5話
「……真砂、静です」
新学期初日。
新しいクラスの担任が名簿をなぞりながら名前を呼ぶ声を耳にして、静は小さく息を吐いた。
ここ数年、いや人生で何度目になるか分からないテンプレ通りの光景が今まさに繰り広げられようとしている。
案の定、教壇に立つ中年男性の担任は、名簿と静の顔を交互に二度見した。
「あー……シズカ? 女子生徒かと思って探したぞ。それと、まさご……あ、真砂が苗字か。すまんすまん、『静』が苗字で『真砂』が名前かと思ったよ」
「よく間違えられるので、お気になさらず」
静は穏やかな笑みを浮かべ、淡々と返した。
クラス中にくすくすと笑いが広がる。
真砂 静、高校二年。帰宅部。
173センチの標準体型で、目元が涼やかな綺麗系の顔立ちをしている。
成績は特に猛勉強しなくても学年30番以内をキープできる程度には頭が回り、性格も至って穏やか。
……と、ここまではごく普通の男子高校生なのだが、彼には地味に根深い二大お悩みポイントが存在した。
一つ、苗字の「真砂」を下の名前だと勘違いされること。
二つ、名前の「静」のせいで、書類上や初対面でほぼ確実に女子と間違えられること。
高校二年に進級してもなお、この初見殺しの名前トラップは静の日常に嫌な頻度でつきまとっていた。
「はぁ……。名付けについては分かっていても、せめて漢字だけでももうちょっと男らしければなぁ」
放課後。
静は寮の自室でベッドに転がり、天井を仰ぎ見た。
静の通う高校は全寮制ではないが、遠方出身の生徒のための男子寮がある。
静自身も田舎出身のため、この寮で一人暮らしのような生活を送っていた。
自分の名前に少しだけ溜め息をつき、静はサイドテーブルの文庫本に手を伸ばした。
特にやることもない平日の夕方。
伯母の店でのアルバイトも今日はお休みだ。
静かな時間を過ごそうとページをめくり始めた。




