紋章が探すところ
瓦礫の隙間へ腕を差し込み、押し込むようにして横へ退かす。
「……っよっと。」
崩れた塔の破片が、地面へ転がる。
「重いな…………。」
動かしている瓦礫は、俺の身体なんか軽く潰せるサイズだ。
自分の身長より何倍もデカい岩塊を押しながら、こんなものが落ちてきたのかと再確認する。
大量に散乱した瓦礫群。その中でも、ひと際大きな残骸の周囲を、俺は重点的に片付けていた。
今俺は、塔の外に来ている。
アレリアから聞いた“紋章”の説明。
それを踏まえて、いろいろ試してはみた。
結果だけ言えば。
「……まともに扱えるものじゃない。」
残子のナイフみたいに、「弱い」とか「使いにくい」とか、そういう話じゃない。
単純に――扱い切れない。
今の俺じゃあ、その強さを引き出せないっていう理由。今まで触ってきたどのスキルや装備より異質だった。
試しに、黒猫の紋章を付けてみたが、確かに、やれることは増えたしやってみたいこともできたが、それを扱うためには、足らない要素がいくつかあった。
黒猫の紋章に限ってだが、1つは、十二支のアイテムを全て扱える状態にする。丑の皮のような、素材アイテムをそのまま使うんじゃなく、ちゃんと武器や防具として完成させ、“扱える状態”へ持っていく必要があるらしい。
そして、もう一つ。
「……[猫に小判]を、もっと理解しろ。ねぇ。」
アレリアから言われた言葉を思い返す。
そのあと、システムの説明欄を穴が開くほど見ていたが、特に説明が変わった様子がない。これでいいのかと、アレリアに聞けば、「__だめ。」と言われた。
何故ダメなのか…………。スキル説明以上に、スキルの事詳しく知ることなんてできないだろうに。
もしかすると、“使い込め”って意味なのかもしれない。スキル説明を理解するんじゃなく、スキルと付き合えってことか。だとしたら、これから俺のスキルはこいつに占領されそうだ。
紋章は、今の俺じゃあ使えない。けど、面白いし、検証し甲斐があった。
__ナーォ。
頭の上から、不思議そうな鳴き声。
「ん?」
視線を向ければ、閏尾がこちらを見下ろしていた。
何でこんなことしてるんだ。たぶん、そう聞いている。
「ああ、それはな――。」
瓦礫へ手を掛けたまま答える。
「”鬼の紋章”を試すために、必要なものを取りに来たんだよ。」
まあ、別に、必須ってわけじゃない。
なくても運用は出来ると思う。けど、それじゃあ”格好がつかない”だろってだけ。
鬼の紋章だぞ?
なら、鬼っぽい装備が欲しくなるに決まってる。
「急いで攻略してるわけじゃないんだ。遊びがあってもいいだろ。」
それに、ドロップアイテムが残ってるかもしれないって気づいたら、意地でも取りに戻りたくなるもんだ。ゲーマーってそういう生き物だ。
あと、瓦礫撤去そのものについてだが、どうやら、そこまで気にしなくていいみたいだった。アレリア曰く、折れた黒い塔は、数日で自然修復されるとのこと。ほとんど、半壊なのに。さすがゲームだ。プレイヤーのケアをしっかりしてる。
そんなわけで、俺は今、瓦礫を広げながら探し物をしている最中だった。
近くの瓦礫をずらしながら、辺りを見る。
だが、アイテムが残っていそうな場所は、もうほとんど残っていない。
視線を上げる。見上げる程に視線を上げ。
そこにあるのは――巨大な残骸。ひと際大きい瓦礫。いや、瓦礫と呼んでいいのか。
折れ落ちた塔の中心部。
ひしゃげ、潰れ、歪んだ黒い外殻。けれど、それはまだ“黒い塔”としての存在感を失っていなかった。
そして、その場所には見覚えがある。最後に、赤鬼が這い出てきた場所。溶けるように崩れ、消えていった場所。
「………あるとしたら、ここかな?」
これを、退かそうとしたら、スキル変えなきゃならないだろうし嫌だったんだよな。
そう思いながら、一歩踏み出しかけた、その瞬間。
気配がする。
一瞬、ゴブリンかと思ったが、塔から出るときに、アレリアは言っていた。鬼が消えるのと同時に、ゴブリンも消えていると。だから、ゴブリンはありえない。
それに、気配がするのは森の方じゃない。
近い。けど、瓦礫側じゃない。
塔でもない。となると――。
「……拠点か。」
忘れていた。そうか。鬼やゴブリンが“塔側”の存在なら、この拠点は別勢力が作ったことになる。
第三者。まさか、塔を壊した奴が居座ってる?
いや、それなら、鬼が戦っていないのがおかしいか。
わからない。
「……なら、確認するしかないか。」
探し物を後回しにし、瓦礫地帯から移動する。
拠点。
そこは、誰かに漁られていたのか、乱雑にものが置かれており、家具なんかは壊されていた。
けど、その拠点の作りは、無駄にしっかりとしているのか、壁や天井に傷はなく、新築のような見た目だ。まるで、モデルハウスをそのまま流用したような。建築だった。
気配の場所に変化はない。微動だにせず、じっとそこに居る。
まるで、こちらを待ち構えているように。
「不気味だな…………。」
通路の奥。
何故か外側から物で塞がれた一室がある。その奥には、扉が1枚。
その扉の奥から、気配がする。
耳を澄ませば、微かな物音。鳴き声なのか、うめき声のような音が、部屋に響いてくる。
…………出してはいけない者がこの中に居るのか?
嫌な予感しかしない。
ナイフを構える。頭上では、閏尾も低く姿勢を落としていた。
いつでも動ける体勢。
塞がれた荷物を退かし、扉の前へ立つ。
一拍。息を吸い。
そのまま、蹴り破るように扉を開いた。
視界の先。
そこにあったのは――。
…………。
…………。
壁から、尻が生えていた…………。
「だれかぁぁぁぁぁっ!! ここから、出してくださいましぃぃぃ!!」
「……………………。」
あっっ。尻がしゃべった…………。
やっと、ここまで来れました!
こんなに長くなるとは思わなかった。




