財布に穴が開いている。
丑の扉をしめ、背を預ける。
しばらく、そのまま動かない。
内側からの圧は、もう感じない。
だが、さっきの手応えは、まだ腕に残っていた。
「まともに、攻撃が入らない。」
一度、目を閉じて、戦闘を思い返す。
振るった棍棒。
叩きつけた衝撃。
返ってきたのは、
手応えのなさ。
いや、違う。
「……“弾かれてる”んだよな。」
目を開く。
「音からして、違う。」
思い出す。ガキンッ、という鈍い音。
骨でも肉でもない。
金属の塊を殴っている感触。
「……外殻か、性質そのものか。」
どっちにしろ、厄介だ。
試したことを、順に整理する。
まず、スキル構成。
[バカぢから]、[疾走]、[ハイジャンプ]。
筋力寄りのステータス。正面突破前提の構成だ。
だが、
「通らないもんは、通らない。」
強く振れば壊せる、なんて甘い相手じゃなかった。
むしろ。武器の方が先に壊れる。
「……3本、持ってかれたしな。」
苦く笑う。
一応、魔法も試した。だが結果は、さらに悪い。
近接攻撃とは違い、ダメージが入ってる感覚すらしなかった。
もちろん、近接でも、まともにダメージが入ってるとは思わない。
それでも、ほんのわずかでも、“削れている感触”があった。
だからこそ、棍棒を壊しても殴り続けていたわけだしな。
だが、魔法は違う。手応えが、ゼロだ。
「……相性、最悪か。」
小さく吐き捨てる。
誤算だったのは、相手の耐久力が桁違い過ぎることだな。
だが、そこで思考を止める気はない。
切り替えて、自分のできることを考える。
今ある手札で、何ができるか。一つずつ、潰していく。
[バカぢから]は、ダメだ。確かに、火力は出る。無理やり叩き込めば、ダメージは通るかもしれない。
だが。動きはとろいが相手も攻撃はしている。止まっているわけじゃない。
スタミナ全損してたら回避ができない。
[投擲]は現状、武器が圧倒的に少ない。使いつぶすような真似は出来ない。
ネズミで使った手は有効だ。
だが、それは“一撃で終わる相手”だったから成立した。
「……スキルコネクト」
ぽつりと呟く。
選択肢としては、強い。組み合わせ次第で、突破口は開けるかもしれない。
だけど……博打すぎる。
脳裏に浮かぶ。あのスキル。[過剰適応]
強力。だが、制御不能。
「またあれが出たら……対処、できねえぞ。」
ここで自爆なんてしたら、それこそ終わりだ。
正直、[バカぢから]や[過剰適応]を使えば、ダメージは通ると思う。
だが、それは。
“勝つための手段”じゃない。“削り合って勝ちに行く手段”だ。
そして。今、一番貴重なのは、
「……リスポーン、なんだよな」
視界の端に浮かぶ数字。
残り、3。
これを削るような戦い方は、できない。
「……無駄には、使えねえ」
静かに、思考が研ぎ澄まされていく。
そこでふと、ウィンドウを見れば、レベルアップと新スキルの通知が出てきていた。
さっきのネズミ戦。あれでレベルが上がっていたらしい。
「お!…………とりあえず、基礎ステータスはHPに振って。」
慣れた手つきでポイントを割り振る。即死しないための保険。
今の自分には、それが一番重要だ。
新スキルは何があるかな…………。
|[武技スキル]new [魔法スキル] [強化スキル]new
「お、いいね。」
思わず声が出る。“new”が二つ。
|・[強化スキル](SP;3)
|
|[突進] SP2, [魔力操作] SP2
|・[武技スキル](SP;3)
|
|[片手剣] SP3, [棍棒] SP3, [ナイフ] SP3
ざっと目を通す。
強化スキルは悪くない。だが、今はそれじゃない。
視線が止まる。
[武技スキル]。
まだとったことが無くて、詳細がわからないもの。
そして――
残りSPは、ちょうど3。
「…………いやいやいやいや。」
ダメでしょ。さっき[投擲]取ったばかりだぞ。好奇心に負けて取るバカはいませんって。
否定しながらも、スキルを確認する。
|[棍棒] SP3、
|棍棒[核震破]を取得し、それ以降は、
|SPを消費することで、棍棒の武技スキルの習得を可能とする。
|棍棒[核震破] SP0
|スキル使用時、装備している武器(棍棒)を振り下ろす。
|衝撃を与えた対象に、内部破壊を起こさせる。
|
|ステータス上昇値
|STR(筋力):10
すげぇ…………。説明不足って言葉しか出てこねえ。
まぁこれはあれだ、[魔法スキル]の[水魔法]と同じだ。
[棍棒]という“系統”があり、その中で“技”を個別に取得する必要がある。
気になるワードがある。
内部破壊。
もしも、丑の装甲を無視することができるのなら、
脳裏に浮かぶ丑の姿。
あの外殻。あの“通らなさ”。
「……もし、これが」
外側を無視して――中に通るなら。
「……いや、待て」
理屈としては通る。だが、そんな都合のいい話があるか?
一瞬、躊躇する。
だが。
ゆびは勝手に動いていた。
スキルスロットを開く。
スキル構成は、[バカぢから]、[疾走]、[核震破]。
超攻撃型の構成。
「……試す価値はある」
ウィンドウを閉じる。
棍棒を握る。
そして――
丑の扉を、開けた。
戦闘はあっけなく終わってしまった。
外殻を纏うほどの装甲は、内部からの衝撃に脆かった。
[核震破]を使えば、装甲が壊れ、スキルなしの攻撃でもダメージを与えれた。
相性のいい攻撃やアイテムがあるとあっけなく倒してしまう。
こういう死にゲーじゃあ良くあることだ。それでも、油断は出来なんだけど………。
丑の体が、光に変わる。粒子となって、崩れていく。
完全に…………消えた。
ウィンドウが表示され、選択肢が出る。
|「丑」の撃破おめでとうございます。
|次の2つから報酬をお選びください。
|
|・宝箱 ・次の階層に移動する。
「……まあ、決まってるよな。」
迷わない。宝箱を選択した。
部屋の中央に、宝箱が出現する。
静かに、近づく。
「……今度は、当たり引けよ。」
蓋に手をかける。わずかな間。
そして…………開ける。
中に入っていたのは――
何時間も戦っているボスに、「あれ?これ使ったらよくね。」ってなるとあっけなく勝てるようになる。あの現象。少し、寂しくなりますよね。




