10話
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トントン、と控えめに静の部屋のドアをノックする音。
「待ってたよ」
「どうも」
静の部屋にやって来たのは優牙だった。
「部活、お疲れ様」
「いえ」
「お茶でも飲む?」
「お構いなく」
「そう? じゃあ、早速始めようか」
優牙を静の部屋に呼んだのは静だった。
優牙の表情と態度が少しでも改善されるように静は動くことにした。
静の提案は断られるかと思ったが、優牙は「分かりました」と了承した。
二人っきりになれる場所と考えた結果、どちらかの部屋に集まることにした。
優牙の部屋でも良かったのだが、サッカー部の優牙はいつ自室に戻るか分からないので優牙に静の部屋へ来てもらうことになったのだった。
「今日はちょっと、水瀬くんの表情の特訓をしようと思うんだ」
「表情の特訓?」
優牙は首を傾げた。
相変わらず表情は一切変わっていないが、まばたきの回数が増えたので、おそらく疑問に思っているのだろう。
「うん。水瀬くん、自分では表情豊かなつもりだって言ってたでしょ? でもね、周りから見るとやっぱり分かりづらいんだよ。勿体ないなと思って」
「……つもりじゃないんですけど」
「うん、それは聞いたから分かってるよ。そこでさ、表情筋が柔らかくなれば表情が顔に出やすくなると思うんだ」
「どうやって?」
「専門じゃないから断言は出来ないんどけど、頬っぺたの筋肉をほぐせば良いと思うんだよね。こうやって……」
静はお手本として、自分の両頬を両手で揉みほぐしていく。
「…………んぐ」
小さな喉を詰まらせたような音が聞こえた。
「へ?」
静が手を止めて優牙を見ると、右手で口元をおさえていた。
「水瀬くん……もしかして今、笑った?」
「……笑ってません」
「嘘だ。絶対笑ったでしょ! 今、『んぐ』って言ったもん!」
「喉が鳴っただけです」
「いーや、絶対笑った!」
「っ!?」
静は水瀬くんの両頬に両手を添えた。
「僕がやっても意味ないよね。こうやって、痛くない程度に引っ張ったり上下左右に揺らしたり……」
「………」
「……って、水瀬くんの頬っぺた僕より柔らかくない?」
静は自分の頬に触れた後なので、優牙の頬の方が柔らかいことに気付く。
「う~ん……なんでだろ?」
「………」
むにむにと優牙の頬を触ります続ける静。
「あ、使ってないから逆に柔らかいのかも?」
「………」
「こういうのってネットで検索したら出るのかな? 図書室で調べた方がいい?」
「ましゃごしぇんふぁい」
「!」
はっと我に返る静。
「ごめんっ。僕が水瀬くんにやっても意味ないよね! 水瀬くんが自分でやらないと」
「………」
静が手を離すと、両手で両頬をおさえる優牙。
「やらないの?」
「ここではちょっと……」
「え」
「自分の部屋でやります」
静の部屋を出て行く優牙。
「ちょっ、待って待って!」
部屋の施錠をして、慌てて優牙を追い掛ける静だった。
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