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私が身代わり地蔵を信じる理由

人は、理由もなく何かに惹かれる瞬間がある。

それが偶然なのか、導きなのかはわからない。

ただ、後になって振り返ると「あれが始まりだった」と思える出来事が、確かに存在する。

この話は、私が日枝神社の身代わり地蔵と出会い、

そして二度、人の命に関わる不思議な出来事を経験した記録だ。

特別な力を信じていたわけではない。

むしろ、私はどちらかといえば現実的な人間だ。

それでも、この二つの出来事を前にして、

「信じるしかない瞬間」というものがあるのだと知った。

これは、そんな私自身の体験談である。

これは、私自身が体験した不思議な話だ。

信じるかどうかは、あなたに任せる。

日枝神社の身代わり地蔵を初めて見たのは、十二月の初めだった。

その日は箏曲の練習会があり、帰り道に神社の前を通った。

冬の夕暮れで、空気は冷たく澄んでいた。

ふと視界の端に、赤い旗が揺れているのが見えた。

「身代わり地蔵」

そう書かれていた。

私は特に信心深いわけでもなく、ただ「ここで売っているのか」くらいにしか思わなかった。

そのときは、それだけだった。

しかし、数日後、友人から連絡があった。

友人の友人の祖母が、医者に「もう残り少ない」と告げられたという。

本人は塞ぎ込み、家族もどうしていいかわからない状態だったらしい。

私はその話を聞いたとき、なぜかあの赤い旗を思い出した。

特に用があったわけではない。

ただ、気がつけば神社へ向かっていた。

境内は静かで、冬の風が木々を揺らしていた。

授与所で身代わり地蔵を一つ求め、手のひらに乗せた。

小さな陶器の地蔵で、どこか温かみがあった。

それを友人に渡し、こう伝えた。

「真言宗のおまじない、オン カカカ ビサンマエイ ソワカ。

毎日、水をあげてあげてね」

友人は半信半疑だったが、祖母のためにと受け取ってくれた。

それから数ヶ月が過ぎた。

ある日、友人から連絡が来た。

「医者がね、もうとっくに力尽きてもおかしくないって言ってたのに、

祖母、まだ元気にしてるんだよ。

食欲も戻ってきてさ…なんか、不思議だよな」

私は驚いた。

もちろん、医学的な理由があったのかもしれない。

だが、あの地蔵を渡したときの、あの妙な胸騒ぎを思い出した。

それからしばらくして、また別の話が舞い込んだ。

今度は友人の友人が、がんだと宣告されたという。

若い人だったらしい。

家族は泣き崩れ、本人も絶望していた。

私はまた神社へ向かった。

冬の空気はさらに冷たく、境内は静まり返っていた。

二つ目の身代わり地蔵を求め、手を合わせた。

「どうか、この人を助けてあげてください」

そう祈った。

地蔵を渡すとき、私は前と同じように言った。

「毎日、水をあげてね。

おまじないも唱えてあげて」

一週間後、友人から電話が来た。

声が震えていた。

「誤診だったって。

再検査したら、影が消えてたんだ。

医者も首をかしげててさ…

あれ、本当に…効いたんじゃないか?」

私はそのとき、初めて確信した。

あの身代わり地蔵には、何かがある。

説明できないけれど、確かに“働いている”何かが。

もちろん、すべてが偶然かもしれない。

医学の進歩や、本人の生命力かもしれない。

だが、私はあの二つの出来事を忘れられない。

冬の神社で、赤い旗が揺れていた光景。

手のひらに乗せた小さな地蔵の温もり。

そして、救われた二人の命。

あれは、ただの偶然だったのだろうか。

それとも――。

今でも、私は毎年あの神社を訪れる。箏曲の練習会があるから、身代わり地蔵の前に立つと、あの日の冷たい風と、

胸の奥に灯った小さな光を思い出す。

(完)

身代わり地蔵を手に取ったとき、私はただの偶然だと思っていた。

誰かを救いたいという気持ちが、少しでも形になればいい──

その程度の気持ちだった。

しかし、二度続けて起きた出来事は、

私の中の“偶然”という言葉を静かに書き換えていった。

もちろん、医学的な理由や本人の生命力があったのかもしれない。

それでも、あの冬の日に見た赤い旗と、

手のひらに乗せた小さな地蔵の温もりは、

今も私の記憶の中で確かに光っている。

信じるかどうかは、あなたに任せる。

ただ、私はあの二つの命の出来事を通して、

身代わり地蔵に宿る“何か”を信じるようになった。

そして今も、あの神社に行く度に思う。

あの日、あの旗に気づいたのは、

偶然ではなかったのかもしれない、と。

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