27.呪いの言葉
前話の続きです。
「葉桜、家に帰らなくていいのか?」
俺は目の前で仲良さそうに母さんと話している葉桜に話しかける。
「確かにもう日が暮れそうなので、帰った方がよさそうなのです」
「あら、蛍ちゃんが話し上手なものだから、ついつい話し込んでしまったわ。ごめんなさいね。親御さん、心配しているでしょう?連絡しましょうか?」
「自分でできるので大丈夫なのです!」
「あら。偉いわね〜」
葉桜はスマホを取り出し、操作し始めた。
母さんはその様子を固唾を飲んで見守っている。
(何で俺よりも母さんと仲良くなってんだか…。ってそういや結局蛍は何のためにこっちまで来てたんだ…?登下校の時見かけたことがないからおそらく家はこちらではないんだろうが)
などと考えていると、ガチャリと鍵を開ける音がし、ドタバタと音が聞こえてくる。
どうやら父さんが帰ってきたようだ。
蛍は保護者への連絡が終わったのか、スマホをしまって玄関の方に顔を向けている。
「ただいまーって…そちらのお子さんは?」
「お帰りなさい、あなた。この子は爽と同じ学校の蛍ちゃんよ」
「爽のお友達かい?息子がいつも世話になっているね」
「はい!お世話してるのです!」
「嘘つけ葉桜。今日が初対面だろうが」
そんなに堂々と言い放ったらうちの親が信じかねない。
「ははは。なかなかに元気なお嬢さんだね」
幸い父さんは軽く流してくれた。
「今日は家に遊びにきたのかい?爽からそんな話は聞いていなかったと思うが…」
(そういや結局葉桜の目的はわかってなかったな)
「今日は遊びに来たわけではないのです。生徒会として爽を生徒会会計の枠に勧誘しに来たのです!」
『生徒会…会計!?』
母さんと父さんが同時に驚く。
「葉桜…まだ諦めてなかったのか?」
俺は呆れ半分諦め半分で聞く。
「当然なのです!あの素晴らしい成績を見て、爽は会計にぴったりだと思ったのです!」
「成績…?あぁ。今日は終業式だったか。通知表が返ってきたんだね」
「爽、結果はどうだったの?」
なまじ葉桜が素晴らしい成績とか言ってくれたせいで、両親はニコニコ顔だ。
俺は、頭の中を駆け巡る最悪の想像を振り払い、何とか鞄から通知表を取り出すと震える手で両親に渡す。
『……』
両親は俺から渡された通知表に目を通す。
その表情がどんどん険しくなっていくのを見ていられなくて、俺は両親から目を逸らした。
目をそらした先にいた葉桜は、状況を理解していないのか暢気な表情をしている。
(あぁ、終わった…絶対怒られる)
そしてまた数学を取り上げられるのだ。
数秒がとても長く感じられる。
まるで時間が引き延ばされたかのように。
「爽、凄いじゃない」
母さんがそう言った。
「え?」
(怒らないのか?)
「数学はとてもいい成績ね。…数学は」
母さんは笑顔を浮かべていたが、俺の成績に落胆し、怒っているのがひしひしと伝わってきた。
「あぁ、そうだな。数学はとてもよく出来ているな」
父さんも続く。
おそらく両親は葉桜がいる為、俺を怒るに怒れないのだろう。
「えぇと…蛍さんだったかな?爽はこの通り数学以外が酷い成績でね。悪いが生徒会会計よりも他の科目の勉強を優先しなければならないんだ」
父さんが諭すように蛍に告げる。
(やっぱり生徒会の件に関しては否定的か…まぁ、あの成績だしな…)
「そうね。蛍ちゃんには悪いけれど、これ以上酷い成績を取るわけにはいかないもの。この話は無かったことに…」
「わ、私が!爽に全教科の勉強を教えるのです!」
葉桜が勢いよく宣言する。
(勢いに任せてとんでもないことを口走っていないか…?)
「そう言われても…それに息子にそこまでしてもらうわけにはいかないよ」
「蛍ちゃんに申し訳ないわ。だって爽が生徒会で会計をする代わりに数学以外の全教科の勉強を教えると言うのは正直対価として見合っていないし」
次の瞬間、葉桜の雰囲気が一気に変わった。
「対価とかじゃないのです!爽じゃなくちゃ駄目なのですッ!!私は数学ができるからだけじゃなくて、爽だから!生徒会にスカウトしたのですッ!あくまで勉強を教えると言うのは、それに対するおまけのようなものなのです」
葉桜は一気にそこまでを言葉にし、息がもたなくなったようでぜーはーと苦しそうに呼吸する。
こんな葉桜は初めてみた。
のほほんとして、暢気で、元気が有り余っているようなイメージだったが…今日知り合ったばっかりの俺に対してここまで熱くなってくれるのか…。
(ッて俺は何絆されそうになってるんだよ!)
葉桜相手だとどうも調子が狂う。
「それはありがたい話だが…蛍さん自身の成績が下がってしまうんじゃないのかい?」
父さんがやんわりと断る方向に話を持っていく。
「人に教えることは私自身の勉強にもなるのです。それにその程度で下がるような生半可な勉強はしていないのです」
そういうと、蛍は鞄から通知表を取り出し見せてくる。
(嘘だろ…ッ!?)
通知表に記載されているテストの総合順位。そこに燦然と輝く1という数字は。
葉桜が…学年主席であるということを示していた。
「葉桜…学年主席だったのか!?」
「そうですよ?全教科一位ではないですけど、総合では一位なのです」
「はは…学年主席とは凄いね。蛍さん。…本当に申し訳ない。私は貴女のことを見くびっていたようだ。謝罪させてほしい」
「まさか蛍ちゃんが学年主席だったなんて…私もごめんなさいね。蛍ちゃんのことを甘く見ているつもりはなかったのだけれど」
両親は頭を下げる。
「あ、頭を上げてほしいのです!そんな謝られるほどのことではないですし…急に言われても混乱するのはわかった上でしたから!覚悟の上なのです!」
「そう言ってもらえると有り難い。そして…息子を。爽のことを、任せてもいいかな?」
「私からもお願いするわ、蛍ちゃん」
「勿論なのです!任せてほしいのです!」
「本当にありがとう。私も妻も理系でね…文系科目は高校ともなると正直教えるのは厳しくなってきていたんだ」
室内に和気藹々とした雰囲気が流れる。
何だかもう全てが決まったことのようになっているが…
(いや、俺会計引き受けるなんて一言も言っていないんだが?)
「葉桜…俺には会計なんて荷が重い。務まらねぇよ」
きっちり断っておかなければ。
「そんなことはないのです!みんなでサポートもしますし、爽ならきっとできるのです!」
「いや、でも…会計なんてやったことないし」
「みんな最初は初めてなのですよ」
「それは、そうだが…」
「やる前から無理って決めつけなくていいのです!爽なら絶対できるのです!できると思ったらできるのですよ!まずは行動なのです!」
確かに実際に行動を起こして俺の両親を説得した蛍が言うなら説得力がある。
「でも、俺は…数学だけしかできないし…」
胸の奥に棘のように刺さって抜けない呪いの言葉。
口に出すと、やはり自分にはできないとしか思えなくなってくる。
「そんなことはないのですよ!爽は身長がすっごく高いですし、と〜っても優しいのです!」
「優しい?俺が?」
優しいどころかむしろ葉桜のことを怒鳴りつけたはずなのだが…。
「最初の時」
「最初…?」
何かあったか…?
「爽は遥かに身長が低い私にわざわざ目を合わせて話してくれたのです」
「え?あぁ…」
そんなこともあったような…え?たったそれだけで?
「それに私に対して怒った後、すごく悲しそうな顔をしていたのです。実際帰り道でもしばらく立ち止まって…」
「だぁぁぁぁーッ!!」
思わず葉桜の話を遮る。
一体いつから居たんだよ!?
て言うかあれ気づかれてたのか!?
あの時は葉桜に謝るために学校に戻るべきか戻らないべきか悩んでて全く気が付かなかったが…後ろにいたのか。
まさか、本人に気づかれるなんて…最悪だ。
「まだまだありますけど、この辺にしておくのです」
「まだまだ…?いや、是非そうしてくれ」
あれ?今日初対面だよな?な??
「だから爽はすっごく優しいのです!数学だけなんて私が言わせないのです」
葉桜が満開の桜のように温かい笑みを浮かべた。
「…ッ!」
数学だけできても意味がない。そんな呪いの言葉が、葉桜の笑顔の前で溶けていく。
その時、心の底から思った。
葉桜の笑顔に、言葉に、優しさに…報いたいと。
俺ができる最高の形で!!
「ありがとな、蛍。俺、生徒会に入るよ。会計でも何でも…やる」
蛍が嬉しそうに顔を綻ばせた。
「爽…!良かったのです!」
「あぁ」
確信できた。俺の選択は間違っていなかったのだと。だって…この笑顔が、見れたのだから。
「それにやっと蛍って呼んでくれたのですッ!」
「うぐ。それは、その…勢いが余ったと言うか…」
何だかさっきもこんな話を聞いた気がする。
「もう一度!もう一度蛍って呼んでほしいのですッ!!もう一度だけでいいですからッ!」
「そう言われると呼びたくなくなるな…なぁ?葉桜」
「むぅ…爽のイジワル」
「冗談だ、蛍」
そうして俺は生徒会に会計としてスカウトされたのだった。
学生の方は、そろそろ夏休みという方も多いのではないでしょうか。
これを機に最近下がり気味だった投稿頻度を戻したいと思いつつ…リアルがむしろ忙しくなってどうなるのかなぁと思います。
リアルが忙しいのもそうですが…文字数もだんだん増えてきているんですよね。このまま増えていくとどうなってしまうんでしょうか…。
なんとか週一くらいのペースには戻せるようにしたいですね。
それで今回の話なのですが…爽視点のお話は一旦これで終わりです。蛍先輩視点どうなってるのか非常に気になる…。
ちらっと先代の生徒会の様子も見せられたらよかった…のですが、さすがにキャラ数と時間が大変なことになってしまうので断念しました。
この二人の絡みは作者自身描いていてすごく楽しい二人なのですが、気を抜くと…別に抜いていなくてもふとした瞬間に爽が蛍を葉桜ではなく蛍呼びしてしまうのでそれを直すのが地味に一番大変でしたね…。
気づいたところは直したのですが、表記ブレしているところがあったらすみません。
今回の話は爽が生徒会に入るきっかけの話ですが、爽が蛍のことを蛍呼びするきっかけの話でもあります。
やはり呼び方を変えると一気にキャラの関係性とか距離が縮まった気がして大変良いですね…!
こういうシチュがとても好きです。
さて、次回からついにお待たせしていたシノ×真央のお話になるのでお楽しみに!




