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28.原点

真央視点です。

生徒会室のすぐ横にある資料室。

そこで私は次期生徒会長候補として、綾目生徒会長の仕事を手伝う…はずだった。

目の前で机に突っ伏してつまらなさそうにしている綾目生徒会長に声をかける。

「綾目生徒会長…明日のスピーチの原稿、つくらなくてもいいんですか?」

「うん?ん〜…菫からは原稿作れって言われたなぁ」

しかしその言葉に反して、綾目生徒会長の手元の原稿用紙は一文字も書かれていないまっさらな状態だ。

ペンを動かすどころか握ろうとさえ、する様子はない。

「それなら作った方がいいのではないですか…?」

「だるい」

「え?」

「そんなのなくてもその場のノリでやればいいだろ…実際今までもそれでやってきたし」

「えっ、と」

「俺はあんま頭良くないけどさ。流石にわかるぞ。菫が俺が台本なんて作らないし、いらないと思っていると知っているのに、わざわざ台本を作れーなんて指示してきたのはさ、俺が邪魔だからだよ。あー…なんだっけ?生徒会けん、けん…ぱ?」

「懐かしいなぁ〜。昔、しのとよくやりました」

今この場にツッコミはいなかった…。

「まー生徒会けんけんぱの話は置いといてさ。邪魔だって思われてると思うとやっぱ悲しい気持ちになるけど、菫の邪魔をしたいわけじゃないからなー。大人しくしとかなきゃだろ」

つまんねーけどな、と言って綾目生徒会長は、喋ってる間上げていた顔をまた下げてしまう。

「私は、綾目生徒会長が邪魔だと思われてはないと思いますよ。きっとこれも何か私たちにはわからない意図があるんです」

「なんの意図だよ?」

「それは…それは…何でしょうね??」

「わかんねーってことは意図なんてねーってことなんじゃね?いや、まぁ、励ましてくれたのはありがとうだけど。でもさー面白くねーだろ。あーつまんねー…」

いつも明るくて元気いっぱいな綾目生徒会長らしくない、どんよりどよどよしたオーラだ。

(どうしたら、いつもの綾目生徒会長に戻ってくれるかな?)

うーん…?と首を右に傾げては、左に傾げ返す。

うーむ…むむむむ。何も思い浮かばなかった。本人に聞いてみるしかないかな。

「綾目生徒会長、どうしたらどよどよから

明るい気持ちになりますか?」

「どよ…?いや、いいや。ん〜…あ!面白い話を聞くとか?鏡、なんか面白そうな話の種とかないか?」

「面白い、種…?うーん…」

ここ最近の何気ない出来事や会話を思い出してみる。

え〜っと…昨日は昼休みにしのが教室まで来たから一緒にご飯を食べて…放課後はしのに生徒会の仕事手伝ってもらった後に、しのと一緒に帰って…今朝もしのと…。

何だか最近は普通のことみたいにほぼずっとしのと一緒にいるなぁ…昔はそうでもなかったのに。

コンコンコンと規則正しいノックの音が聞こえたかと思うと、ついさっきまで考えていた本人であるしのが資料室に入って来た。

「真央様…??こちら完了した仕事です」

しのは、机に突っ伏している綾目生徒会長を見て、驚いたように少しだけ目を見開いたが、それも一瞬で、すぐに落ち着いた表情に戻ると何事もなかったかのように書類を手渡してきた。

「ありがとう、しの」

「いえ、これくらい大したことではありません」

大したことはないと言いながらも、ありがとうと言ってもらえたのが嬉しかったのか、しのは機嫌の良さそうな笑みを浮かべた。

その笑顔を見ていると、先ほど話していた内容が思い出された。

同時に、昔のしのの様子も。

何だか懐かしいなぁと思い、私はしのに返事をした。

「何だか嬉しそうだね、しの。昔は私が何を言っても壁一枚隔てているような感じがしたけど、最近はよく笑うようになった気がする」

純粋に良いことだと思って口にしたのだが、しのの表情が凍りついた。

「うぅ…む、昔の話はやめて下さい。僕自身結構気にしているんですよ」

「そうなの?もう何年も前の話だけど」

「何年も前の話だからこそです」

「??そうなんだ…」

私には何故しのがこんなに複雑そうな顔をしているのかはわからなかったけど、何だかしのが昔の自分に対してあまり良い印象を抱いていないのであろうことはわかった。

なら、あまりこの話題を続けるのはやめた方がいいのかな?

私は昔のしのも今のしのも、変わらず可愛いままだと思うけど。

と、そこに、にやにやとした表情を浮かべ、面白いことを聞いたと言わんばかりに目を爛々と輝かせた綾目生徒会長が話しかけてくる。

「へ〜。嘉神って鏡に対して昔っからずっとそんな感じかと思ってたが…意外と違うみたいだなぁ?」

しのの顔がひきつる。その顔には何でこう言う時だけカンがいいんだよ!と書いてあった。

しかししのがそれを言葉にすることはなく、あくまで落ち着いた風を装って言葉を返す。

「それはもちろん、子供の頃ですから」

「今も子供だろ」

「………」

「それとも嘉神のなかでは高校一年生は大人なのか?」

「…ッ。違いますが」

「ま、だろうな!成人してないわけだし」

綾目生徒会長にこうも一方的に言い返されるなんて、よっぽど冷静さを欠いているみたいだ。しのにしては珍しい。

綾目生徒会長は、ニヤニヤとした表情を隠そうともせずに続ける。

「なー教えてくれよ、鏡。俺嘉神の昔の様子結構気になるんだけど」

本人の様子を見るからに面白そうだしな、と綾目生徒会長は続ける。

私は迷った。

しのは昔の話をするのは嫌そうだし…でも、生徒会長補佐として生徒会長に言われたことはなるべくやらないとだし…あと、そもそも私も昔の可愛いしのを人に話したいし!!

ん〜でも、本人が嫌そうにしてるのに言うのはダメ、だよね…。

私は困りはて、しのに目を向ける。

しのは私の様子を見て、はぁとため息をついた後「いいですよ、話しても」と言ってくれた。

「ほんと!?」

「ですが!!その代わり僕もここで聞きますからね!」

多分私が変なことを口走りそうになったら止めるためだろう。もう何年も一緒にいるのだから、流石に分かる。しのらしい。

私はふふっと笑うと、昔の思い出に思いを馳せた。


ー〇〇年前、冬ー

「真央」

急にお父さんに呼び止められた。

「おとーさん、何〜?」

私は誕生日である今日、もらったぬいぐるみをもふもふと抱きしめながら返事をする。

お父さんの声は何だかいつもよりも少し重たいような気がしたけれど、それよりも今は目の前のぬいぐるみだ。

すました顔をしているが、タレ目が何とも可愛いわんちゃんのぬいぐるみ。

「えへ〜、可愛い〜♡」

「大事な話なんだ。そのぬいぐるみを置いて、少し話をできないか?真央」

「んん〜?だいじな話〜?」

まだまだぬいぐるみをぎゅーってしてあげたいけど、その気持ちをぐっとがまんして、私はぬいぐるみをすぐそこにあった机の上にそうっと置いた。

「いい子だ。真央、我が鏡家と、嘉神家の関係は知っているか?」

「かがみ〜?ん〜??よく知らない」

「そうか、真央はまだ子供だもんな。まだ知らなくても大丈夫だ。だが、今から覚えてくれ。鏡家と嘉神家の古くからの関係を」

そう言って、お父さんは語り出した。

「鏡家は代々、嘉神家に支えられてきた。鏡家が主、嘉神家が従者という形での主従関係によって」

「じゅーしゃ?って何?」

「あぁ。それも今から説明しよう。従者とはな…簡単にいうと真央、お前のパートナーだ」

「ぱーとなー?」

「あぁ。真央のことを支えてくれる強力な相棒だよ」

「へぇ〜。それって可愛い?」

「か、可愛い…?か、どうかはわからんが…味方につければきっと真央のために力を尽くしてくれるさ」

「可愛くないの?」

「どうだろうな。お父さんは実際にその子に会ったことはないんだ」

「可愛く無いならいいや。私にはぬいぐるみさんがいるもん。この子がパートナーだよ」

「ま、真央…。も、もう少しだけでいいから話を聞いてくれないか?」

「うん?んー…いいよ!」

「その子はな…真央の従兄にあたるんだ。ま、平たく言えば従兄妹か」

「いとこ」

「あぁ、そうだ。その子がまぁ、色々あって真央の従者になってくれることになったんだが…どうだ?会ってみたくないか?」

お父さんの顔を見ると、何だか必死そうだった。どうしても私にそのいとこの子と会ってほしいみたいだ。

別にそこまでその子に興味があったわけではないけど、お父さんが悲しそうな表情を浮かべるのをみたくはなかった。

「うん。私、その子と会ってみたい」

そう答えると、お父さんはほっとしたような顔を浮かべて、小さな声でよかった、と呟いた。

「じゃあ、今度の日曜日に我が家に来てもらうから。仲良くするんだぞ、真央」

「うん。分かった」

可愛い子だといいなぁ…。

そんな甘い考えは、そうそう打ち砕かれることとなる。


ー日曜日ー

「真央、この子が真央の従者の嘉神 忍君だ。仲良くするんだぞ」

そう言うと、お父さんは何度も何度もこちらを心配そうに振り返りながら、自分の部屋へと帰っていった。

もう、お父さんってば心配性なんだから。

仲良く仲良くとこの時までに何度言われたことか。両手を使っても数えきれない。

「よろしくね!」

私は目の前の淡い緑色の髪を"肩の上まで"で短く切りそろえている男の子に、手を差し出した。

「……?」

しかし、その男の子は不思議そうな顔で私の手を見つめている。

一体どうしたのだろう?あ、もしかして握手が恥ずかしいのかな?じゃあ、代わりに私がやってあげよう。

「えっとね、これは…こうやるんだよ」

私は先ほど差し出した右手とは反対の手で男の子の右手を掴むと、よいしょと私の右手まで運び、ぎゅっと握手をした。

何だか私の両手で男の子の片手を包み込んでいるみたいになり、普通の握手とはちょっと違うけれど…まぁ、これはこれでよしとする。

しばらくそのままでいると、男の子に何とも言えない不思議な視線を向けられた。

氷みたいに冷たくて、針のように刺さったら痛そうな鋭い視線。

今なら分かる。これは…警戒の視線。

当時の私は、幸か不幸かそんな些細な違和感を気にすることはなかった。

私は、まだ手を解くことはなく、目の前の男の子にそのまま話しかける。

「私はね、鏡 真央っていうの!あなたの名前は?」

お父さんから何回も聞いた名前だけど、本人の口から聞きたかった。

しかし、反応は思ってたのとはかなり違った。

「その前に、僕の手を離してくれない?」

不機嫌そうにトゲトゲした口調。

「え?あ…ごめんね!」

私はパッと手を離す。握手はやっぱり恥ずかしかったのかもしれない。

「あと、僕にわざわざ構わないで。時間の無駄だから」

そう言うと、彼は部屋から出て行こうとする。

咄嗟だった。思わず、私はその男の子の手を再び掴んでいた。

「ハァ…何?」

突き刺すように冷たい口調でそう言い、男の子は私のことを睨みつけた。

しかし、これは咄嗟の行動なので何?と聞かれても何とも言えない。

「………」

私は困り果て、立ち尽くす。

「手、離してって言ったよね。邪魔」

そう言われ、次の瞬間私の手は容赦なく払いのけられた。

「あッ…」

私の手から解放された男の子は、今度こそ出て行こうとしてしまう。

ど、どうしよう…止めなきゃ。

何とかして止めなきゃ。本当に何の根拠もなかったけれど、止めなくちゃいけないと言う思いだけが焦りと共に募る。

男の子がドアノブに手をかけた瞬間、私は咄嗟に叫んだ。

「う、動いちゃダメ!!」

しかし、男の子はもう、私の言動を意に介すことはないようで、ガチャリとドアノブを回す。

どうしよう。どうしたら、止まってくれる…!?

その時、ふと前のお父さんとの会話を思い出した。

(そうだ…!)

「しゅ、しゅうじゅかんけーでしょ!止まってよ!」

ぴくりと男の子が驚いたように肩を跳ねさせた。

次の瞬間、男の子は振り返ると、私に指摘する。

「しゅうじゅ関係じゃなくて主従関係でしょ。しゅうじゅ関係とか聞いたこともないし」

「そ、そう!それ!!」

「でも、それは別に僕がここから出て行かない理由にはならないよね」

「え?でもあなたは止まってくれたよ?」

「は?」

「じゃあ成功ってことだよね!」

私は嬉しくて、にっこりと笑う。

男の子は私の顔を呆れたように見つめた。

「はぁ。何それ、反則でしょ」

「は、反則じゃないよ?わざとだもん、間違えたのは!」

「絶対ウソだよね」

「う、うそじゃないし!だいたいあなたが止まってくれなかったからでしょ!」

「分かったよ」

「へ?」

「確かに僕の動きを止める…その一点においてはさっき僕は負けた」

不本意だけどね。と、彼は続ける。

「じ、じゃあ…!」

ぱぁっと自分の顔が笑顔になるのが自分でもわかった。

「もう少しだけなら一緒にいてあげる」

そう言って男の子はニヤリとした悪戯っぽい笑みを浮かべる。

そ、そんな顔見せられちゃったら…

(あ〜もう我慢できないッ!)

「か、可愛いッ…!!」

「ッ!?ちょッ、」

ガバリと私はぬいぐるみを抱きしめるように、目の前の男の子を力一杯抱きしめた。

男の子は焦ったような表情を浮かべる。

「な、何してるの!?ていうか可愛いって言った!?」

「勿論!だって実際可愛いんだもん!」

「僕男だけど!?」

「可愛いに男も女も人かどうかも関係ないよ!それに私は可愛いと思ったんだもん」

私は更に男の子を抱きしめる腕に力を込める。

「ちょッ…取り敢えず一旦離れて!」

「仕方ないなぁ〜」

私はパッと手を離した。

男の子は私に対してヤバいやつと言わんばかりのドン引きした視線を送ってくれた。

むむむ。いやまぁ、流石にやりすぎた自覚はあるけれど。

男の子は私から後ずさるように距離を取ると、洗練された仕草で椅子を引き、座った。

「おぉ〜…」

「何?別にただ椅子に座っただけなんだけど」

「ただじゃないよ!すごく動きが滑らかな感じがして!なんか凄い!」

「語彙力…はぁ、なんか警戒してた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた」

「え?警戒されてたんだ」

「気づいてなかったの?僕結構警戒心を剥き出しにしてたと思うんだけど」

「ん?うん」

私は即答する。だって本当のことだし。

もはや慣れてきた男の子の呆れた視線が再び向けられた。

「嘘はついてない、かぁ…」

「嘘?」

「いーや。こっちの話」

そう答えた男の子は体を少し震わせた。

「ココア飲む?」

「どこからココア出てきたの…」

「だって寒そうだもん。え〜っとお客様、お名前は?」

「何それ」

「え?だからココア…」

「そうじゃなくて!あーもう…君のなかで僕はお客様なの?」

不服そうな視線を向けられた。

「え?そうだよ?」

男の子は傷ついたかのように一瞬渋い顔をした。でも私はそれに気づかず続ける。

「お店屋さんごっこ。知らない?おままごととかとおんなじように、自分たちで役を考えて遊ぶの!だから今私はココア屋さんで、あなたはお客様なんだよ」

男の子は呆気に取られたような顔をした後、ぷいとそっぽを向いた。

また何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか?

「忍。嘉神 忍ね。まぁ、僕の名前知ってると思うけど」

「やっと自分から名前教えてくれた〜」

どうやら機嫌が悪くなったわけではなかったみたいだ。よかった。

それに念願の名前!やっと本人から聞けたよ。

「じゃあしのね!」

「え?」

「あだ名!可愛いでしょ」

「あー…うん」

「私のことも真央って下の名前で呼んでくれていいからね!お互いこれで二文字!お揃いだよ」

「お揃い…」

「ん?どうしたの?」

「いや別に」

「隠してないで教えてよ〜」

手をぐーぱーとにぎにぎしてると、先ほど抱きしめられた時の記憶が蘇ったのか、しのは素直に教えてくれる。

「お揃いっていうのも、悪くはないかもね…って話!!」

そう言い切ると、そっぽを向いてしまった。

しかし、その耳が真っ赤になっているのを隠せてはいない。

(そ、そう言うの見せられたらまた我慢できなくなっちゃうじゃん…ッ!!)

「やっぱり可愛いッ!」

「ちょッ!?結局抱きついてくるの!?」

わーわーと賑やかにしている間に、すっかり暖かかったココアは冷めてしまったのだった。

前回投稿頻度を戻したいと言いつつ、全く戻りませんでした。すみません。

今回の話はお待たせしてしまっていたシノ×真央の過去編です。この二人は本当にてぇてぇ…!ですね。しばらく続く予定ですので、ぜひ楽しみにお待ちいただけたらなぁと思います。

主人公である歩友はまだしばらくでてきません。まぁ、それ以上に神羅や日陰は出てこれてないのですが…これからの出番に期待ですね。

人がたくさん出てくるわちゃわちゃ感も好きですが、やはり一対一が基本的には最も登場人物達が輝けると思っているので…こればっかりは仕方ないですね。

次話は生徒会の幼馴染二人の掛け合いが見れるのでお楽しみに^ ^

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