30.距離
前回の続きです。
しのと一緒に帰り道を歩く。
『………』
今日はお互い無言だった。
でも気まずいわけではなく、心地良い沈黙だ。
しのは難しい顔をして、何か考えているようだった。
しのがこういう顔をするのは、大体何かをやろうとしている時だ。
でも、聞いてもいつもはぐらかされちゃうんだよね。
しのが私に言いたくないことなら私も強引に聞くつもりはないし、別にいいんだけど…たまに好奇心が抑えられなくなりそうになる。
でも、毎回何故かしのに見抜かれて真相を解明する前に有耶無耶になってしまうのだ。
しのが何をやろうとしているのか知れなくて残念に思う反面、しのが隠していることを知らずに済んだという安心感もあって、何だか複雑な気持ちになるけれど。
今回もしのが何を考えているのか気になるけれど、さっきやらかしたばかりだし、今この沈黙を破るのも違う気がした。
私はくるくると髪を人差し指に巻き付けて、手持ち無沙汰な気持ちを誤魔化そうとする。
しのが整えてくれた髪はさらさらつやつやで、とても心地よい。
(髪…髪、かぁ…)
今でこそ私と同じくらいの長さまで伸びているしのの髪だが、昔は長い時でも肩の上までで、今よりずっと短かった。
しのが歩くたびにふりふりと揺れるポニーテールは昔私があげた桃色の髪飾りで結ばれている。
私はしのの髪色と同じ淡い緑とかの方が合うのではないかと思ったが、しの本人が頑なに桃色がいいと言ったのだ。
まぁ、本人は今でも気に入っているようなのでよかったが。
だってそれは、私が初めてしのにあげたプレゼントなのだから。
私は再び、昔の頃を思い出した。
ーしのが鏡家にきてから数ヶ月後ー
「……見つからない」
今日も、昨日も、一昨日も、その前の日もそうだった。
というかここしばらくの間ずっとだ。
しのがいない。
家に来てから数日の間は家の中ですれ違うことが度々あり、私はしのを見かけるたびに話しかけて塩対応にあっていた。
しのは私を見つけると、うげ…とでも言わんばかりの表情を浮かべる。
しかし、なんだかんだ言って逃げたりはせず、少しの間だけだけれどお話ししてくれるようになった。
可愛い〜!と言って抱きつこうとすると、私の動きはすでに読みきられているようで華麗に避けられたけど。
私はすかっとからぶった腕を所在なさげに下ろして、むぅ…と抗議の視線を向けるけれど、しのは私がどんな目線を向けようと全くダメージがないようで、ひらひらと手を振りながらどこかへいってしまうのだ。
私はもう一度周りを見渡して、しのがいないことを確認すると、がっくりと肩を落とした。
(最近やっと少し仲良くなれたと思ったのに。全然どこにもいないし…しの隠れるのうますぎ!かくれんぼならチャンピオンになれるよ)
真央は気づいていないが、真央が忍に屋敷の中で会えないのは、忍が真央の行動パターンを把握して合わないように自分の行動を調整している為である。
(だれかしのの居場所知ってる人いないかなぁ…。あ、そういえば今日お父さん家にいるんだっけ)
お父さんに聞いてみよう。
私は、お父さんの書斎の方へと歩き出した。
お父さんの書斎はすぐそこだったので、ノックもそこそこにドアを開ける。
「お父さん、今いい?」
「?あぁ、真央か…少しなら構わないよ」
「やったぁ。あのね、しののことなんだけど…」
私がそう話を切り出すと、お父さんが心配そうな顔をした。
「忍君か…最近は彼が一人でいるところばかり見るが、あまり仲良くできていないのかい?」
「う〜ん、仲良くできていないっていうか、かくれんぼされてるの」
「え?…あ、あぁ、そうか?かくれんぼ…?一緒に遊んでいるのかい?」
「そうじゃなくて…家の中で全然しのに会わないの!これはもうかくれんぼされてるとしか思えないよ!」
「あぁ、そういうことか…。う〜ん…真央、最後に忍君と合った時はどうだったんだい?」
「最後…?いつもみたいに抱きつこうとしたら躱されて、どこかいっちゃった」
「そ、そうか…真央、あまり抱きつくのはやめた方がいいかも知れないね」
「そうなの?」
「あぁ。真央はそういったスキンシップが好きだし、すると安心するだろう?だけど、忍君も真央と同じとは限らない。まずは軽いおしゃべりとかから始めてみたらどうかな?」
しのが、私と同じようにスキンシップが好きだとは限らない。
お父さんが言った言葉が、ちくりと胸の奥に引っかかった。
しのは…私に抱き付かれるの、嫌だったのかな…?
「うん。分かった…」
「そう落ち込むことはないさ、真央。焦らなくていいんだ。一歩ずつだよ」
「一歩ずつ…」
「忍君も急に環境が変わって大変だろうし、まずはなれてもらうところからじゃないかな?先程窓から庭の方へ向かう忍君が見えたんだが…」
「お父さんありがとう!行ってくる!!」
「え?真央!?待っ…」
私はお父さんの書斎を飛び出して、庭の方へと向かった。
ー庭にてー
庭に着いた私は、しのがいないかときょろきょろと周りを見渡した。
今は四月なので、庭にはチューリップやツツジの花が美しく咲き誇っている。
パッと見渡したところ、残念ながらしのの姿は見当たらなかった。
(お父さんの見間違いだったのかな…?それか私の聞き間違い?流石にそんなことはない気がするけど…)
お父さんから聞いてすぐに庭まで飛んできたのだ。しのがこの少しの間でどこかに移動してしまったというのも考えにくい。
と、いうことは…。
「またかくれんぼね!よぉし!絶対見つけるんだから!!」
「何を見つけるの」
「そりゃあもちろんしのだよ!」
私は背後から聞こえてきた声に返事をする。
(…って、んん?この声…)
「しの!?」
「よりによって僕を探してたんだ…」
しのにすっごく嫌そうな顔をされた。
しかしもう慣れっこなので、私は特に気にせず話を進める。
「そう!しのを探してたの!見つかって、良かったぁ」
「…あっそ。一体僕に何の用?」
「特に用とかはないよ!私がしのとお話ししたかったの!最近しのかくれんぼしてて全然見つけられないから」
「………」
しのが複雑そうな顔をした。
「しの、どうかした?」
「いや、何でもない。それで…お話しだっけ?何でもいいから早く満足して帰ってよね」
なんだかんだ言いつつ、お話はしてくれるみたいだ。よかった。
「えへへ。しの、今日もかわ…」
そう言いながら抱きつこうとして、私ははっと先程お父さんとした会話を思い出した。
(私としのが、同じとは限らない…)
危なかった。ついいつもと同じようにしのに接するところだった。
(取り敢えず可愛いって言うのも抱きつくのも禁止にしないと…!)
しのは、急に言葉を止めた私に怪訝な視線を向けてくる。
「今日も、何?どうかした?」
「え、えぇーっと…」
気まずくなってしのから目を逸らすと、先ほどの花が目に入った。
「そ、そう、花!花が今日も可愛く咲いてるよね〜って!あは、あはは…」
(ふぅ、危なかった。何とかこれで誤魔化せたよ)
「花…?確かに咲いてるけど、それ今言う…?ていうか可愛く咲いてるって何」
っと、思うのは早かったかも知れない。何だかとても疑われてる…!!
「か、可愛くは可愛くだよ!」
あわあわと手を意味もなく振り回しながら私は言う。正直自分でも何を言っているのかよくわからない。
「ふ〜ん。ま、何でもいいけど」
幸い、しのはこれ以上追求するつもりはないようだった。助かった…!
でも、これ以上話してたらボロが出そうだ。
「じゃあね、しの!」
そう言うが早いか、私は家の方に走って戻った。
今と昔の二人の距離の違いが伝わったらいいなぁと思います。
花言葉って面白いですね。




