過去編 栄光のA級パーティー
「はああああっ——!!」
ダンジョンに吹き荒れる吹雪を、底知れぬ自信に満ちた鋭い咆哮が乱暴に切り裂いた。
まばゆい白銀の闘気を纏った鋼の長剣が、空中に完璧な弧を描く。万雷の如き気迫を宿したその刃は、まさに氷のブレスを吐き出そうとしていた上位魔物・フロストベアを真っ向から両断した。
砕け散る氷晶と共に、生温かい鮮血が宙を舞う。
吹雪が荒れ狂うその中心に、一人の若き剣士が立っていた。
その目に、世界に絶望したような淀みはない。連日徹夜の書類仕事に追われているような、酷い隈もない。今のローウェンの瞳は、夏の夜空で最も輝く星のように澄み切り、その口元には不敵で快活な笑みが浮かんでいた。
「ははははっ! デカブツ、その程度のスピードじゃ俺にはかすりもしないぜ!」
若き日のローウェンは鮮やかに剣を振るって血糊を振り払うと、切っ先を斜めに下げた。そして背後の仲間たちを振り返り、自信たっぷりに親指を立てて高らかに笑う。
「安心しろ! 前は俺が完全に抑える! お前らは遠慮なく詠唱に集中してな。氷の欠片一つ、そっちには落とさねえよ!」
「隊長、突っ込みすぎだ! 防衛ラインが追いつかなくなるぞ!」
後方から、苦笑混じりの野太いぼやきが聞こえた。
重装戦士のコフトだ。彼は決して揺るがぬ鉄塔のようにそびえ立ち、その手に構えた分厚いタワーシールドでローウェンの右の死角を完璧にカバーし、奇襲を仕掛けてきたスノーウルフたちを豪快に弾き飛ばしていた。
これが、七年という歳月をかけて練り上げられた、完璧な陣容を誇る六人のAランクパーティーである。
「左翼の群れは僕に任せて」
優雅な銀髪を揺らすハーフエルフの魔導士リンデリルが、冷静に杖を振るう。広範囲に及ぶ氷霜と暴風の魔法が瞬時に吹き荒れ、群れを成す低級魔物たちを一網打尽に足止めし、すり潰していく。
その隣では、人間の魔導士レドリットが恐るべき威力の連続火球を放ち、撃ち漏らした上位魔物を正確に狙撃しながら、冗談交じりに笑った。
「そういや、もしトゴルトの馬鹿がいたら、今頃はしゃいで別のフロストベアの首を獲りにいってただろうな!」
「あのバカの話はやめろ」
ローウェンは迫り来る魔物を一刀両断にし、大声をあげて笑った。
「あいつはAランクに上がったばっかで、今はノリノリで単独任務を受けまくってカッコつけてる最中だろうさ! 目立ちたがり屋の前衛が一人欠けたところで、俺たちの陣容ならこのダンジョンを完全に踏破できるっての!」
彼らは、凍てつく氷雪の迷宮を破竹の勢いで突き進んでいった。
この激戦の中にあっても、ローウェンの視線は常に前方の敵だけを捉えていた。彼は『決して背後を振り返る必要がない』のだ。
なぜなら、背後にどんな脅威が迫ろうとも、七年間生死を共にしてきた仲間たちがすべて完璧に対処してくれると、信じて疑わないからだ。
……
長く過酷な進軍の末、小隊はついに最下層へと続くエリアに到達した。
次に控えるボス戦を万全の状態で迎えるため、ローウェンは最下層への巨大な石扉をすぐには開けなかった。制圧したばかりの隠し洞窟を野営地に選び、最後の休息を命じたのだ。そこは入り口が狭く、防衛に最適な場所だった。
洞窟の奥で、すぐに火が熾された。
支援と強化を担う神官のキャサリンが、洞窟の入り口に何層もの警戒・防御結界を素早く張り巡らせる。一方、レドリットは炎魔法で火力を調整し、鉄鍋で熱々の肉スープを煮込んでいた。
ローウェンが重い肩当てを外した直後、柔らかく温かな金色の光が彼の頬を包み込んだ。
「隊長、また無茶をして。さっきの熊のブレス、横顔を掠めてましたよ。あと数センチずれていたら、傷跡が残っていたんですからね」
そう声をかけたのは、回復を専門とする神官——リサだ。彼女は陽だまりのように柔らかな金髪を持ち、その瞳にはいつも安心させるような優しさが宿っている。彼女は少し背伸びをし、両手でローウェンの頬を包み込むようにして、かすかな凍傷の痕を治癒魔法で熱心に治療していた。
彼女の身体から漂う、ほのかな薬草の香りが届くほどの近距離。リサの指先がローウェンの頬をそっと撫でる。常に彼を見つめてきたその瞳の奥には、仲間という一線を越えた深い恋情がひっそりと隠されていた。
「こんなかすり傷、一晩寝りゃ治るって」
悲しいほどに生粋の熱血バカであるローウェンは、少女の密かな想いにこれっぽっちも気づく様子はない。逆にニカッと歯を見せて、無邪気に笑ってみせた。
「それに、うちには最高の神官がいるんだ。傷跡を残す隙すら与えてくれないだろ?」
その眩しくも無防備な笑顔の直撃を受け、リサの頬は一瞬でポッと赤く染まった。彼女は慌てて手を引っ込めると、杖を手入れするふりをしてうつむき、小さく呟いた。
「もう……いつも無茶ばっかり……」
ローウェンはへらへらと笑いながらそれを受け流し、熱いスープの入った椀を片手に、タワーシールドを磨いているコフトの隣にどっかりと腰を下ろした。
「ふぅ……冷えるな。なぁ兄貴、この依頼が無事に終わって、がっぽり報酬をもらったら、村に帰って一番に何をする?」
ローウェンは、隣に座る大柄な男の肩を力強く小突いた。
コフトはスープを受け取ると、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「決まってるだろ。老ジョンの酒場に行って、一番高いエールを樽ごと買い占めて、浴びるように飲むのさ」
ローウェンは嬉しそうに笑って隣の男を見た。この男は、ローウェンが十六歳で南方の帝国軍に入隊した時から、同じ天幕で寝食を共にし、泥と血の中で生死を潜り抜けてきた兄弟分だ。軍隊時代から冒険者になるまでの九年もの間、彼らは数え切れないほど互いに命を預け合ってきたのだ。
洞窟の外では依然として猛吹雪が荒れ狂っているが、洞窟の中は穏やかな熱気に包まれていた。
ローウェンはふと顔を上げ、傍らで壁に寄りかかってまどろむキャサリン、くだらない言い争いをしているリンデリルとレドリット、まだ顔が赤いリサ、そして隣で豪快にスープをすするコフトを見渡した。
比類なき温もりと、確かな安心感が彼の胸の奥を静かに流れていく。
今のローウェンにとって、このパーティーこそが『彼のすべて』だった。




