11話
前回の特訓で表情を少しでも柔らかくしようと頬の筋肉をほぐすマッサージを提案したのだが、優牙は逃げ出してしまい捕まえることが出来なかった。
自分の前で恥ずかしがっているのか単純に乗り気ではなかったのか静には分からなかった。
もう来ないだろうなと思っていたら優牙は普通に部屋へやって来たので静は呆気に取られていた。
(う~ん……特訓は嫌ではなかったってことかな?)
静は気にしないで、次の特訓へと切り替えることにした。
「よし、じゃあ水瀬くん。次は態度を改善する特訓をしよう」
「……態度」
優牙はどこか警戒するような目を向けた。
「うん。やっぱり第一印象は返事からだよ。ほら、水瀬くん。返事は元気よく!」
「………」
しんと静まり返る部屋。
優牙は静の顔をただじっと見つめ返してくるだけだ。
「水瀬くん、『はい』は?」
「はい」
「元気ないよ! ほら、僕を呼んでみて!」
「真砂先輩」
「はい!」
静がお手本として元気に返事をしてみせる。
「……聞こえてます」
「そうじゃなくて!」
思わずズッコケそうになるのを堪え、静は自分の額を押さえた。
「水瀬くん、サッカー部で返事について注意されたりしないの?」
「………」
優牙の目がわずかに泳いだ気がした。
「……されてるんだ」
「別に」
「水瀬くん。『はい』と『いいえ』だけでもはっきり言えるようにしよう? それだけでもサッカー部の先輩たちと上手くやっていけるはずだし」
「………」
静は提案するが、優牙は乗り気ではないようだ。
(あ……これ、押し付けかも)
静自身は帰宅部で、優牙はサッカーだ。
置かれている状況も、背負っているプレッシャーも全然違う。
「……しゃしゃり出てごめんね。でも、少しでも改善して水瀬くんが厄介事に巻き込まれなくなったら、サッカーに集中出来ると思ってさ」
静はぽりぽりと頬を掻き、苦笑した。
「でも、僕は水瀬くんのサッカー部や委員会とかの先輩ではないから無関係だよね。無理強いは嫌だよね」
静としては良かれと思ってやったことだが、出しゃばり過ぎて断りづらい優牙を困らせてしまったのかもしれない。
静は反省するのだった。
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