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21.生徒会研修:広報 一条院 茉莉花

「貴女は今の生徒会をどう思われますの?」

カタカタと超高速のタイピング音が鳴り響く生徒会室で、一条院先輩から不意に投げかけられた問い。

私はそれにどう返そうかと少し悩み…何も言えなかった。

「手が止まっていますわ。多少の休憩は許可しますけれど、キーボードから極力手は離さないようにしてくださいね」

「は、はい…」

(一条院先輩スパルタだ…)

私はパソコンの画面と睨めっこしながら、パターン化された文面を打つ仕事に戻る。

幸いなことに手はまだ痛くない。

だがこうも単純な作業が続くと、どうしても考え事をしてしまう。

何故一条院先輩はあんな問いを急に投げかけてきたのだろうか…。

少しでも手掛かりを探そうと、私は生徒会室に着く前…教室に一条院先輩が来た時のことを思い出した。

〜数十分前〜

「それでは先生、何かお話はありますか?」

いつも通りの終礼。今日はきちんと早見先生が来ていた。

「ない」

特に確認することもなく、当然と言わんばかりに早見先生が即答した。何なら自分が何か忘れていても、お前らが個人できちんと把握しておくべきだろとでもいいたげだ。

(ほんと早見先生はブレないなぁ…。)

などと思っていると不意にザワザワと騒ぎ声が上がった。初めは教室からかと思ったが、どうやら違うようだ。

それは教室の外…窓を隔てた廊下から聞こえてくる。そして何故か次第にキャーキャーという黄色い歓声に変わっていった。

(いや…何事?)

私は状況が飲み込めず、困惑するしかない。タイミングは合っていたけど、早見先生のファンとかでもないだろうし。

ていうかそれなら普段から聞こえてくるはずだ。

などと考えていると、誰かが好奇心を隠しきれなくなったようでガラッと窓を開ける。

早見先生も、今回ばかりはとやかくいわなかった。

窓の外には余裕で廊下を塞ぐほどのたくさんの人が居た。にわかには信じ難い光景だ。その中心にいるのは…

(生徒会広報…一条院 茉莉花先輩!?学年が違うのに何で…?)

しかし、周りは一条院先輩が来ていると知るや否やさらに盛り上がった。

そのあまりに熱狂的な様子はまるで人気アイドルのライブにでも来たかのようだ。

しかし周りと違い、いつも通りを貫く人もいた。早見先生だ。

「一条院、騒ぐのはやめろ。いつまで経っても俺が職員室に帰れないだろうが」

ピシャリとした突き放すような言い方だったが、一条院先輩は特にそれに対し気にした様子はなかった。

優雅に一礼し、言葉を発する。

「それはそれは…ご迷惑をおかけしてしまったことは謝りますわ」

それだけでなく、周りの人だかりに対しての対処も迅速で抜かりない。

「皆さんもお静かにお願いいたしますわ」

優雅に人差し指を唇の前に持っていく。

たったそれだけで、周りは静かになった。

しかし一部の人は一条院先輩への態度が納得いかなかったのか、早見先生に対して恨みのこもった目を向けていたが。

「ふふ。静かになりましたわね。それでは早見先生…続きをどうぞ?」

「ふん。それじゃあこれで終礼を終わる。起立!」

ガガガッと音を立てて椅子を引き、クラスの全員が立ち上がる。

「礼」

全員が静かに礼をする。

「解散」

そう言われた瞬間。解放されて、盛り上がった生徒たちが一条院先輩に一気に押し寄せた。

「一条院先輩、しゃ、写真を一緒に撮ってもらえませんか…?」

「一条院先輩が来るなんて…!キャー!!」

「公式SNSいつも見てます…!!」

「握手してくださいッ!」

大勢の生徒が、各々やりたい放題しているせいで廊下は無法地帯と化していた。

それどころか、廊下を通ろうとした無関係の生徒でさえ廊下を塞いでいる生徒に怒るどころか逆に集団に混ざり、誰も一条院先輩に対して嫌な顔を浮かべることがない。

それだけ一条院先輩に人望と人気があるということだろう。

(…この人ほんとにただの生徒会広報なの??)

いくら一般生徒に比べて認知度の高い生徒会役員とはいえ、生徒たちのこの熱狂っぷりは異常だ。

一条院先輩を訝る気持ちが視線に出ていたのかもしれない。

それまでそつなく生徒たちとの交流をこなしていた一条院先輩は、ふいにこちらに視線を向けた。

(やばい…バレた!?……いやいや落ち着け。私は何も悪いことはしていない…はず)

しかし、急に視線を向けられると何だか落ち着かない気持ちになり、すっと視線を逸らしてしまう。

(私のこういうところが陰キャたる所以なんだろうなぁ…分かってるけどなかなか変えられないよね)

しかし、一条院先輩は特に気にした様子はなくそのままにこやかに私に話しかけてきた。

「あら。貴女…揣摩 歩友さんね。今日は私と一緒に仕事する予定でしょう?迎えにきたわ」

「あ、ありがとうございます…い、一条院先輩」

そう、ありがたい。ありがたいんだけど…最悪だ。

さっきから誰だコイツという視線が一条院先輩親衛隊(今適当につけた)の面々から放たれ、グサグサと突き刺さっている。しかもフルネームで呼ばれたせいで下手な誤魔化しも効かない。

まぁ、本来誤魔化す必要性は全くないはずなのだが…親衛隊メンバーの放つオーラが控えめに言って結構怖かった。

神羅も同じように私に対して怖い視線を向けてきていたが、一人かつ下手な接触はしてこなかっだけよっぽどマシだ。

偏見かもしれないけど、こういう熱狂的なファンって過激なイメージあるし。

(一難去ってまた一難ってわけ…?洒落にならないんだけど)

大体ただ生徒会の仕事をするというだけでなぜこんな状況に陥っているんだ…。

(しゃーない。一刻も早く一条院先輩と生徒会室に行こう…それなら流石についてこれないでしょ)

そう思っていた私の考えはだいぶ甘かったらしい。

(…気持ち悪い)

四方八方からのいろんな感情が入り混じった視線。ただ校内を歩いて移動しているだけなのにいつまでも減らない後をついてくる群衆。

「一条院先輩…」

流石に我慢しきれなくなった私は、一条院先輩に声をかける。

「えぇ。わかっているわ」

一条院先輩は優雅に頷いた。

良かった…この気持ち悪い状況を何とかしてくれるみたいだ。

「仕事内容でしょう?」

(違う!そうじゃない!!いやそれも大事だけど!!)

「い、一条院先輩…」

「移動中に話しておかないと、タイムロスが発生するものね」

「あー…ハイ。ソウデスネ」

これはダメそうだ。というか冷静に考えれば一条院先輩にとってはこの状況が日常なわけで。

転校してきてまだほとんど話せる人ができていないコミュ障陰キャの私とは、いわば対極に位置する。

視線が気持ち悪いです!つけてくるの不快です!などと言ったところで通じるわけがない。

そもそも一条院先輩は結構コミュ力があるタイプだ。それはさっきの教室での出来事でわかっている。そういうのがいやなら、対策の一つや二つとっくにしているだろう。

それがないどころか、交流までしていると言うことは…一条院先輩は親衛隊の存在を認めているということだろう。

(つまり…諦めるしかないってことだね)

私は諦めて心を無にしながら、仕事の説明を一条院先輩から聞くのだった。

そして…生徒会室に着き、扉を閉めることでやっと気を緩められ…仕事をこなしていたわけだが。

少しして唐突に投げかけられたのが今の問い。

「貴女は今の生徒会をどう思われますの?」

感情の読み取れない微笑みを浮かべ、一条院先輩は私に再度問いかける。

(何かは言わないといけないよね…)

「え、っと…カオスだな〜って思いますね?」

「なぜ疑問系なのですの…まぁ、いいですわ。わたくしが聞きたいのはそこではありませんもの」

「と、言いますと…?」

(あ〜胃がキリキリする。なんか良くない雰囲気だよねこれ…)

でも一条院先輩は有無を言わせない雰囲気を纏っており、会話を逸らすことはできなさそうだ。

「聞き方を少し変えますわ。貴女は今の生徒会会長をどう思われるのかしら」

「どう、って…正直分からないです。まだ生徒会の仕事を始めて数日で…そんなに話したこともありませんし」

「それもそうですわね。でも、その数日で薄々気がついていたのではなくって?"綾目 繋は生徒会会長の座に相応しくない"と」

先程までの一条院先輩とは違う。怒りとも失望とも言えない。求めているモノが手に入らなかった子供のような…いや。手に入らないと気づいて諦めてしまった人の…どうしようもない虚しさを感じた。

「…それは。どういう意味、ですか?」

「今の生徒会会長は足りていない。いや、届いていない…という方が正しいかしらね」

「会長に…相応しくない、と?いや、でも選挙で選ばれたんですよね??正式な手順を踏んでいるのではないですか?」

「えぇ。そうね。あんなおふざけ。一時の間違いが大きな悲劇を…今を生み出した。でも私は託された。だからもう、間違えるわけにはいかないの。今年はどうしようもなかったけれど。来年…その為に今年を全て費やしたわ」

「ちょ、ちょっと待ってください!話が全く読めないんですけど!?それに生徒会長は学校一人望があって慕われてるって…!だから生徒会長になったのではないんですか??」

というか意味がわからない。相応しいとか託されたとか…急に言われても私は何も知らないのだから混乱する一方だ。

「人望?選挙?そんな物関係ないわ。会長は生徒会を…ひいては学校を壊している。今は瀬戸際なのよ。今年は何とかなったかもしれない。でも来年は?新入生も入ってくるのよ。生徒会が…学校が壊れたら!一体どうするの?貴女にその責任が取れるのかしら」

「お、落ち着いてください!」

「私は至って落ち着いているわ」

そういう人に限って落ち着いていないのだ。案の定一条院先輩も目を吊り上げ、キツイ眼差しを向けてきている。

「えっと…要するに綾目先輩が生徒会会長に相応しくない。このままだとやばいから来年に向けてまともな生徒会長を選びたいっていう話ですか…?」

「えぇ。本当は今すぐにでも綾目を生徒会長の座から引き摺り下ろしてやりたいところだけどね。でもあれはあれで絶妙なバランスを保っているのよ。だから簡単には壊せなかった。一箇所が綻べば一気に崩れてしまう可能性があったから。だから、次の選挙…その時までにまともな生徒会会長候補を見つけ出さなきゃいけないのよ」

鼻息荒く一条院先輩が言う。先程までの淑やかさはもうかき消えていた。

「一条院先輩の事情はわ、分かりました…でも、鏡さんがいるじゃないですか。鏡さんじゃダメなんですか?」

「ダメね。論外よ。話にすらならないわ」

(一蹴なんていうレベルじゃない…)

「いやでも、鏡さんは生徒会で一年働いたと言う実績もあるわけですし…みんなで協力すれば大丈夫では?実際今までだってそうしてきたんじゃ…」

「みんなで協力…?貴女がそんな甘い考えを述べる人だとは思わなかったわ。それに、まだ関係が浅い鏡 真央の事をそこまで庇うなんて…やっぱり私の予想は当たっていたみたいね」

「予想…?って何ですか?」

「あら。しらばっくれるつもり?無駄よ。貴女は嘉神 忍の手駒でしょう?あの男が急にそれまで声をかけていなかった存在…それも転校生をスカウトしてくるなんて信じられないもの。あなたを都合のいい駒として使うつもりなんでしょうね」

「誤解です!庇うなんてつもりじゃありません。ただそうした方が確実なんじゃっていう話で…」

「そうやって否定することが自身の容疑をさらに深くしていることに気がつかないのかしら。…あぁ。それともあの男の素顔にまだ気がついていないの?それなら御愁傷様。あのアホ面は嘉神 忍の本性を隠す仮面にすぎないわ」

「………」

これは…何を言ってもダメそうだ。そもそも全く冷静になって話を聞いてくれないし、一条院先輩にはシノに対する根強い不信感があるらしい。

「…私がシノの手駒なんてありえないのに」

はぁ〜と深くため息をついて私はボソリと本音を溢す。

全くもってとんでもない誤解だ。

「貴女はあくまでも自分は駒ではないと言い張るのね。でも本人にそのつもりがなくても、利用させる…あの男はそれくらいはやってのけるわよ。せいぜい用心することね」

「心配してくれるんですね。どうもありがとうございます」

半ばヤケクソ気味に私は返した。

「………」

そうだとも違うとも言い切れないようで、一条院先輩は複雑な表情を浮かべた。

私はふと、再び手が止まってしまっていたことに気がつき、仕事を再開する。

一条院先輩の声が響いた。

「貴女、かがみについていないと言ったわね」

「そうですね」

その"かがみ"が鏡さんとシノどちらを指すのかは分からないが、別に私はどちらにもついたつもりはないので問題ない。

鏡さん、シノ、一条院先輩…誰をとっても敵に回したら碌なことにならないのは明白だ。

(私は中立を貫かせてもらおう…)

それが一番安全だろうし。

しかしそううまくはいかないのが現実だ。

一条院先輩は少し考えた後、慎重に口を開いた。

「それなら貴女、こちら側につくつもりはない?」

「はい?」

(最近は本当によく幻聴が聞こえるなぁ…)

「貴女自身は中立を保つつもりのようだけれど、貴女が今後あの男に都合よく使われないという保証はない。それならこちら側に置いておいた方がいいもの」

「えぇ〜…」

「嫌そうね」

「嫌ですよ、もちろん。どっちにつくとかつかないとかそういうギスギスしたのが嫌だから中立を選んでいるのに意味がなくなっちゃうじゃないですか」

「でも、わたくしとしてはこちらについてもらった方が安心できますの」

(急にお嬢様モードに戻ったなぁ…)

切り替えの速さはシノそっくりだ。

…言ったら間違いなく怒られるだろうから言わないけど。

「私が裏切るとかは考えないんですか?」

「あら。私を前にして裏切れますの?」

すごい自信だな…。

「ナイです」

そりゃもちろんないよ?ないに決まってるよ?でもさぁ…何だか言わされてる感じがする…。

「まぁ、別に嫌がる人に無理強いする趣味はないですし、中立のままでかまいませんわ」

「本当ですか!?」

「えぇ」

一条院先輩は笑みを深める。

「良かったぁ〜」

「中立なんて保ち続けられるわけがありませんもの」

ボソリと一条院先輩が呟く。

「え?」

あまりよく聞き取れなかった。なんて言ったんだろう…?

「今日の仕事はここまででいいと言ったんですわ。ほら、もう時計も午後五時になりそうですし」

「あ、本当だ…」

意外と時間が経っていたんだなぁ…全然気がつかなかった。

パソコンをシャットダウンし、荷物を準備する。

(結局一条院先輩は何を言ってたんだろう…?)

「それではお先にどうぞ。施錠はわたくしがしますので」

「あ、はい。ありがとうございます」

私は一条院先輩にお礼を告げ、生徒会室から帰るのだった。

今回は一条院先輩編です。

人気で、可愛くて、優秀なお嬢様…天は何物を与えるのかと言うくらい持ってる人ですね。

まぁ、その反面生徒会に関することには人一倍厳しかったり、色々と根回ししていたりもしますが…。

それでは少し裏話。実は生徒会メンバーは今作観察者(以下略)とはネーミングのルール?というか付け方が違います。

数間先輩だけ仲間外れなのですが…生徒会メンバーは名前に「花」が入っています。勘の良い方は既にお気づきだったかもしれませんね。

観察者の方は文字通りというか名は体を表すシステムです。

それを踏まえていただければ更に面白く本作を読めるかと思います^ ^

来週は2話出せればいいなぁ…。

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