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22.生徒会研修:人事兼交渉 嘉神 忍

「歩友ちゃん、また明日〜」

日陰が教室のドアのところで手を振りながら言う。

「うん。バイバイ日陰、あと神羅」

「あととは何だ」

私はついでに日陰の横にいた神羅にも言っておく。

二人を見送ると、先ほどまでのにぎやかな感じは急にかき消えた。

まだ教室にはまばらに人がいるが、私にわざわざ話しかけてくるような人はいなさそうだ。

(生徒会室に行くまで少しだけ教室でゆっくりしようかな)

先日の一条院先輩についていた時と違い、全く人の視線を、注意を感じないこの状況。

あぁ…

「めっちゃくちゃ安心する。最高。ビバぼっち」

「何が〜?」

「うあぁぁぁ!?」

一体誰ッ!?さっきまでは私に声をかけてきそうな人なんて…!?

「ッてシノ!?」

「そうだよ〜やっほ〜」

ニコニコした顔でのんびりと話しかけられる。

「あ〜…あーっと…うん。やっほ〜?」

「あゆぽんってこういう時意外とノリいいよねぇ」

「ノリ、ノリね〜…うん」

先程の驚きの余韻が残っており、全く頭が回らない。これは何て返すのが正解なの?

「あゆぽん。驚かせたのは謝るから、そろそろ落ち着いてくれないかなぁ〜?」

そんな私の様子を見かねたらしく、シノが笑顔なのに眉を下げるという器用な顔芸を見せてきた。

(こんなこと考えるなんてまだ頭回ってないな…でも流石にそろそろ落ち着いてきた)

「あぁ…ごめんごめん。で、何か用?」

「生徒会の仕事の見学…生徒会研修だったかなぁ?今日、ボクの番だから。声かけに来たんだよ〜」

「え?今日はシノなんだ」

「いや、あゆぽん勧誘したのもボクだし〜生徒会の一員だって何度も言ってるのに〜」

「あ〜…そうじゃなくて。勝手に先輩のところ巡るんだとばかり思ってたからさ。シノと鏡さんのことは無意識に除外してた」

「なるほどね〜。じゃ〜呼びに来てせーかいかぁ」

「そうだね。でも、結局は生徒会室で会えた気はするけど」

「いや〜生徒会室まで行くと遠回りだからねぇ。行かなくて正解だよ〜」

「遠回り?」

「今日の仕事場所は1年4組だからねぇ」

「確かに違う階にある生徒会室まで行ってたら遠回りか。1年4組ってことは…また勧誘?それなら私はマジで力にはなれなさそうだけど」

「いや〜?違うよぉ」

「違うの?」

「今日の仕事は"勧誘"じゃなくて"交渉"の方だからねぇ」

「交渉…」

だから今日はほんわかモードなのか。まぁ、まだ教室に人が残ってるからっていうのもありそうだけど。

(ていうか1年4組…?なんか最近どこかで話を聞いたような…)

「それじゃあ行こっかぁ、あゆぽん」

「おっけ〜」

すると何故かシノに笑われた。

「本当にあゆぽんはノリがいいねぇ」

どうやら私がシノみたいに緩い返事をしたのが面白かったらしい。

「ちょッ…いや、シノの話し方に引っ張られただけだから!」

「そんな必死になって否定しなくてもい〜んだよぉ」

「むぐぐ…」

「それじゃ〜移動しよっかぁ」

「了解」

シノがまた笑っていたが、今度はもう気にしないことにした。

〜1年4組の教室前〜

「着いたねぇ」

シノがのんびりと言う。

「ここが4組…交渉って言ってたけど、結局何をするの?」

「う〜ん…まぁ、話し合いかなぁ?」

「へぇ…」

「あゆぽんは何も知らないし〜取り敢えず今回はボクの後ろで見ててくれたらいいからぁ」

「じゃあ、そうさせてもらうね」

「うんうん。まずは雰囲気を知るのが大事だからねぇ」

などと話していると、不意にガッシャーン!!という何かが割れるような音が響き渡った」

「ッ!?」

思わず耳を塞ぐ。今の音…もしかしなくても目の前の4組の教室から聞こえた気がするんだけど…。

しかしシノは何も聞こえなかったかと錯覚させるほどの余裕っぷりで、ドアを呑気に3回もノックして開ける。

ドアの先には、先ほどまでケンカしていたのであろう、ボロボロの生徒たちがいた。

なんならお互いの制服をつかみ合っている人たちもいるくらいだ。

「みんな〜?流石に分かってるとは思うけどぉ……その場から…動かないでね」

動かないでねの部分だけ、思わずゾッとするほどの冷たい声でシノが言い放つ。

4組の生徒たちは皆一様にビクゥッと肩を跳ねさせ、シノに怯えていた。

(一体何が…いや。と言うかさっきの何かが割れたような音は?)

シノが、ゆっくりと教壇の方へと歩いていく。

4組の生徒たちは焦った様子を見せたが、誰も止めようとはしない。

教室に緊迫した空気が流れる。

そしてシノが足を止める。その場にしゃがみ込んで何かを確認しているようだったが、それも数秒のこと。

立ち上がると、呆れたように口を開く。

「これはぁ…コナゴナに割れてるけど花瓶だねぇ。カケラしかないし、元花瓶だったモノの方が近いかもしれないけどぉ。全く…もう次はないって言ったはずなんだけどねぇ?」

シノは咎めるような視線をクラスに向けた。だが、誰も何も言い返さない。

「ゆっきー。何があったのか説明してくれる〜?流石に生徒会としてこれは見過ごせないからぁ」

シノは元から騒ぎを起こしたクラスの面々には期待していなかったらしく、他の生徒に声をかける。

「分かった。オレが説明する」

背の高い金髪の人が立ち上がり、シノの方へ歩み寄ってくる。

私もシノにゆっきーと呼ばれた金髪の生徒と同じタイミングでシノの方へと近づく。

教壇の足元では、シノの言った通り花瓶が粉々に割れていた。

幸い中身はなかったようだが、もはやみる影もない。

「オレもケンカを止めていたから全てを把握しているわけじゃないが…大体のことはわかっている。生徒会の仕事の助けにはなるだろう」

「キミたちがボクの仕事を倍増させてるんだけどねぇ」

「それは本当にすまない。再三注意はしているんだが…」

「まー今はそれはいーよ。ゆっきーだけのせいってワケでもないしねぇ」

「そう言ってもらえると助かる。今回の話だが…その女子生徒にも聞かせるのか?」

金髪の人は私の方を気にしているようで、不思議そうに私とシノを交互に見る。

「そうだよぉ〜。今生徒会研修ってやつをやっててねぇ。今日はボクの所だから〜」

「…そうか。それなら仕方がないな。…えっと」

困ったように金髪の人が髪をかき上げ、私の方を見る。

私には咄嗟に気づけなかったが、シノはすぐに気づいたようで、すかさずフォローを入れた。

「あ〜。ゆっきー視点はあゆぽんに会うの初めてだっけ?あゆぽんは揣摩 歩友っていってねぇ〜。ボクが生徒会に勧誘したんだよ」

(あ〜。私の名前がわからなくて困ってたのか)

「えっと、揣摩 歩友です。なんか大変そうですけど…よろしくお願いします」

「あぁ。オレも自己紹介がまだだったな。オレは黒瀬 結樹。4組の"リーダー"だ」

(黒瀬 結樹…?ッ!!体育祭の応援合戦の時胃痛ポジにいた人か!!!)

「えっと…黒瀬?って確か、体育祭の時に応援合戦でてた?」

「!!確かに出てたが…よく分かったな」

「いや〜胃痛ポジにいたのが印象的で…シノからその時紹介してもらったのもあると思うけど」

「い、胃痛ポジ…」

「あ、ごめん!!私人のこと覚えるの苦手でさ…失礼だったよね?」

「い、いや。大丈夫だ。気にしないでくれ。次からは普通に黒瀬でいいぞ?……流石に体育祭の胃痛ポジの人と覚えられたくはないしな」

重ね重ね本当にすみません…。

「リーダーじゃなくて、ボス!!やんな!?」

すると、後ろからひょっこりと新たな4組の男子生徒が顔を覗かせた。彼の右腕には一人の女子がくっついている。

「誠也…ボスは恥ずいからやめてくれって言っただろ?」

「え?でもボスって言い方やっぱカッケェよな〜って前いってたじゃん…じゃなくてやん!」

「ッ!とりあえず誠也は一旦黙れ!それに一番正確な言い方は学級委員だから!!」

顔を真っ赤にして黒瀬が反論する。

正直私はリーダーでもボスでもそんなに変わらないと思うけど…彼らにとっては大きな違いらしい。

「ゆっきー顔真っ赤だよぉ〜。なんだかんだで可愛いところあるよねぇ」

「う、うるせぇ!!取り敢えず今は割れた花瓶の話だろ!」

「そ〜だねぇ。今日はこのくらいにしておいてあげるよぉ〜。ゆっきー」

シノがからかいを多分に含んだ様子で言う。

「うぅぅ…。こ、コホン!それで割れた花瓶の話だが…単刀直入に結論から言うと、割ったのは誠也だ」

「薄々そんな感じがしてたけどぉ…ドジーまたぁ?」

「いや〜あはは…いつもちょうど悪いところに割れ物があるんだよなぁ…」

「わざとじゃないのは分かってるけどぉ…やっぱり4組の調度品はナシにせざるを得ないよねぇ」

「な、何でだ?やねん??」

「何でってぇ…ドジーは心当たりしかないでしょ〜?4組は九月いっぱいと十月頭だけで、窓ガラス4枚、水槽二槽、そして花瓶などの調度品もろもろを56個破壊してるんだよぉ」

「えぇ!?そんなにか!?」

「……因みにその中でドジーが破壊したものは窓ガラス1枚、調度品49個の合わせて50点。わざとではないとはいえ、流石に生徒会も動かざるを得ないよぉ」

「うちの誠也が本当にすまん…だが、誠也以外のうちのクラスの面々にとっては喧嘩の抑止力や癒しになったりと必要なものでもあるんだ。苦しいことを言っているのはわかるが、どうかもう一度考え直してくれないか?」

そう言って黒瀬が頭を下げる。

(シノが黒瀬のことを4組では話が通じる方と言ったのはこう言うことか。学級委員として前に立って説明して、責任も取ってくれるし、現状把握や現実の線引きもできてる。確かにかなり話ができる人ではあるね)

「はっきり言わせてもらうけど、それは厳しいと言わざるを得ないね」

シノが先ほどまでのゆるい雰囲気を捨て、きっちりした仕事モードになる。

「やっぱそうだよな…すまない。難しいことを言っている自覚はあるんだ」

黒瀬が顔を伏せて言う。

しかし、誠也と呼ばれている人物は納得がいっていないようだった。

「何でだよ?やねん!他のクラスにはちゃんとあるのに4組だけないなんて不公平じゃんか!!」

しかし、シノも譲るつもりはないようだ。

「4組だけないのが不公平…そんなことはないね。破壊された品々の修理費用や新しいものの購入費用は学年の予算から出てるし。むしろ4組にお金を使いすぎて逆に不公平な状況な訳。それに、今は僕がこの件を担当してるけど、このままいらない支出が増えたら、会計の数間先輩が来る。そうなる前にやめておくのが賢明だと思うけど」

「それでもだ!先輩でも先生でもなんでも来ればいい!全員を説得すればいいだけの話だろ!?」

「意気込みは立派だけどね。僕さえ説得できないようじゃあ厳しいよ」

「そんなことはーッ!!」

その時、それまでずっと誠也の腕にひっついていた女子がくいくいと誠也の袖を引っ張る。

そして女子の方を見た誠也に対して、ふるふると首を横に振った。

「………」

誠也が急に静かになる。しばらくすると、諦めたように息をついた。

「分かった。じゃあ取り敢えず無くすのでいい。ホンットーに!不本意だけどな!!…美言がいうから今はのんでやる。でもすぐに復活させてやるから!」

シノもゆるい雰囲気を取り戻し、美言と呼ばれた女子に声をかけた。

「みこっちゃん助かったよぉ。ありがとぉ」

美言は静かにこくりと頷いた。

「ん〜。ゆっきーとドジーはナシで良いんだよね?4組で他に不満がある人はいるぅ?」

誰も声をあげない。

シノは満足したように頷くと、じゃ〜そーゆーことでぇ〜と言って…ようやくハブられてた私が目に入ったらしい。

まぁ全く話について行けてなかったし、発言もしてなかったから仕方ないけど。

「あゆぽん…いたんだ」

「最初から居たよ!?て言うか一緒に教室に入ったでしょ!!」

「そぉだったかもねぇ〜。あ、ドジーとみこっちゃんはあゆぽんと会うの初めてだよねぇ。じゃあお互い自己紹介しなよ〜」

なんだか話を逸らされたような気がするけど、まぁいいか。

「新しく生徒会に入った揣摩 歩友です。よろしくね」

取り敢えず当たり障りのないことを言っておく。

「名乗るのが遅くなったな。俺は努路 誠也。んで、こっちは水無瀬 美言。学校では基本俺にひっついてて無口だ」

ぺこりと、美言という少女に首だけで礼をされた。

なんだか小動物のようなかわいさのある女子生徒だ。

(4組の人たちとも仲良くなれたら良いな)

などと思っていると、生徒会の話も終わったらしい。シノが声をかけてきた。

「それじゃあそろそろ4組でよっかぁ。あゆぽん」

「了解」

そして私たちは4組から立ち去ったのだった。

今回は生徒会研修シノ回です。生徒会研修もついに後半戦!(別に戦ってはいませんが)

それじゃあ次回はついに蛍先輩…ではありません。そして真央でもありません。真央は生徒会研修で忙しい凛堂先輩の代わりに綾目生徒会長についているので、生徒会研修では出てこないんですよね。あと、真央の仕事は次期生徒会長候補としてのものがほとんどなので、そもそも歩友が研修する理由も仕事もありません。

つまり、次回もシノです。シノ好きの方には朗報ですね。生徒会研修は全員一話にしようと思っていたのですが、シノだけ長くなり過ぎてしまうのでキリのいいところで切りました。

そして、今回は新たにネームドの新キャラが二人も出てきましたね。誠也も美言も両方とってもいい子です。ネームドということでこれからの出番も確約されています。あとは結樹ですが…正直まともに会話したのはこの話が初めてなので実質新キャラみたいなものです。

つまり新キャラ(実質)が三人…!?通りで長くなるわけですね。

後書きまで長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。

次回は最初からシノらしさ全開です。

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