ふて寝します。
亥の体が、光に変わっていく。
粒子となり、崩れる。
その異様に発達した牙。隆起した筋肉。床を削る蹄。そのすべてが、光へと還元されていく。
「……はぁ……っ」
息を吐き捨てる。
こいつとの戦闘はひどかった。
何せ奴は、[過剰適応]と同じく、自分のHPを削りながら、突進してきた。
自傷強化型。
HPを削りながら、性能を引き上げる。削れるたびに、速くなる。重くなる。止まらなくなる。
「避けるしかねえって、どういうことだよ……」
実際、そうだった。受ければ終わり。弾けない。止められない。
ただ、躱すしかない。
気分は、闘牛士。イノシシなのに。
張り詰めていた空気が、消える。
こちらに放たれていた圧。それからの緊張がほどけるように、亥との戦闘が終わる。
寅の戦闘が終わったあと、
スキルコネクトを軸に、十二支すべてを攻略した。
一体、一体。癖を見て、対策を組み、潰してきた。
達成感?
あるにはある。
だが、それ以上に、
「……疲れた。」
本音が漏れる。
だが、そんなことよりも問題がある。
いくらか、HPを削られたりもしたが、まだ余裕がある。
問題となるのは、
メンタルの方だ。
目の前にウィンドウが現れる。
|「亥」の撃破おめでとうございます。
|次の2つから報酬をお選びください。
|
|・宝箱 ・次の階層に移動する。
「……はいはい。」
反射で、選ぶ。迷う理由がない。
瞬時に宝箱を押す。
「…………おねがいじまず。」
手を合わせる。がっつり、拝む。
誰に?
知らん。
システムにだ。運営でもいい。
「……頼む……ほんとに頼む……」
小声で、ぶつぶつと呟く。
さっきまで勇猛果敢に闘牛士をやっていた奴とは思えない姿。
だが、そんなのどうでもいい。
「…………これで出なかったらッ……。」
言葉が、止まる。続きは、考えたくない。
部屋の中央に宝箱が出現する。
簡易的で質素な箱が今だけは光ってるような気がする。
ゆっくりと、近づく。
一歩。
また一歩。
やけに足音が大きく響く。
「……頼むぞ。」
蓋に手をかける。
一呼吸の後、
勢いよく、箱を開けた。
不貞腐れたまま、床に背中を預ける。
そのまま、だらりと横になる。
「……はぁ」
深く、息を吐く。
体は動く。HPもある。
でも、動く気力が、ない。
視線だけを動かし、インベントリを開く。
戦ってきた獣たち。
そして、その勝利の証。
一つずつ、目でなぞる。
子:増殖してくる敵。アイテムは、何かのナイフ。
丑:クソ硬い体の敵。アイテムは、そいつの皮。
寅:速い敵、初めて殺された。アイテムは、そいつの影みたいなもの。
卯:攻撃が当てづらい敵。アイテムは、そいつの因子。
辰:姿の見えない敵。気づいたらHPが削れてた。あれは戦闘じゃねえ、“環境”だ。アイテムは、エネルギー欠片。
巳:回復してくる敵。アイテムは、脱皮殻。
午:一生止まらない敵。アイテムは、蹄。
未:自己強化しまくる敵。アイテムは、毛。
申:スキル封印してくる敵。スキルが使えないだけで、そこまでだった。アイテムは、”見ざる聞かざる言わざる”の木彫り。
酉:時間がめんどい敵。あれは戦いじゃねえ、拷問だ。アイテムは、鳩時計。
戌:カウンターしてくる敵。アイテムは、何かの核。
亥:暴走列車の敵。アイテムは、血晶。
「……」
しばらく、無言。
並ぶアイテムを、ぼんやりと見つめる。
名前はちゃんとついてるが、今はそれを確認してる余裕はねぇ…………。
ウィンドウを閉じる。
思考を、止める。
「……もういい。」
ごろりと、横を向く。
「アイテムは後回し。」
考えたところで、今はどうにもならない。
無理やり、結論を出す。
「……切り替えろ。」
呟く。
「……切り替えれねえけど。」
間を置く。
「……切り替えろ。」
自分に言い聞かせ、体を起こす。
「これ、どうするんだ?」
そういいながら、ウィンドウを開く。スクロール。確認。
操作する。だが、一向に、次の階層に進む項目は現れない。
宝箱を見たあと、上の天井をみる。
特に変わった様子はない。
「……ヒントぐらい出せよ。」
眉をひそめる。仕方なく、立ち上がる。
亥の部屋から出る。
一歩、外へ。
すると、視界の端が、光る。
淡く光る無数の線が、伸びている。地や壁から、中央に向かって、収束していく。
その光景を見たことがある。
光る線が円を形成し、中央に凹凸が現れる。
天井へと続くエレベーターが上へと導いてる気がした。




