猫の手借りず、その足止める。
決意を固める。
いつの間にか戻ってきていた光の円――エレベーターに足を踏み入れる。
淡い浮遊感。
その最中でも、思考は止めない。
猫の動き。あの戦闘を、何度もなぞる。
「……攻撃は単純だ。」
低く呟く。
「ひっかく。噛みつく。体当たり。」
どれも直線的。
だが厄介なのは――
「体の柔らかさか。」
あり得ない角度から、この攻撃をつなげてくる。
死角なんて、あってないようなものだ。
だが。
「……必ず、止まる。」
攻撃の前。攻撃の後。
そして、
「アイテムを使う“瞬間”。」
あそこだけは、確実に“間”がある。
「……あそこが、隙だ。」
ぽつりと落とす。
だが同時に、違和感もある。
奴はなぜ、
「……なんで、あいつ。」
眉が寄る。
「アイテム、回し続けてる?」
いや、まぁ………。そうゆうスキルだってのはわかるんだが、十二支すべてのアイテムを使わずとも、強い能力の組み合わせ、そのままで戦えばいい。その組み合わせは、いくらでもあった。
例えば、
子で数を増やし、
丑で耐久を固め、
寅で速度を乗せる。
その好守と数がそろっただけで――詰みだ。
「……それで押し切ればいいだろ。」
実際、それをやられていたら。
今頃、自分はリスポーン回数を使い切っている。
なのに、あいつは“回す”。
使い続ける。
順番をなぞるように。
「ブラフ……にしては、多すぎる。」
一度騙すだけなら十分。だが、あいつは何度も使う。ブラフやハッタリは、真実味を纏うから有効になるわけで、現に俺は騙された。
それはつまり――
「……必要だから、か。」
思考が、繋がる。
丑を使った途端。確かに、子の増殖は止まった。
だが、
寅を使っても、丑の外殻はなくならなかった。
ここにヒントがある気がするが…………。
理由はわからないが”ルール”がそこにある。
やはり、強いスキルにはそれ相応のデメリットがある。
順番。
同時使用数。
切り替えのタイミング。
「……縛られてるな、あいつ。」
小さく、息を吐く。
そして、もう一つ。
「……そういや。」
子の部屋。
あの時。最初は、1匹だった。
そこから増えた。
なら。
「……ボスでも、同じか?」
最初から最大出力じゃない。
ボス部屋でも同じことが言えるんじゃないか。
確信が、形になる。
その瞬間。
浮遊感が、消える。視界が開ける。
ボス部屋へと、たどり着く。
「………さあ。」
一歩、踏み出す。
「二回戦目だ!」
視線を上げる。
猫――複数体。
その姿を捉えた瞬間。
光が、差す。
アイテムが輝き、
外殻を、纏う。
空気が、震える。
「…………。」
沈黙。
ワンテンポ遅れて、
ぺカー。
もう一度光る。
「…………。」
さらに強化。
完全に、“準備完了”の状態。
「……いや、ちょっと待て。」
一拍。
「……そこは、さ。」
額に青筋が浮かぶ。
「プレイヤー来てから、やるやつだろうが!!!」
怒号が、空間を裂く。
それを合図に。
黒い影が、ぶれる。
――戦闘が、再び始まる。
空気が、裂ける。
「――ッ!」
反射じゃない。“来る”と分かっていた。
視界の端。歪む黒。
踏み込み。
「速ぇ……!」
猫の巨体が、距離を潰す。一直線じゃない。
“あらゆるものを足場にしている”。
視線の外へ、滑り込む。
だが――
「……見えてる。」
足を捻る。
|スキル発動 [疾走]
地面を蹴るんじゃない。
“流す”。
真正面から逃げない。
軸を、ずらす。
直後。
ブンッ――!!
空気を裂く爪が、頬のすぐ横を通り抜ける。
遅れて、皮膚が裂ける感覚。
「……っぶねぇ。」
浅い。
だが、十分。“間に合ってる”。
そのまま体を回す。背後を取らせない。視線を、切らない。
風。音。攻撃に乗ってくる。そこに実体がないはずの“流れ”に、乗って移動する。
これは、
「……午か。」
猫は止まらない。
「お前はマグロか!」っと言いたくなるほど、止まらない。
午との戦闘時では、俺の攻撃にすら乗って移動しやがったこの能力。
奴が使うのはせめて、周りの空間。[疾風月歩]にも似た、空も蹴る能力。
「………厄介。」
だが、
「違うな。」
猫は、“止まる”。必ず。
一瞬でも、止まる。
その瞬間。
猫が地に着地し、動きを止める。
そして。背後の円へと、視線を向ける。
アイテムを――選ぶ。
「ああ。」
小さく、息を吐く。
「わかってるよ。」
お前が、選びながらも、“こっちを見てる”ことは。
だから、
|スキル発動 [ハイジャンプ]
跳ぶ。
同時に、インベントリを開き、掴む。
片手剣。
空中で、振りかぶる。
「――行けっ!」
ブンッ!
投擲。
狙いは一点。咥えようとした――申の木彫り。
スキルは乗っていない。だが、跳躍の勢いは乗っている。
速い。一直線。
その瞬間。
猫の視線が、わずかに“逸れる”。
「――そこだ。」
着地。
その瞬間、踏み込む。
ハイジャンプで勢いを乗せても、着地場所は決まってる。
そこさえ捉えられたら俺の動き何て、簡単に追えるだろう。
だが、
減速しない。
「――まだ、続いてる。」
足に残る推進力。
回避のために発動した[疾走]は、生きている。
そのまま、滑り込む。
“死角へ”。
「基礎ステータスは、スタミナに全振りしてんだよ!」
視線が外れた、その”隙”。
一瞬で猫の背後に滑り込む。
「取った!」
振りかぶる。
狙いは、咥えたアイテムじゃない。
その後ろ。
円を描く、“リソースそのもの”。
「――割れろッ!」
|スキル発動 [核震破]
叩きつける。衝撃が、光の表面へと走る。
内側じゃない。
“外が”弾ける。
ビシッ――!!
光の膜が、軋む。
耐える。
だが。
「ッ……!」
押し込む。
耐久の限界。
その瞬間――
パキンッ!!
割れる。
光の壁が、砕け散る。円が、乱れる。
浮いていたアイテムが、弾かれ――崩れる。
「しゃあッ!!」
手応え。
確実に、“崩した”。完全じゃない。だが、いい。十分だ。
「……見えた。」
それが、お前の“限界”だ。




