12話
朝の男子寮の食堂は、どこか独特の雰囲気に包まれている。
朝練を終えて汗を流した運動部員たちが豪快に白飯をかきこむ音や、眠気と戦いながらトーストを口に運ぶ生徒たちの姿。
それぞれのペースで朝の時間を消費していく空間の中で、静はトレイを手に空いてる席がないか周囲を軽く見回した。
「おっ」
空いてる席の向かいには優牙がいた。
優牙は一人、黙々と箸を動かしていた。
ブカブカのTシャツを着て、真顔で焼き魚と格闘している。
周りの賑やかさからぽつんと切り離されたような姿を見て、静は迷わず足を進めた。
「おはよう、水瀬くん。ここ、いいかな?」
静が声を掛けると、優牙は顔を上げた。
「おはようございます、どうぞ」
「ありがとう」
返ってきたのは短く落ち着いた声。
静は優牙の向かいの席にトレイを置いた。
男子寮ではメニューが選べる仕組みになっていて、品数が決まっているので早い者勝ちだ。
静が選んだのはご飯に味噌汁、納豆に玉子焼きという至ってシンプルなメニュー。
優牙のトレイを見ると、山盛りのご飯に味噌汁、焼き魚、納豆に生卵だった。
(小さいのにすごい量食べるなぁ……さすが運動部)
「いただきます」
そんなことを思いながら静も食べ始める。
そこからは、驚くほど無言の時間が流れた。
カチャカチャと食器が触れ合う音と、周囲の雑音だけが二人の間に漂う。
知り合い程度でも会話の一つや二つあってもいいはずだ。
昨日の出来事や今日の予定など話題はいくらでもあるだろう。
だが、静も優牙も黙々と食べ進めていた。
(……静かだ)
気まずいわけではない。
居心地が悪いわけでもない。
ただ、沈黙がそこにあった。
静は味噌汁を啜り、チラリと優牙を盗み見た。
(よく考えたら、僕たちって……お互いのこと、まだ全然知らないんだよな)
ふと、そんな思いが静の頭をよぎる。
静が優牙のことで知っているのはサッカー部ということだけ。
無表情なのは見たまんまなので知ったことにはならないだろう
優牙がサッカー以外の何に興味があるのか何も知らない。
きっと、優牙から見た静もそうなのだろう。
自分より一つ上の二年生で帰宅部。
喫茶店でアルバイトをしている。
静について知ってるのはそれくらいだろう。
「……」
優牙は静の視線に気付く様子もなく、ご飯を頬張っている。
「水瀬くん」
「……?」
口の中に残っていたご飯を飲み込んでから、優牙は首を傾げた。
「口元に米粒ついてるよ」
「!」
静に言われ、親指で口元を拭う優牙。
だが、米粒は取れない。
「違う、そこじゃなくて……じっとして」
静は苦笑しながら立ち上がり、手を伸ばして優牙の頬に触れた。
親指の腹で小さな米粒を優しくぬぐい取る。
「はい、取れた」
「……あ、りがとうございます」
「うん? さっさと食べちゃおうか」
「はい」
静は優牙の口元についていた米粒をそのまま食べたのだが、特に気にせず食事を再開するのだった。
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