29.デレた?デレてない!
「最悪最悪最悪最悪…」
「し、しの〜…?」
頭を抱えてぶつぶつと負の言葉を唱え続けるしのが心配になり、私は声をかけた。
「へぇ…嘉神ってそんな感じだったのか〜。意外だが、これはこれで面白いな!」
「全ッ然面白くないッ!!あ〜もう、昔に戻れるのならこんなことには…ッ」
しのが珍しく感情を露わにしている。
「ご、ごめんね、しの…やっぱり言わない方が良かった、よね…」
私的には昔の可愛いしのを自慢しただけなのだが、それで本人を傷つけるようでは主どころか人としても失格だ。
(こう言う時突っ走っちゃうのいい加減なんとかしないと…)
自己嫌悪で気分がどんどん沈んでいく。
「別に真央様が落ち込むことではありません。全て僕が悪いので」
しのが落ち込んでる私をみて、フォローしてくれた。
落ち込んでる場合じゃないのに、あろうことか気まで使わせてしまうなんて…本当に申し訳ないし、自分が情けない。
「うぅ…しのぉ…ごべんねぇ…」
「泣かないでください。物事はプラスに捉えましょう。僕もあの黒歴史は今への礎だと思うことにするので」
「わかったよ…今度から人には絶対に言わないようにするから」
「それで真央様の気が済むならば、是非そうしてください」
「しの、ありがとう」
「気にしないでください」
「お!仲直りできたのかー!良かったな!」
綾目生徒会長が快活に笑う。
「仲直りって…別に喧嘩していたわけでは」
「良かったですッ!」
渋い顔で否定しようとしたしのの言葉を遮るように、私は勢いよく言う。
「…えぇ、良かったです」
しのが合槌を打ってくれた。
「ふはは!二人はなかなかみていて飽きないな!ま、もう飽きたが!」
「飽きないのか飽きたのかどっちなんですか…」
しのが呆れたように言う。
「飽きたから…生徒会室に突撃してくるッ!」
「はい!?」
「待っててって凛堂先輩から言われているのでは…?」
ここは生徒会長補佐として止めなければ…!
「えー…だってもう結構時間経ったし、良いだろ。それに菫は時間指定してないし!そんなにきてほしくないなら詳細な時間を決めてくれないとな!」
「責任転嫁甚だしいですね」
「なんだ嘉神、さっきの仕返しか〜?だが俺はもう決めたからな!あとは突っ走るだけだ!」
言うが早いか、綾目生徒会長は椅子から立ち上がり、颯爽と資料室から出て行こうとしたところで…ドアが開いた。
「うおッ!?」
「……ッ!」
綾目生徒会長は急に開いたドアに反応が遅れて咄嗟に止まることができず、体勢を崩したが、とっさに身をひねるとそのまま廊下に突っ込んだ。
「ッテテ…」
「繋!大丈夫!?」
声からしてどうやらドアを開けたのは凛堂先輩らしい。
凛堂先輩は心配そうにかがみ込むと、廊下に突っ伏している綾目生徒会長に手を差し出した。
「あー大丈夫、大丈夫。むしろ菫こそケガしてないか?ぶつかってはないと思うけど」
「私は大丈夫よ…びっくりはしたけれどね」
「みたいだなー。いやーすまんすまん。まさかドア開けるタイミングが被るとは思ってなかった」
なははと豪快に笑いながら、綾目生徒会長は凛堂先輩の手を取ると立ち上がった。
その様子を見て凛堂先輩もようやく落ち着いて来たらしく、ほうと安堵の息をつく。
「そうね…会長、一応手と膝を見せて下さい。擦りむいているかもしれませんし」
「あいよー。これでいいか?」
綾目生徒会長はズボンの裾をまくり、手をパーに開く。
「えぇ。ん〜…パッと見では怪我はしてなさそうね。どこか痛いところはある?」
「いーや。どこも」
「そう。それなら絆創膏は必要なさそうね。良かったわ。スピーチを控えているのに怪我なんてしたら大変だったもの。無事で良かったわ」
「あ!そうだスピーチ!全く…なんで急に原稿書けとか言って来たんだよ菫!」
「何でも急もないわよ…私の説明を聞いてなかったの?進行をスムーズにする為にあなたがどんな内容でどれくらいスピーチするのか把握しておかないといけないの!だから原稿をざっくりでも良いから書いてって言ったじゃない…」
「言ってたような、言ってなかったような…?」
「全く…会長!しっかりしてください!!」
「だって〜いっつもそんなの書いてないじゃんか」
「まだ言い訳するつもりなの…?全く…いつもは面倒くさがる会長の代わりに私が書いてるからに決まってるでしょ!」
「あ〜確かに毎回こんなこと話そっかな〜みたいなのは菫に言ってたっけ?」
「言ってたっけ?じゃないわよ!だから毎回私に伝えて来てた内容と実際に話していた内容に齟齬があったのね…」
「あ、それは純粋に途中でやっぱこっちの方がいいなーって思って変えたからだな」
「そうよね…あなたはそう言うタイプだったわね…全く。次はもっと良くするわよ。私も…協力するから」
そう口にして、恥ずかしくなったのか凛堂先輩は綾目生徒会長からすいっと目を逸らした。
「お、菫がデレたー」
「デレてません!話を戻すわよ!…こほん。今は生徒会研修中だから私も忙しいの。だから悪いけど原稿を会長に書いてほしくって…ってそもそも会長の仕事ですけどね!」
「わかった。完全に理解したぜ!そういうことなら俺がちょちょいと原稿を完成させといてやる」
「宜しくね。それじゃあ資料室に戻って作業して頂戴。どうせ一文字も原稿を埋めてなんていないのでしょう?」
「えー…もう資料室にいるの飽きたんだが…」
「ちょちょいなんでしょう?頑張ってね」
「無慈悲…」
「まぁ?他の仕事片付いたら後で様子見に来て手伝ってあげるから。それまで頑張ってね」
「菫がデレたー」
「だ!か!ら!デレてません!!」
全くもう!と言いながら菫先輩は資料室のドアをバタン!と閉めて行ってしまった。
「…凛堂先輩行ってしまいましたね」
「原稿やるかぁ…あぁ〜面倒くさい…」
「頑張ってください!綾目生徒会長!」
「うん、がんばるー…ってな訳で、鏡達は帰っていいぞー」
「え?むしろ今からが仕事本番ですよ!凛堂先輩ほどではないですが、全力でお手伝いします!」
私は気合を示すようにグッと手を握る。
「いやー俺集中する時は人が周りにいない方がいいんだよな。それにぶっちゃけいたところでただ俺が原稿用紙埋めるの見てるだけだろ?」
「いやいや、それが仕事なんですけど…」
「真央様、帰りましょう」
「しの!?」
「会長の仕事を手伝うと言うなら、仕事の邪魔をしないと言うのもまた、大事だと思います」
「むぅ…一理あるけど。それじゃあ私の仕事が…」
「真央様がそれでも残りたいと言うなら止めませんが」
「いや…帰ろう。私たちはお邪魔みたいだし、他の仕事はもう残ってないしね」
「かしこまりました」
「んじゃなーまた明日〜」
「はい!頑張ってくださいね、綾目生徒会長!」
そう告げると、私としのは帰路についた。
基本的に周りからの描写しかないので、いつか凛堂先輩や、綾目生徒会長の視点も書いてみたいですね。
この二人の絶妙な距離感が幼馴染という感じがして割と好きです^ ^




