第31話 強制休暇
あのドロップキックから、すでに丸三日が経過していた。
スタート村の冒険者ギルド、ギルドマスター執務室。
ローウェンは相変わらず生気のない瞳で、執務室のドアを押し開けた。その後ろには、不満げに口を尖らせたリネアが続いている。
室内では、トゴルトがとうに両手を後頭部で組み、悠然と壁にもたれかかって彼らを待っていた。
「ギルドマスター。今日の事後処理のリストを渡してください」
ローウェンの語気はいつも通りだった。三日前に彼の心は確かに少し揺れ動いたが、骨の髄まで染み込んだ仕事人間の性は、そう簡単に治るものではなかった。
しかし今日、バルガスはあの分厚い書類の束を差し出そうとはしなかった。
傷だらけの筋肉ダルマであるバルガスは腕を組み、ギルドの真っ赤な公印が押された羊皮紙を、机の上にバンッと力強く叩きつけた。
「よく聞け、ローウェン。これは一ヶ月間の『強制休暇令』だ」
バルガスは大声で宣言し、反論を許さない上官の威厳を漂わせた。
「今日から、お前とリネアは今すぐさっさと休みに行きやがれ! トゴルト、お前もついて行って、この厄介者二人をしっかり見張ってこい!」
壁にもたれていたトゴルトは、面白そうにヒューッと口笛を吹いた。
「断ります。俺たちが全員休んだら、村の事後処理はどうなるんですか? あのヒヨッコ共がやらかした尻拭いは誰がやるんです」
ローウェンは即座に拒否した。
「その点なら心配いらねえ」
バルガスはこれ以上ないほど得意げな笑みを浮かべた。
「俺がここ最近、なんであんなに忙しかったと思ってる? お前がリヴィの特訓を始めたあの日から、俺は本部に事後処理の人材支援を要請していたんだ」
バルガスは親指を立て、窓の外を指差した。
「さらに、だ。ダンジョンに魔王軍の直属幹部が現れたと報告を入れたら、本部も流石に事態を重く見てな。俺が要請した事後処理の支援要員に加えて、特級の調査団まで追加で派遣してきやがった。昨日到着したその総勢が、なんと『十二名のAランク冒険者』だ!」
その常軌を逸した編成を聞いて、ローウェンは珍しく呆然とした。
「十二人のAランク冒険者……いくら幹部が現れたからって、本部はトチ狂ったんですか?」
「ああ、そのトチ狂った陣容だ」
バルガスはニヤリと笑った。
「この化け物共に任せとけば、地下の調査はもちろん、事後処理から一般の依頼までついでに片付いちまう。だから、後方支援も仕事のこともお前が心配する必要は一切ねえ。お前の言い訳は全部封じられたってわけだ。大人しく休みに行きやがれ!」
ローウェンは口を開きかけたが、何も言い返せないことに気づいた。ギルドマスターの絶対的な職権と、常識外れの人材支援によってすべての退路を絶たれ、最後は不本意ながらも重いため息を吐き出すしかなかった。
「あっ!!! そうだ、思い出したわぁぁっ!!!」
その時、傍らにいたリネアが突然、鼓膜を突き破るような大絶叫を上げた。その突発的な騒ぎに、『不動』のローウェンでさえ無意識に半歩後ずさったほどだ。
ハーフエルフの少女は興奮のあまりその場で飛び跳ね、その顔には狂気じみた笑みがギラギラと浮かんでいる。
「ローウェン! 私たちがそもそも西の大公国に行ったのって、酒場であの四人の馬鹿から『エルフの森の周辺にレアな突然変異素材が現れた』って聞いたからじゃない!」
リネアはローウェンの肩を掴み、ガクガクと激しく揺さぶった。
「それが西に着いた途端、氷玉竜のクレーター騒ぎに巻き込まれて、そのあと『お母様』に会っちゃって……あたし、素材採取のことなんか完全にスッポリ忘れてたわ!」
彼女はギルドマスターの方に顔を向け、興奮気味に叫んだ。
「バルガスのおじさん! 私たち、西へ休暇に行くわ! あそこのレア素材を根こそぎむしり取ってやるんだから!」
狂乱状態に陥ったリネアを見て、バルガスは気まずそうに「ゴホン」と咳払いをした。
「コホン……その情報についてなんだがな。後で西のギルドから送られてきた手紙に書いてあったんだが……」
バルガスはスッと視線を逸らし、彼女の幻想を容赦なく打ち砕いた。
「あの情報はガセだ。あの旅の商人が、冒険者たちを西へおびき寄せて、手持ちの在庫アイテムを高値で売り捌こうとしただけだったらしい。そいつはもう現地の衛兵にしょっぴかれてる。レア素材なんてものは、最初から存在しなかったんだよ」
その瞬間、空気が凍りついた。
「……嘘、でしょ?」
リネアはローウェンを掴んでいた手を離し、まるで穴の空いた風船のように、ぐったりと椅子に崩れ落ちた。
活力に満ちていたその瞳から、瞬時に光が消え失せる。彼女は虚ろな目で天井を見つめ、その死んだような表情は、隣にいるローウェンと完全にシンクロしていた。
ギルドマスター執務室に、突如として魂を失った抜け殻が二体、並んで完成したのである。
その惨状を見て、トゴルトはついに自分の出番だと悟った。
「コホン。西が駄目なら、東へ行けばいいじゃないか!」
トゴルトは前へ進み出ると、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべた。
「東の自由貿易国『キライナ』はどうだ? あそこなら気晴らしにぴったりの美しい港町があるし、それに……」
彼はわざとらしく言葉を伸ばし、声を潜めて言った。
「毎日、極東の大陸から商船が寄港するんだぜ。市場には『まだ見ぬ珍品』やら『未知の素材』やらが、そこら中に溢れ返ってるって話だ」
『未知の素材』――その甘美な響きは、まるで死者蘇生の究極魔法のようだった。
リネアの顔が、瞬時にパァッと明るくなった!!
彼女はバネでも仕込まれているかのように椅子から跳ね起きると、ローウェンの腕をガシッと掴んだ。それは、線の細いハーフエルフとは思えないほどの馬鹿力だった。
「東に決まり! ローウェン、今すぐ出発するわよ!」
「おい、待て。俺はまだ承諾して……」
ローウェンが拒否の言葉を言い終わる前に、極度の興奮状態にあるハーフエルフの少女によって、彼は力任せに執務室から引きずり出されてしまった。
……
半日後。
夕暮れの太陽が、空を一面の茜色に染め上げていた。
トゴルトの気前の良い出資により、室内空間が驚くほど広い馬車が、滑らかにスタート村を出発していた。
リネアは興奮気味に窓に張り付いて景色を眺め、トゴルトは機嫌よく名も知らぬ小鼻唄を歌っている。ローウェンただ一人が隅にもたれかかり、どうしようもないという顔で目を閉じていた。
リズミカルな馬蹄の音とともに、三人は東のキライナへと向かう、五日間の長い旅路へと正式に足を踏み入れたのだった。
時を同じくして。
寒風が吹きすさぶ廃採石場。
空はすでに完全に暗くなっていた。ぶかぶかの魔法衣を着た十三歳の線の細い少年が、たった一人で膝を抱え、巨大な岩の陰に縮こまりながらガタガタと激しく震えていた。
「グルルルル……」
腹の虫が、抗議の大きな音を鳴らした。
実年齢六十歳の賢者リヴィは、垂れそうになる鼻水をズズッと勢いよくすすり、その目には理不尽さに耐えかねた涙がいっぱいに溜まっていた。
「うぅ……ローウェン……」
リヴィはあどけない声で、誰もいない採石場に向かってすすり泣きながら呟いた。
「今日は特訓の続きをやるって言ってたじゃないかぁ……お腹すいたよぉ……ここ、非常食一つ置いてないじゃんかぁ……」
賢者の苦難は、誰にも知られることのない片隅で、今もなお物悲しく続いているのだった。




