23.ひーちゃんとレイレイをくっつけようの会
「……ねぇ、シノ?薄々思ってたんだけど…」
私は嫌な予感が的中していないことを心の底から願いながら、隣を歩くシノに問う。
「何かなぁ?」
「こっち…教室じゃないよね?」
「うん。そうだねぇ」
あっさりと肯定された。
でも、諦めの悪い私は一縷の望みにかけて再び質問する。
「そして…帰る方向でもないよね?」
「うん。そうだねぇ」
再びあっさりと肯定された。
どうやら私の悪い予感は当たっているようだ。
よし…逃げるか。
「あ〜っと…ごめんシノ、私急用を思い出したから教室に帰らないといけないんだよね〜。あ〜忙しい、忙しい」
「急用?ないでしょ〜。あゆぽん、ウソはダメだよ〜?」
「い、いや本当にあるんだって…その、あの…えぇっと」
「一体何かなぁ?」
「うッ…ウソです。逃げ帰りたかっただけです…」
「別に取って食おうってわけじゃ〜ないんだけどねぇ」
「いや、私の経験上こういう時は碌なことがない!ていうかシノこそ絶対なんか企んでるでしょ…生徒会の仕事は終わったはずなんじゃないの?ならもう帰ろうよ〜…」
「べつに帰ろうとしてもいーよ?」
「え?いいの!?じゃあ…」
「絶対捕まえるってだけだし」
「うん…何で?」
「ちょっと話をするだけだよぉ〜。そんな身構えなくていいって〜」
「シノはちょっと話をするためだけに絶対捕まえるとか言わないでしょ…」
「あはは〜そうだねぇ」
「笑い事じゃないよ全く…」
「でも、あゆぽんももう気づいてるでしょ〜?さっさと諦めて話を聞いて帰った方がいいって」
「いやシノが帰らせてくれないだけで帰れるなら全然帰りますけどね」
と、言ったはいいものの…一つ問題はあるわけだが。
もちろんシノがそれを見逃してくれるわけがない。
「あゆぽん、荷物教室に置きっぱなしだよねぇ〜?まさかそのまま帰るつもり〜?」
そう。いつもなら生徒会室に荷物を置いているのだが、今日はシノが私のところに突撃して来てから4組の教室までそのまま向かったので荷物は教室に置きっぱなしだ。明日提出期限の課題を入れているので、教室に戻らなければならない。
しかし、今向かっている方向は教室とは違う方向…。
教室に戻れたとしても、シノを振り切って帰ることはかなり難しい。何故なら、私が教室で荷物を取ってから必ず寄る場所があるからだ。
シノはそこに先回りしておけばいいだけ。
その場所とは靴箱である。出席番号によって一人一人場所が決まっている為見逃すこともないだろうし、かと言って上履きのまま帰るわけにもいかない。
荷物は最悪諦めるにしても靴箱には寄らなければならない。
(私が教室で荷物を回収してる間にシノは靴箱まで先回りできる。つまり…詰んでる。まさかシノはここまで読んで…?いや。流石にそれは考えすぎか)
ただ私と話をするためだけにそこまではしないだろう。
だが、シノを振り切ることで得られるメリットよりもデメリットの方が大きい。振り切るのはかなりのハイリスクだ。
シノの言った通りさっさと諦めて話を聞いた方がいいだろう。
(まんまとハメられたね…)
シノは私に逃げ帰るつもりがなくなったことを察したようで、ニコニコの顔で歩いている。
(しゃ〜ない。切り替えよう)
そして歩くこと数分。
校舎の端の空き教室にたどり着いた。
シノは特に躊躇することもなくガラリとドアを開け、そのまま空き教室の中へと入っていく。
その時、私はふと思い至った。
(待てよ…?もしかして今ならシノから逃げられるのでは?)
教室で荷物を回収していたらシノに靴箱に先回りされる…ならば荷物を諦めれば良い。
(課題は明日早く学校に来てすればいいし)
私はくるりと教室の戸に背を向ける。
(そうと決まればダッシュで帰るか。体育祭の時でシノの大体の足の速さはわかってる。全力を出せば多分振り切れるでしょ)
そして走り出そうとした瞬間…パシッと腕を掴まれた。
……もちろん私の腕を掴んだのはシノだ。
「ッ?!」
さっき教室の中に入っていくのを確認したのにッ…!!
「あ〜ゆぽんっ。どこに行こうとしてるのかなぁ?」
「い、命だけは…」
「とらないよ。……で?」
「逃げようとして誠に申し訳ありませんでしたあッ!!」
「勢いだけは良いねぇ」
全くも〜…とシノがつぶやき、私は腕を掴まれたまま空き教室へと引っ張り込まれた。
シノは、そのまま容赦なくドアにガチャンと鍵をかける。
普通そこまでやるかなぁ!?…逃げようとした私のせいですね、はい。
私は今度こそ本当に諦め、体から力を抜いた。
空き教室。ホコリでも積もっているのかと思いきや、そんなことはなく。
定期的にシノの手によって掃除されているのであろうことが、キレイな状態の教室から窺えた。
教室の中には一脚の机と椅子が二脚。
人気がなく、机と椅子もある…密談をするにはうってつけとでも言わんばかりだ。
…おまけに鍵までかけれるし。
私は椅子に腰かけると足を組み、太々しく尋ねた。
「で?こんな手の込んだトラップまで仕掛けて…いったい何の話をしようってわけ?シノ」
シノはゆっくりと椅子を引いて腰掛けると、すっと目を細めて言った。
「あゆぽん…ボクと一緒にひーちゃんとレイレイをくっつけようよ☆」
「……は?」
文字に起こしたら星がつきそうなほどお茶目にシノが言う。
しかし、今大事なのはそんなことではない。
「くっつける?ひーちゃんとレイレイを??」
ひーちゃんにレイレイとは、シノが私の友人である天道 日陰と神羅 玲を呼ぶときのあだ名だ。
と、言うことは…?え??いや、ん???
……あ〜そうか。
「ごめんシノ、今私接着剤とか役に立ちそうなもの全然持ってなくって…。あとそれはいくらイタズラにしても度がすぎているというか…」
「そーゆー意味じゃないよぉ、あゆぽん。くっつけるって言うのはぁ…二人に付き合ってもらうってことだからぁ」
「………」
「あ〜…それよりもぉ、恋人同士になってもらうって言い方の方が分かりやすいかなぁ?」
「………」
何も言わない私に反して、シノは更に一人で喋り続ける。
私は不意にシノの言葉を遮った。
「断固反対」
「え?」
シノが驚いたように紅い眼をこちらに向ける。
「私は、反対。恋人同士とかそう言うのは…本人たちが決めることでしょ。私たちが首を突っ込んでも物事は悪い方向にしか進まない。それに無理やりくっつけるなんて…そう言うのは、よくないと思う」
シノは先ほどまでの明るい雰囲気から一変、静かだけど鋭利な刃物のような雰囲気を醸し出した。
「無理やりではないですよ。あの二人は両思い…相思相愛ですから。それには、あの二人の友人として側にいたあゆぽんもとうに気づいていたのでは?」
「確かに私もあの二人が両思いなんじゃないかとは思うよ。でも、それとこれとは話が別でしょ?それに…二人の友達としてそんなことに協力することはできない」
「少し物事を重く受け止めすぎではないでしょうか。付き合うだけですよ?別に結婚しろとか一生を添い遂げろと言っているわけではありません。大体高校生どころか中学生でも付き合っている人たちはたくさんいます」
シノはあくまで冷静に淡々と言葉を重ねる。
物事を、重く…確かにシノの言う通りかもしれない。
でも、日陰は過去に裏切られている。
一度。たった一度でも、それは日陰の心に深いキズを残した。心のキズは簡単には癒えない。ずっとずっと、心の奥底に残り蝕み続けるのだ。
もし、もう一度でも日陰を傷つけてしまうことがあるのなら。きっと日陰の心は壊れてしまう。そう思えば簡単に首を縦に振ることなどできるはずもない。
「そう言われても、私の答えは変わらない。リスクが高すぎる。責任取れないよ」
「リスクが高い…ですか。どうして初めから"失敗する前提"で話をするんですか?」
シノが不思議そうに問いかけてくる。
「え?」
「そもそも二人は両思い。失敗する可能性なんてほぼゼロなんですよ。それに僕たちがサポートするんです。失敗するなんてまずありえないでしょう」
シノは自信があるようで、はっきりと失敗なんてありえないと言い切った。
「いや、でも…日陰は昔」
そこまで言って私ははっと気づいた。
もしかして、シノは昔二人がすれ違ったことを知らないのではないかと。
(それなら今の仲良さげにいちゃついてる二人を見て失敗しないと言うこともうなずけ…ないな)
シノは私が転校してくるより前から二人のことを勧誘している。その頃の二人の気まずそうな関係を見れば昔何かあったのであろうことくらいは勘のいいシノなら容易に推測できたはずだ。
シノの性格上それに気づいていないなんてことは流石にないだろう。
と、いうことは…それに気づいた上でシノは二人が付きあえると思っている?
いや…そんなことがあるのか?何かすでに策を練っている…?それとも昔何があったのかを詳しくは知らない??
分からない。シノが一体何を考えているのかが。
というかどこまでシノが知っているのか分からないから下手なことも喋れない。
断るにせよ、協力するにせよ取り敢えずもう少し話を聞かないことにはどうにもならなさそうだ。
シノの目的くらいは知っておかないと場を引っ掻き回された時に対処できない。
一旦そう結論づけると、私は慎重に口を開いた。
「分かった。取り敢えず話は聞かせてもらう。協力して欲しいというなら目的と理由くらいは話してもらわないとこちらとしてもどうしようもないし」
「ということは…協力していただけるという認識でよろしいですか?」
「いいえ。協力するかどうかはあくまで話を聞いてからよ」
そこはこちらとしても意思を明確にしておかなくてはならない。私はキッパリと言い切った。
「手厳しいことで」
「なんとでも言って」
「目的と理由…ですか。それに対する答えは…"真央様の為"ですね」
しかし私の厳しい対応にも特に焦りを見せずシノはあっさりと答えを述べる。
「はぁ?今のどこに鏡さんが絡んでくるの??」
今は神羅と日陰の話なのではなかったのだろうか。
いや。シノはこういう時に無駄な話はしない性格だ。つまり日陰と神羅の関係性を進めることは、鏡さんにとってなんらかの益となるということなのだろう。
「僕の目的は冬休み明けの三学期にある生徒会選挙で真央様を生徒会長にすることです。その為には優秀で知名度の高い味方が欲しい。まさしく二人ならうってつけ…というわけです」
「えぇ…?でも二人とも生徒会に入るつもりが今手一杯だからって理由でないみたいだし……ってまさか」
「今が手一杯ということは手一杯では無くなったら生徒会に入る…とも捉えられます。そして手一杯である理由は色恋沙汰…僕たちがそれを解決して二人のキューピッドになれば恩も売れて、敵も減らせて、強力な味方が一度で二人手に入る。むしろやらない理由の方がないくらいですね」
「……確かに日陰は恩とか借りとか無視できないタイプだろうね。日陰が生徒会に入るって言えばなんだかんだで神羅もついてくるだろうし」
失敗した時のリスクは計り知れないが、シノにとっては成功率が高いわけだし、リスクなんて補って余りあるハイリターンだろう。
「それだけではないですよ」
「まだ何かあるの……」
私はゲンナリとしつつ話を聞く。
「二人を引き込めれば一条院先輩への大きな牽制となることです」
一条院先輩…鏡さんが生徒会長となることに大きく反対を示している人だ。
「一条院先輩は現一年生の中から、真央様に対抗する為の次期生徒会長候補として複数人に狙いをつけています。レイレイはそのうちの一人。こちら側に引き込めれば凄く大きい…と、いうわけです」
「あ〜…なるほど。確かに神羅なら間違いなく候補に入っているだろうね…。でも複数ってことは神羅や日陰だけを引き入れてもどうしようもないんじゃない?」
「え?もちろん他の候補にも簡単に一条院先輩の方に行かないように色々仕掛けていますよ。当たり前じゃないですか」
「…一応聞いておくけど、合法な手段だよね?」
そんなことはないだろうと思っているが、体育祭のことがある。シノならグレーゾーンは平気で攻めてくるだろう。
「僕を犯罪者みたいに捉えるのはやめてほしいですね。違法なことなんてしていませんよ。一条院先輩は学年が一つ上な分僕よりも候補に接触する機会は少ない。そこを利用させてもらっているだけです」
本当かなぁ…。
「たとえば?」
一応聞いておく。
答えてもらえるかどうかは怪しいと思っていたが、私に協力してもらうためか、すんなりシノは喋ってくれた。
「そうですね…一条院先輩に声をかけられている人は全員僕の方からも勧誘の声をかけてあります。あとはまだ一条院先輩に見つかっていないけれど、候補に選ばれたら厄介な存在に対して色々細工したりとかですかね」
「ハイパーグレーゾーン…それかなりギリギリなんだけど」
「そんなことはないですけどね。ただ人の心を利用させてもらっているだけです」
シノはけろっとした顔で言う。
「一条院先輩に誘われているけど、シノからも誘われている…どちらの話も聞いている以上どちらかを裏切らなければならない。ほぼ毎日顔を合わせる同級生に知名度と発言力の高さを兼ね備えた先輩…どちらかを敵に回す。そんな決断簡単にできるわけがない。結局ほとんどの人は諦めて静観…事勿れを選ぶって寸法ね」
人の精神を利用した手段…かなり悪質だ。なんでこれが有罪じゃないんだよ本当。
「分かりますか。まぁ、あの状況でどちらかを選ぶというのはかなり勇気がいるでしょう」
「シノは全部分かっててやってるのがタチ悪いんだよ。ていうか何もそこまで一条院先輩を敵視しなくても。一条院先輩が鏡さんを認めてないからって…何もしてない人まで巻き込むのは」
「敵視?僕はしていませんよ。一条院先輩の方は僕のことを胡散臭いだとか信用できないと思っているようですが…それならそれさえも利用させてもらうだけです。一条院先輩は敵ではなく、いずれ倒す障壁…と言ったところですかね」
あの一条院先輩に対していずれ倒す障壁だなんてなかなか言えることじゃない。
「相変わらずの強靭なメンタル…そこは見習いたいよ本当」
「にしても…やはり一条院先輩から何か吹き込まれていましたか。大方、僕の手下とか言われて疑われたのでは?」
「流石。鋭いね。ていうかシノもきちんと説明しておいてよ…」
「疑われている本人の僕がなんと言おうと一条院先輩の考えは変わらないでしょう。別に一条院先輩も特に大きく動こうという感じもなかったですし、謂れのないことで疑われたあゆぽんが一条院先輩に対して多少の負の感情を抱くだけです。別にどう転んでも僕にとっては問題ないので」
「うわぁ…そういうところだよシノ。本当に敵に回したくなくなる…最早ついさっきの4組の交渉でも何か仕組んでたんじゃないかってくらい」
「はい。そうですね」
「え…?マジで!?冗談のつもりだったんだけど…」
「ドジーがゴネてくることは分かってたので。みこっちゃんにらあらかじめ話を通して黙らせました」
「えぇ〜…因みになんて言ったの?」
「このままドジーが学校の物を破壊し続けると近いうちに高額の弁償を要求することになる、と」
「確かにありえない話じゃないけど…努路本人によほどの悪質さがあるか故意であると認められないとなかなかそこまで行かないでしょ…」
努路はかなりの数の学校の備品を破壊しているそうだが、シノ本人が故意では無いと言っていた。
つまり元から弁償を要求する気はほぼなかったと見ていい。
弁償を要求するつもりなら、努路の備品破壊には故意や悪意があったと言うことにしておいた方が都合がいいからだ。
努路本人がたとえ認めずとも普通では考えられない量の備品の破壊。シノ側が圧倒的に有利になるだろう。
「万が一要求したとしても払うのはドジーの保護者の人でしょうけどね」
シノはどこまでも冷静に話を進める。
「いや仲良い人が高額の弁償代を要求されるところなんて誰でも見たくないに決まってるでしょ…まさか交渉を始める前からそんなことを仕組んでいたなんて」
通りで美言にありがとうと言っていたわけだ。
あれはゴネた努路を諌めてくれたことへの感謝かとあの時は思ったが、実際は事前に話した通りに美言が努路を止めてくれたことへのありがとうだったのだ。
「なかなかにえっぐいことするね…シノ」
「なんの手札も無しに僕は交渉なんてしませんよ。勝てるように事前にやれることはやっているに決まってるでしょう」
これが…生徒会"交渉"の仕事…余り私向きじゃないというか、シノがこなしすぎと言うか…。
必要悪という言葉がある。シノの生徒会交渉としての仕事はまさしくそれだ。
交渉の卓に着く前から入念な準備をして、策を練り、必ず勝てるようにする。
勝つ過程で人に残酷なことを突きつけなければならないことも数多いはずだ。
嫌な役回りであろうことは言うまでもない。
「シノの生徒会交渉としての仕事っぷり…素直に尊敬するよ」
もう少し手心を加えてもいいとは思うけど。
「僕は人事も兼任ですけどね」
「人事の方ではシノ結構やりたい放題してるじゃん…」
「まぁ、それはそうかもしれませんが。でも本来はあゆぽんに"人事"が移る可能性もあったんですけどね」
「え?そうなの?」
「そうですね。この学校は"人事"に対してかなり特殊なんですよ。権利が譲渡式なんです。譲渡には両方の合意が必要なんですけどね。因みに僕は蛍先輩から受け継ぎました」
「譲渡式!?初めて聞いたけど!?」
「この学校の生徒会では、二種類の入会方法があるんです。一つ目は直接の立候補。新入生が自ら立候補して入るのが最速かつほぼ確実な生徒会への入会方法です。二年生や三年生…要するに後から入る人は学校での活動や普段の態度なども見られるので新入生に比べてかなり審査が厳しくなります。二つ目は人事権を持つ者からのスカウト。あゆぽんはこれに当たりますね。因みに人事権を持つ人からのスカウトだけでなく、現生徒会役員過半数の賛成を得ることも条件です。あゆぽんは全員からの賛成を得ているのでかなり優秀ですね」
「初耳な情報ばっかりなんですけど…」
「教えてないですからね」
「ていうかスカウトでも審査あるんかい!私はてっきりすぐに入れるものかと…ってもしかして体育祭が終わるまで生徒会に入れなかったのって私に対する賛成反対の意見を聞く暇がなかったからってことなんじゃ…」
「ご明察です。正直あゆぽんは確実に入れると思っていたのでわざわざ言わなかったんですけど」
「わざわざ言って!?大事なことでしょ!」
「実際に入れましたし、別に良くないですか?」
「し、シ〜ノ〜!!」
驚きすぎて最早言葉が出ない。
「それで話を戻しますが…僕に未だ人事権があるのは僕が今いるメンバーの中で一番最後に入ったからです。そしてあゆぽんに人事権を渡さなかった理由は純粋に両者の合意が必要だからですね」
「え?つまり…」
「僕が許可してないのであゆぽんに人事権は譲渡されないということです」
「なるほどね…確かにシノは人事権持ってる方が都合いいし譲渡の許可なんてするわけないか」
「基本スカウトした人に渡すんですけどね。あゆぽんは転校生でもありますし別に渡さなくてもそこまで何か言われるわけではないですから」
「まぁ、別に私はこの学校の人たちにそんな詳しいわけでもないし人事権とかもらってもどうせ持て余すだけだからいいけど…こんな大事なことを隠すのは流石にいただけないよ」
「それに関してはすみません。人事権を欲しがるとは思えなかったので」
「それはそうだけどね!?完璧事後報告なのが問題なんだよ!!」
シノの言う通り人事権なんて貰ったところで困るだけだし、たとえシノが正直に私に聞いてきていたとしてもおそらく断っただろうが…情報を隠されていたことが胸の奥に引っかかる。
にしてもわざわざ私に協力して欲しいと頼んできたり、人事権を手放さなかったり、隠していた情報をわざわざ私に説明したり…選挙に対してシノは本気のようだ。
シノの性格というかこれまでの傾向からわかっているが、シノは相手を追いつめ、"詰み"の盤面を作り上げて自分の望む結果を手に入れる。そこに相手の意思は関係ない。しかし、シノはわざわざ隠していた情報や目的、心のうちを話してまで真正面から私に頼んできた。
シノはこんなことを考えなしにやるタイプではない。私からの協力を確実に得られると踏んでいるのか…それとも体育祭の件で私には小細工は厳しいと思ったのか。
…どちらにせよ今、シノは私を対等な協力相手として話してくれている。それがかなり大きいことは言うまでもないだろう。
それを踏まえて正直私の心はかなり揺れていた。シノは前に、鏡さんに関しては嘘をつかないと言った。つまりシノが鏡さんを生徒会長にする為に選挙に本気であると言うことは嘘ではない。シノの本心のはずだ。
それに日陰と神羅には前々からじれったいと思っていた。
…だって目の前でいちゃつかれるし。
しかし、下手なことをして二人を傷つけることだけは絶対にしたくなかった。だから二人に関してはただの友人…第三者ポジションで見守ろうと思っていたのだが。
シノが味方についてくれるのならこれ以上ないほどの強力な助っ人だ。それにどちらにせよシノ自身が本気な以上、例え私の協力を得られなかったとしても勝手に動くだろう。
それでも私を頼ってきたと言うことはそうすればより確実性が上がるからだと考えられる。
つまりここで私が選択するべき行動はシノに協力しつつ、シノが怪しげなことをしようとしていたらすぐに止めること。
どうせ勝手に動かれるくらいなら、私の手が届く範囲内でやってくれた方がよっぽどいい。
(なんか、まんまとシノに乗せられてる気がするけど…)
「分かったよ、シノ。あなたに協力する。…でも。シノが二人を傷つけるなら、私は全力で止めるから」
「勿論分かっていますよ。その答えが聞けただけで十分です」
そしてここにひーちゃんとレイレイをくっつけようの会が結成されたのだった。
情報の嵐のような回でした。
書くのも大変でしたが、何とか今週中に出せてよかったです。
今回の話に限ったことではないですが、シノの盤面を操る能力の凄さには毎回驚かされます。
あんな何気ないような行動や言葉ひとつにも意味があったのか…。
そして情報量が多いと言っておきながらさらに情報を追加します。
それが私です。
今回の話にシノが人事権を持っているのはシノが現生徒会メンバーの中で最も遅く入ったからだというのがありましたね。
というわけで、誰がどの順番で入ったのかの時系列をお話ししようと思います。ガチの裏話です。特に今後知らないと影響してくるとかはないと思います。
まず最初が綾目、凛堂、一条院の三人。この三人は入学初期に入っています。
最初は一条院に人事権が託されました。
そして一条院が蛍をスカウト。
蛍に人事権が移り、蛍は数間をスカウトしています。
ここであれ?と思うかもしれません。スカウトしたらその相手に人事権が移るのでは?と。
しかし、人事権の譲渡にはもうひとつ条件がありしたね。それはお互いの合意。
数間は人事権を欲しがらなかったので、蛍が人事権を保持していた形。
そこから時間が経って真央とシノが入ったんですね。それでシノが人事権を蛍から譲渡されたという形になります。
以上ガチの裏話でした。




