8話
放課後、クラスの掃除当番を終えた真砂静は、大きなゴミ袋を抱えて校舎裏のゴミ捨て場へ向かっていた。
「……やば」
腕時計を見ると。思った以上に掃除が長引いたようで喫茶店でのアルバイトに遅れそうだった。
急ぎ足でゴミを捨て、踵を返したその時だった。
「お前、ちょっと足が速いからって生意気なんだよ!」
体育館裏の陰から聞こえてきた怒鳴り声。
静は反射的に足を止めた。
静が確認すると、優牙がサッカー部の三年生三人に囲まれていた。
「中学では何やっても許されてたかもしれねぇけど、あんま部活舐めんなよ」
三年生の一人が胸ぐらを掴みそうな勢いで詰め寄る。
だが、優牙は表情を変えずに三年生を見ているだけだった。
「………」
黙ったまま、言い返しもしない。
その態度が三年生たちの癇に障る。
「何とか言えよ!」
「………」
「てめぇ、調子乗んなや!」
三年生が拳を振り上げられた。
「ストップストップ!」
静は三年生と優牙の間へ身体を滑り込ませる。
「ちょっと落ち着きましょ?」
「はぁ? お前には関係ないだろ!」
「確かに関係ないですけど」
静は穏やかな笑みを浮かべる。
「三年生が入部したばかりの一年生を三人がかりで責めるのは違うんじゃないですか?」
「こいつの態度が気に入らねぇんだよ!」
「だったら、誰か一人が注意すれば済む話でしょ」
静は淡々と言い返す。
「三人で囲んだら、周りから見たらただのいじめですよ」
三年生たちは顔を見合わせた。
通りかかった生徒も、ちらほらこちらを見ている。
「……ちっ」
「今日は見逃してやる」
「次はねぇからな」
捨て台詞を残して三年生三人は去っていった。
静は小さく息を吐く。
思わず割って入ってしまったが、余計なお世話だったかもしれない。
「大丈夫?」
「はい」
「えーと、余計なことしちゃったかな?」
「大丈夫です」
優牙は怯えてなどいなくて淡々としていた。
本人は特に気にしていないらしい。
しかし、その態度があまりに淡々としすぎていて、逆に静の胸には妙な引っ掛かりが残った。
(何なんだろう、この子……)
整った顔立ちの割に、感情が外に出てこない。
何を考えているのか、まったく分からない。
自分よりも体格が良い上級生数人に囲まれて怒鳴られたら普通は恐怖を抱くものではないか。
「あのさ、水瀬くん」
「はい」
「もしまた先輩たちに何か言われたら、いつでも僕を頼ってよ」
「……え」
静が微笑みながら告げると、優牙は少しだけ目を丸くした。
それから、こくりと小さく頷いた。
「分かりました」
その声はいつもより少し低く、静の耳に心地よく響いた。
「あっ、バイトに遅れる! じゃあね!」
静は慌てて教室へ荷物を取りに行く。
走り去る静の後ろ姿を優牙は見ていたのだった。
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