33.お揃いのサプライズ
「部屋の飾りつけ、よし!ケーキよし!プレゼント…よし!」
これで、パーティーの準備はばっちりだ。
私は、朝からもう何度目かわからない点検を終えた。ばっちりとは言いつつも、なんだか落ち着かなくてついつい何度も確認をしてしまう。
「しの、喜んでくれるかな…」
私が思わず漏らした言葉に、反応したのはお父さんだった。
「そう心配することはないさ、真央。真央が忍君のことを大切に思っている気持ちはきっと彼自身に伝わるだろう。真央にここまで祝ってもらえるなんて、私が変わりたいくらいだよ」
「そうかなぁ…それならいいんだけど」
私はちらりと時計に目を向ける。
「にしてもしの遅い…まだ?ねぇ、まだなの?」
「実家に用事でもあるんだろう。おそらくまだ帰ってこないだろうね」
「私にはわかる!次の瞬間にはインターホンが鳴ってしのが帰ってくるんだから」
「真央、そう焦っていてはパーティーまでに疲れてしまうよ。このやり取りもさっきからずっとだ」
「うぅ…でももうしのが実家に向かってから三時間以上たってるよ?もしかしてなにかトラブルでも起きたんじゃ…」
「そんなことはないだろう。トラブルが起こるとしたら今からだからね」
「今から…?お父さん、それって…」
「お待ちかねのお客様だ」
次の瞬間ピンポーンと待ちわびていた音が鳴った。
「お父さん…今の」
しのが帰ってきたんだ!
「あぁ。出迎えに行こうか、真央」
「うん!」
ー鏡邸玄関にてー
「真央ちゃん、久しぶりね」
「はい!そうですね〜紫乃叔母さん」
紫乃叔母さんはしののお母さんであり、私の叔母さんだ。
「身長も少し伸びたんじゃない?大きくなったわね〜」
「えぇ〜?そうですかね?」
「真人様、真央様。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
「久しぶりです!下支叔父さん」
下支叔父さんはしののお父さんであり、私の叔父さんだ。
「三人ともよく来てくれたね。下支、そうかしこまることはない。仕事というわけでもないんだ、今日は無礼講だと思ってくれて構わないよ」
お父さんがにこやかに下支叔父さんに話しかける。
「そういうわけにもいきません。私は従者ですから」
「ほかでもない主である私が言っているんだけれどね…下支は本当にこういうところになると頑固だね」
「申し訳ありません。私が不器用なのは重々承知していますが、こういう生き方しか知りませんので」
「別に下支を責めているわけではないよ。だけれど、時には器用に線引きをしないと大切な人を傷つけてしまうんじゃないかな」
「そんな日が一生来ないことを祈るばかりです」
「意地でも態度を変える気はないんだね、よくわかったよ」
お父さんが困ったように眉尻を下げた。
「あなた……」
紫乃叔母さんが複雑そうな顔で下支叔父さんを見ている。
場の雰囲気が重くなった。
「……」
しのはただ黙っていたけれど、なんだか辛そうだ。
私は思わず、シノに声をかけた。
「しの…?どうかした?」
しのには笑っていてほしい。
…今日は、特に。
「別にどうもしてないよ、真央」
そう静かにしのが答えた瞬間、叔父さんと叔母さんがはじかれたようにしののほうを見た。二人とも表情が驚いたようにこわばっている。
「忍、真央様に対して呼び捨てなど…無礼な行いだ。今すぐに謝罪しなさい」
いつも静かな叔父さんが珍しく怒っているのが伝わってきた。
「下支、あまり二人の関係に口を出すものではないよ」
「そうよ、あなた。従者だからとか言うのは押し付けよ!もう価値観は変わってきているの!!」
お父さんと叔母さんがおじさんを嗜める。
「しかし、鏡家と嘉神家の主従関係は絶対です…!こればかりはいくら真人様と紫乃が仰っても譲れません」
一気に空気が張り詰める。
私は思わず、声を張り上げた。
「わッ!私が真央って呼んでって言ったんですッ…!だから、しのは悪くない…!ケンカは、しないでください…」
「…だ、そうだが?下支」
「申し訳ありません、真央様。お見苦しいところを…」
「良いんです」
「……」
「真央って呼んでくれなくても。私はしのが呼びたいように呼んで欲しい。でも、お揃いだねって言った時、しのが嬉しそうにしてくれたから」
その場に沈黙が落ちた。
「…このまま外で話すのも忍びない。そろそろ家に入ろうか」
異様なまでに張り詰めた空気。
でもお父さんはあくまでもにこやかな笑みを浮かべたままで言葉を続けた。
「姉さんも下支も…私がこの前伝えたことは覚えているだろう?なら今とるべき行動は何なのか、すでに分かっているはずだよ」
お父さんはにこやかな笑顔のままなのに、なぜか怖い。
「……ッ!!」
叔母さんと叔父さんが息をのんだのが分かった。
「……えぇ、分かっているわ。これ以上あなたの気に障ることはしないわよ。わざわざ事を荒立てて猛獣にかみつかれる趣味はないもの」
「出過ぎた真似をしようとしました。真人様、誠に申し訳ありません」
「うんうん。思い出してくれたならいいんだ。一番大切にしなければいけないものは何なのか。それをほかでもない私たちだけは…絶対に間違えてはならないんだからね」
「…本当に変わったわよね、真人は」
「何かな?姉さん」
「いいえ、何でもないわ。気を取り直してそろそろ家の中に入りましょう」
~鏡邸、パーティー会場にて~
「しの、誕生日おめでとう~!!」
私はそういうと、パンッ!っとクラッカーを鳴らした。
「これは…すごい量の飾りつけね。一体どれだけ時間がかかったのか…」
叔母さんが驚いたように目を見開く。
「しかも装飾のほとんどが折り紙やスズランテープなどを使った手作りですね。こちらは一体どれくらいの人数で作ったんです?」
叔父さんも目を丸くしていた。
「すべてが真央の手作りだ。すごいだろう?」
なぜかお父さんが誇らしげに言った。
「これを全部、一人で…?」
しのは驚いたように立ち尽くしている。
「ふふん、サプライズ成功だね。ねぇしの、びっくりした?」
私は場の雰囲気を盛り上げるために明るいトーンで言う。
「びっくりなんてものじゃない。いつの間にこんなの…僕としたことが、全然気づかなかった」
「だってしの、最近実家に帰ってばかりだったし…意外と時間はあったよ?」
「え?……あぁ、そういうこと。まぁ、それだけじゃないとは思ってたけど」
しのはお父さんにジト目を向けていた。
しかし、お父さんは涼しい顔だ。
「可愛い愛娘のためだからね」
「…僕たちには干渉しないんじゃなかったの?」
「確かに干渉しないとは言ったが、何もしないわけがないだろう?それに私は君に一つの"提案"をしただけだ。実家に帰る判断をしたのは他でもない君自身だろう」
「僕を従わせたわけじゃないからあれは干渉じゃないって?…ものは言い様だね」
「…忍」
叔父さんがしのを注意するような目線を向ける。
「下〜支?」
お父さんが叔父さんに再び怖い笑顔を向けた。
「…申し訳ありません」
「次はないからね?」
「ちょっと待って!一体どう言うことなの?」
しのとお父さんの間に何か私が知らないことがあるのは分かったけど、何でこんなバチバチな雰囲気になるの…?
叔父さんも何か知ってそうな感じだし…叔母さんはため息を吐くだけで何も言わない。
私一人だけが何が何やらわからず取り残されている。
(…いや、そう言えば前しのの様子が変だったような…?もしかしてそれと何か関係してる?)
あの時はサプライズパーティがバレないようにって必死だったから何も聞かなかったけど…もしかして。
などと考えていると、急にしのから質問を投げかけられた。
「ねぇ、真央。何で僕が嘉神家に帰ってたと思う?」
「何でって言われても…帰りたかったからじゃないの?」
「僕はホームシックになるような性格じゃないよ。それに頻繁に帰らなきゃいけない用事もない」
「えぇ…?じゃあなんでしのは実家に帰ってたの?」
「質問に質問で返さないでよ…」
「だって何も思いつかないんだもん。それに判断材料が少なすぎるよ〜」
「はぁ。答えは簡単。僕が実家に帰るように誘導されていたからだ。真央のお父さんにね」
「え?誘導?お父さんそんなことしてたの?」
「ははは。真央にバラすなんてなかなか酷いじゃないか。それに誘導だなんて人聞きが悪い。私はあくまで君に"提案"しただけだよ」
「…という体らしいね。にしても上手い理由を思いついたものだよ」
「お父さんってばいったい何でそんなこと…ていうかしのは何の理由で実家に帰ってたの?結局そこがわからないんだけど…」
「さっき真央のお父さんが自分で言ってたでしょ。私は提案をしただけだ、可愛い愛娘の為に…ってね」
そこまで言われれば流石に私も分かった。
「まさか、お父さん…。私のサプライズパーティーを成功させる為に…?」
「あぁ、そうだよ?忍君が家から離れれば真央は忍君にバレることなく準備ができるだろう?それに忍君がずっと家にいればバレないようにと気を使ってこの短時間では準備が間に合わなかっただろうからね。私はみんなが幸せになれるようにしただけさ」
お父さんはあっけらかんと告げた。
「じゃあお父さんがしのにした提案っていうのは…?」
「実家でヘアメイクの練習でもしたらどうかって言ったんだ。忍君はどうせ姉さんと下支に厳しく従者としての教育を受けてきただろうが…流石に女性用のヘアメイクまでは手が回っていなかっただろうからね」
(ヘアメイク…?もしかして)
私は前に見つけたしのの違和感を思い出した。
「…じゃあ、実家から帰ってきたしのからいい匂いがしたのも、手が荒れてて、タコができてたのも…まさか、全部」
「そうだよ、真央のためだ。にしても忍君、ダメじゃないか…真央に気づかせてしまっては」
「……」
しのは言葉も出ない様子だった。
まぁ、そうだろうなぁ…ここしばらくずっとお父さんに騙されてたんだもんね。私のために申し訳ない…。それどころかしのは悪くないのに、ダメじゃないかとかダメだしまでくらってるし…。
(私の為、か…嬉しいなぁ)
でもそれで喜んでしまう私も私だなぁ…。
「ありがとう、しの。…私のために。あはは、しのの誕生日なのに何だか私の方が喜んじゃってるかも」
すると、叔母さんが口を開いた。
「にしても、なんであんた私と下支が忍にヘアメイク教えてないって分かったのよ。忍が自分から言ったわけでもあるまいし」
叔母さんがしのそっくりのジト目をお父さんに向けていた。
「そうだね…姉さんと下支を信じてたから、かな?」
「はぁ?気持ち悪い事を言うのはやめてくれるかしら」
「はは、酷いなぁ姉さん。まぁ、そういうストレートなところは姉さんらしいけどね。でもさっき言った通りの意味だよ。二人の忍君に対する教育は完璧だった。忍君のテーブルマナーや所作、身だしなみ…どれをとっても素晴らしかったよ」
「真人様…!」
「褒めても何も出ないわよ」
「忍君は完璧だった。でも完璧だからこそ、穴があるところがわかりやすかった…それだけの話だ。それに今回はヘアメイクという提案をしただけで、別にそれ以外にいくらでもこの家から忍君を遠ざける手段は存在する。たまたまだよ」
「嘘をつきなさい。そんなに数ある手段の中からわざわざヘアメイクっていうものを選んだ意味があるに決まっているでしょうに。まぁでもどうせ親バカなあんたの事だもの、強欲な選択肢をとった…と言ったところかしらね」
「強欲?いったい何が強欲だっていうんだい?」
「すっとぼけるのはいい加減にした方がいいわよ。私は腐ってもあんたの姉だもの。それくらいの考えはお見通しよ。どうせ忍を家から遠ざけられて真央ちゃんを可愛くできるならラッキー、一石二鳥!とかそんなところでしょ」
「はは、バレてたか。でも少し言い方に悪意がないかい?」
「ふん。バレてた、ね。隠す気もなかったくせによくいうものだわ」
「その点に関しては紫乃に同意します。鏡邸へ住んでからほとんど音沙汰なかった忍が急に帰ってくると言い出したかと思えば理由はヘアメイク…疑うなという方が無理がありますよ」
「ははは。まぁでも、結果みんな幸せだ。それでいいだろう?なぁ、姉さん、下支」
「えぇ、そーね」
叔母さんが投げやりにいう。
「…真人様が、そうおっしゃるのでしたら」
「よし!それじゃあパーティーの続きだ。真央、まだ準備してるものはあるだろう?」
「え?あ、うん」
私は、懐からラッピングされた箱を取り出した。
「えぇっと、なんか変な空気になっちゃったけど…しの、はい!プレゼント!!」
「…これ、中身は…」
「開けちゃって!とびっきりのやつ選んだから!!」
「…分かった」
しのはそう言うと、慎重に包装を丁寧に剥がし、箱を開ける。
中身は、私が選んだ桃色の髪留めだ。しのの要望通り、私がつけたいと思うようなわりと可愛い目のデザインである。
桃色のゴムに、結ばれたリボンの装飾がついたものだ。
「…しの、本当にこれつけるの?」
一応確認しておく。似合うとは思うけど、とっても似合うとは思うけど…!まさかしのがこんな髪留めを要求してくるとは思っていなかったし。とっても似合うと思うけどね!
しかし、しのから帰ってきた返事は予想外だった。
「真央、何言ってるの?僕がつけるわけないでしょ。つけるのは真央だよ?」
「へ?」
つけるのは…しのじゃなくて私!?
「まさか…ずっと僕がつけるって勘違いしてたの?」
「だ、だってぇ…仕方ないじゃん!しの可愛いし…普通に似合うよ!しのがつけたら!?」
「勢いに任せて何言ってるの!?僕は男だってば…!…いや、確かに思い返してみればなんか話が噛み合わない感じはあったか…僕の伝え方が悪かったね」
「そ、そんなことないよ!私が勝手に勘違いしてただけだから!!」
「まぁ、髪の長さ的にも僕はつけられないと思うし…真央がつけなよ」
「でもこれ一応しのの誕生日プレゼントなんだけど…」
まさかプレゼントでこんなやらかしをするなんて…ちゃんと確認しておけばよかった。
「はぁ。そんな顔しないでよ…。ねぇ真央、他に桃色の髪飾りでリボンとかがついてないシンプルなやつはないの?」
「え、あるにはあるけど…どうして?」
「それと真央が僕にくれようとした髪留めを交換しよう。そうしたらプレゼントになるでしょ」
「それなら確かに…でも、桃色でいいの?もっと緑とか赤とかそっちの方がいいんじゃ…」
「…お揃い」
「え?」
「そうしたら、色だけでもお揃いになるでしょ?……ッてあーもう!恥ずかしい…言わせないでよこんなこと」
「……しの」
「何、その顔…って、まさか」
私はガバッとシノに抱きついた。
「しの〜、ありがとぉ〜。しの大好き〜」
「どさくさに紛れてとんでもない事言うのやめてくれない…?あと離れて!髪の毛結べないから」
「は〜い」
「全く…」
「姉さん、下支、私たちはお邪魔みたいだ。口惜しいけれど一旦ここから離れるとしよう。…もう、十分だろう?」
「えぇ、分かったわ」
「かしこまりました」
お父さんたち三人が立ち上がる。
「お父さん?どこ行くの?」
「少し向こうの部屋で話してくるだけだよ。その間は忍君と二人でいると良い。何かあったらその辺の使用人に言いなさい」
「うん。分かった〜」
しかしそのあとしばらく経ってもお父さんたちが帰ってくることはなく、私はお腹いっぱいになってそのまま寝てしまったのだった。
今回は謎解き回でした。紫乃や下支もでできてにぎやかな回でしたね…。一人一人が結構執筆カロリー高い五人です。
これでしばらく続いた真央ちゃん視点のお話は終わりです。次回は親三人の話を一話出して、本編に戻る形になると思います。
書いててシノ×真央は本当にいいなぁと改めて思いました。シノ君はここからどうやって真央様呼びになったんでしょうか…?全くわからないですね。不思議です。
でも真央と呼んでいるシノが最高にメロかったので私としては大満足なお話でした^^




