猫の目に祟り目
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2度目の死。
慣れる気はないが、嫌でも実感は残る。
肺に残るような圧迫感。喉元に引っかかる、あの牙の感触。
__気分はよくない。
視界を上げる。
並ぶ、12の扉。
その前に戻っている。見慣れたはずの光景なのに、
今はどこか、冷たく見えた。
「……あと、一回か。」
小さく呟く。
軽く言ったつもりだったが、
言葉にした瞬間、現実味が増す。
残り1。
「……整理するか。」
目を閉じる。
思考を、強引に切り替える。
まず、“ブラフ”。
「あれ自体は……問題じゃねぇ。」
むしろ、使ってくるのは当然だった。あいつらモンスターの乗せているAIは結構上等なもんだ。下手すりゃ俺より頭がいい。あの性能。正面から潰せる相手じゃない。
“ブラフ”自体は、いい。
問題は――
「……全部、見えてる前提で動いてるってことだ。」
ゆっくりと、言葉にする。
アイテムを選びながら、こちらを捉えていた。
完全な無防備じゃない。
あの瞬間。
“隙があるように見せていた”。
流石に、初見の[疾風月歩]を完全に捉えていたとは思わない。
だが。
__あの”光の壁”。
あれは、完全に読まれていた。
思い出す。
振り抜いた一撃。
確かな手応えのはずが、弾かれた。
アイテムを守っていた、光の膜。
「……あれ、だな。」
目を細める。
あの防御。
“常にあるわけじゃない”。
思考を辿る。
アイテムが円の軌道に“戻るとき”。
あの時には――無かった。
実際、辰の欠片は弾けた。
なら。
「戻る瞬間だけ、無防備……?」
一瞬、そう考えて――
すぐに、首を振る。
「……いや、違うな。」
それだと、辻褄が合わない。
アイテムを掲げた瞬間に水球を撃ち込んだ。あの時は、別個体が割り込んできて“庇われた”。
光の壁があるのなら、水球が来た瞬間、それを無視して攻撃の起点ごと、叩く。
それが出来たはずだ。
だが、あいつはそれをしなかった。
わざわざ、“防いだ”。
「……つまり。」
思考が、繋がる。
アイテムを掲げるときに出るあの光。
あれは、
防御の膜を“解除した瞬間”に発生しているのかもしれない。
……断定はできない。
だけど、タイミングは一致している。
これもブラフだった場合、辛いな。
打つ手が”戻る瞬間”に限定されてしまう。
しかも、それすら――
「……誘いの可能性がある。」
完全に、主導権を握られている。
「……でも。」
目を開く。
その奥に、わずかに光が宿る。
「ルールは、ある。」
完全な自由じゃない。
アイテムは三つまで。
順番も固定。
それに、
「能力を、完壁に使えてるわけじゃない。」
子のアイテム使っても、増殖の速度は遅かった。
丑の外殻も、不完全。
辰の環境も、本来より弱かった。
つまり、
「……劣化コピー。」
制限がある。だからこそ、崩せる。
そこで、ふと。
思考が、別の方向に逸れる。
「……そういや。」
インベントリを開く。中身を、確認する。
空白。
「……やっぱり、か。」
十二支のドロップアイテム。すべて――消えている。
いや、違う。
「……持ってかれてる。」
猫の背後。あの円。
そこにあったもの。
「倒さないと、返ってこねぇってか。」
面倒な仕様だ。
だが――
「逆に言えば。」
あれが、奴の“リソース”。
猫本体の性能は大したことが無かった。
噛みつきで一撃でやられたのはびっくりしたが、動き自体は素直だ。見てから回避は、できる。
アイテムを奪い返せば、ただのでかい猫に成り下がる。
スキルを整理する。
スキル構成は、
[核震破]、[疾走]、[ハイジャンプ]。
遠距離じゃあ、どうしようもないことがわかったから、近接機動力のこの構成。
アイテムを弾いた瞬間。奪えるように。
それに、
「……試したいこともある。」
あの光の壁。
[核震破]が通るのか。内部破壊。
リスクはある。
下手すりゃ、アイテムごと壊れるだろうから。
賭けだが…………まぁいいか。
アイテムの中に、顔を隠すアイテムがなかったから。
物に当たるのは大人げないが
うるせぇ!
期待されて落とされるこっちの身になれってんだ!
宝箱。何度も開けた。
そのたびに、期待して。
――全部、外れ。
「……ふざけんなよ。」
歯噛みする。
たった一つでよかった。
それがあれば、こんな回りくどいことしなくて済んだ。
その感情が、じわりと形を変える。
「……つーかよ。」
顔を上げる。
「なんで“あいつ”が使ってんだよ。」
眉が、歪む。
「ボス戦でアイテム奪うって、どういう神経してんだよ。」
思い出す。
ドヤ顔で使い回される、自分のドロップ品。
「それ、元々“俺の”なんですけど。」
「所有権、俺なんですけど?」
「絶対お前、ドロップ操作してただろ!」
「…………こんの__泥棒猫が!」
吐き捨てる。
胸の奥で、苛立ちが“対象”を持つ。
運じゃない。システムじゃない。――あいつだ。
「……なら、いいか。」
ぽつりと、呟く。
欲しいもんは出ねぇし、
手札は勝手に奪われるし、
だったら――
「壊す。」
短く、決める。
あの光の壁ごと。
あの回ってるものごと。
アイテムが壊れる?
「……知るか。」
どうせ今は、あっちのもんだ。
__この恨みは奴にぶつける。
棍棒を、握る。力がこもる。
「……次で、終わらせる。」
実際は、ただの運ですので”猫”はとばっちりです。




