2種類存在しており。
短杖と、長杖。
杖の長さは威力の高さ、長さと反比例するように威力は低くなるが、短い杖だと、詠唱時間も短くなっている。
今回の家紋入り杖も、初期杖も短杖です。




