20.生徒会研修:会計 数間 爽
昼休み。いつも通り日陰、神羅、私の三人で昼ごはんを食べる。
最初の方は、神羅は独りで昼食を食べていたのに、最近は毎日一緒だ。
初めの方は冷たくて、日陰ともギクシャクしてたのに随分とまぁ変わったものだと思う。
まぁ、仲がいいに越したことはない。
などと思っていると、ふと日陰に話しかけられた。
「歩友ちゃん、生徒会どうだった〜?」
「あぁ…昨日からだっけか」
神羅も薄いものの反応を返す。
(少し茶化してみるか。時にはこういうのもいいよね)
「そんなことを聞いてくるなんて、日陰も生徒会に入りたくなっちゃった?」
「いや別にそんなことはないけど…」
即答ですやん…(唐突な関西弁
「揣摩、普段別にそんなキャラじゃないだろ…」
何故か神羅にも変な物を見るかのような視線を向けられた。納得いかない。
「いや、仕事が!仕事がどうだったのかな?って。他の生徒会の人もいたんでしょ?どうだった〜?」
日陰が再度質問してくる。
「ん〜…仕事はそんなだね。ちょっと書類の仕分け手伝ったくらい。副会長の凛堂先輩の方がテキパキしてて凄かったよ」
「凛堂……あ、菫先輩か〜!!確かに凄くてかっこいい先輩だよね!」
「他の人はどうだったんだ?」
「生徒会長と、なんか結構怖い感じの先輩と…あと、お嬢様みたいな先輩と、小学生みたいな身長のアホ毛が凄い先輩?がいたね」
「あ、あはは…」
日影は苦笑いを浮かべる。大体誰か予測がついているらしい。日陰の情報網すごいな…。
私なんてあれだけ濃い自己紹介を聞いたのに、凛堂先輩以外の名前が既に思い出せない。まぁ、分かってはいたことだが…。
(一気に五人は人の名前と顔を覚えるのが絶望的に苦手な私には無理…一人ずつしか覚えられない)
だから仕事の流れに沿ってそれぞれの生徒会役員のところへ行けるというスタイルは意外と今の私に適していた。
(今日は一体誰のところで生徒会の仕事をすることになるのかな…?)
〜放課後〜
ガラリとドアをスライドさせ、私は生徒会室に入った。
(今日は一番乗り……いや、違う)
あまりにも音がしなかったので一瞬気づかなかったが、そこには確かに一人…先輩がいた。
(えっと…誰だっけ?)
自己紹介の時に、人一倍厳しそうで圧の強かった先輩だ。
(…たしか、会計…だったはず。だよね?違ったっけ…?)
先輩の様子を見るに既に仕事をしているらしい。何やらぶつぶつと呟きながら、一心不乱にシャーペンを動かしていた。
すごく声がかけづらいし、名前なんでしたっけ?なんて聞いた暁には邪魔だ、どこかに行けとにべもなくあしらわれそうである。
思い出せないものは仕方がないので、末席にある自分の机に向かっていく。すると、机の上にカゴが置かれているのが目に入った。周りを見ると、他の人の机にも置かれている。
そのカゴは、つい昨日よく視界に入れたものと似ていた。ただし違うのは、私の名前が書かれた紙が貼られていること。
「揣摩 歩友…これって」
もしかしなくても、私の仕事だな…。
凛堂先輩の机の上にも、カゴが置かれていることを考えると、どうやら凛堂先輩は帰る前に全員に仕事の入ったカゴを置いてから帰ったらしい。
ぱっと見でも、私が帰った時点よりも生徒会役員全員のカゴに入っている書類の数が増えていることがわかる。
あの後すぐ帰りそうな雰囲気だったが、一時間やそこらで帰ったわけではなさそうだ。
(凛堂先輩本当に大丈夫かな…?)
すると、書類の上に走り書きされたメモがあることに気がついた。
〈今日は、爽について仕事をよろし〜〉
その後にも何か続いていそうだったが、仕事をよろしの後から字がブレッブレで解読不可能だった。
(爽…あ、思い出した!目の前のこの先輩の名前!!数間 爽先輩!)
てことは…今日は数間先輩と、一緒に仕事だ。
ちらりと、横目で数間先輩の様子を伺う。相変わらず、ぶつぶつ何かを言いながらシャーペンを動かしていた。こちらには目もくれない。
仕方ないので、一応下のプリントの山も確認する。多岐にわたる内容の書類だった。昨日仕分けた受注書に似ている。
そして、改めて数間先輩の様子を伺う。全く変わっていなかった。
どうやらこちらからアクションを起こすしかなさそうだ。
このままでは気まずい雰囲気で帰ることになる。それに凛堂先輩のメモに、数間先輩につけと指示もあったし。
私は立ち上がると、てくてくと数間先輩に歩み寄った。声をかけるのは憚られたので、そうっと後ろから覗き込んで何をしているのか観察してみる。
「3、1、4、1、5、9、2……(ぶつぶつ」
結構な桁の数字が並んだ書類の空欄を、物凄いスピードでガリガリと埋めていた。
(確か、数間先輩の役職は会計…と、いうことはこの書類は十中八九会計関連の書類か)
に、しても…早いな。めちゃくちゃ早い。何って?数間先輩の計算速度が。
しかも、かなり桁数の大きい計算なのに、全くミスがない。
他の紙にも計算の跡があり、多いものでは十桁くらいはありそうなものもあった。
(この人もこの人で凄いんだな…生徒会って優秀な人たちばかりだ)
「何をそこでボーッとしてる」
ふと、凄く不快そうな声が耳に入った。
「はい?」
「何を突っ立っているんだ?さっさとお前の仕事に取りかかれよ」
(数間先輩容赦ないな…。いや、でもポジティブに行くか。ようやく向こうから作業を中断して話しかけてくれたし)
「その仕事なんですが…」
私は懐から凛堂先輩のメモを取り出すと、数間先輩に見せた。
「あ?なんだこれ?…ッ!?」
「今日の私の仕事は数間先輩の所みたいです」
「ハァ!?ありえねー、マジだったのかよ…。ったく、凛堂め…会計の仕事に手伝いなんていらないと何度も言ってんだろ…」
とびきりの嫌そうな顔で、数間先輩は前髪をグシャっと持ち上げた。
そしてギロリと私を睨みつける。
(怖…て言うか別に私睨まれるようなことしてないのに…いや、してたか)
私が仕事をせずに、ジロジロ見てたのがお気に召さなかったのかもしれない。
そこに関しては事実だから何の弁解もできないしなぁ…。
しばらくの間、生徒会室に沈黙が落ちる。
少しして、数間先輩が重たい口を開いた。
「蛍のところに行け。俺のところにお前が手伝えるような仕事はない。つーかそもそもお前の手を必要としていない」
「ほ、蛍先輩ですか…?」
蛍先輩…は確かこの前数間先輩に幼女呼ばわりされていた生徒会の先輩だろう。…おそらく。
しかしそれでは凛堂先輩の書き置きに反してしまう上、肝心の蛍先輩がどこにいるのかも全く分からない。
それに私は、転校してきてから日陰に頼り切りだったので校舎の構造をいまいち把握していない。
そんな状況で人探しなんてしようものなら、私が迷子になって逆に探される側になるだろう。
て言うか何で蛍先輩…?探すにしてもまず凛堂先輩を探すべきでは??
と、言いたいところだが…数間先輩の言い分がわからないわけでもなかった。
確かに言い方はキツイものがあるが、そもそもあれだけの計算速度と精度の高さがあれば、他の人が入ったところで足手纏いにしかならないだろう。
それなら教える時間でその分仕事を終わらせてさっさと帰る…そちらの方を選ぶことを責める権利は私にはない。
…手持ち無沙汰にはなってしまうけど。
などと考え込んでいると、数間先輩からの追い打ちが入る。
「何をボーッと突っ立ってんだ?さっさと蛍のところに行けと言っただろうが」
「いや、でも凛堂先輩が…」
「気にしなくていい。凛堂には俺から言っといてやるよ」
「え、でも…」
いい、のかなぁ…?どこか腑に落ちない。
「あ」
すると数間先輩が、何かを思い出したかのような声をあげた。
「どうしたんですか?」
「今日蛍休みだった。やっぱ行かんでいい。帰れ」
「や、でも」
「帰れっつってんだろ」
「後輩いびりかしら?感心しないわね、爽」
「…げ、凛堂」
凛堂先輩が、数間先輩の正面にツカツカと歩み寄る。
「げ、じゃないわよ!!今日はあなたに指導を任せるって書き置きを残したはずだけれど?」
「前々から言っているだろ。俺の仕事は手伝いなんていらないと。はっきり言って邪魔でしかない」
「まぁ、確かにあなたの仕事が早いことは事実ね。爽が自分の仕事で残業したことはないもの。…でも、爽が仕事ができない状況に陥る可能性だってゼロではない。せめてもしもの時を何とか凌げるくらいにはしたいのよ」
「もしもの時だと?そんな時のための余裕が今の生徒会にあると思ってんのか?」
どんどん二人が険悪な雰囲気になっていく。
「確かに今の現状に余裕がないのも事実よ。でも、そんな状況で問題が発生したらさらに手がつけられなくなる。それくらいは分かっていてくれていると思っていたのだけれど」
「凛堂がそうやって仕事を増やすから負担が大きくなる一方なんだろうが!」
「1番の問題は会長でしょ!?」
「……そうだな」
「…えぇ、そうね。ごめんなさい、取り乱したわ」
「ったく、しゃーねぇ。今回は折れてやるよ。そこの新入りの面倒見りゃいーんだろ」
「えぇ、助かるわ」
「綾目は今どうしてるんだ?」
「空き教室に篭らせてのスピーチの原稿作りよ。久しぶりに少し気が抜けるわ…」
「いい加減綾目どうにかするべきだろ…」
「そううまくいったら苦労してないわよ」
「だろうな」
「それじゃあ、私はそろそろ戻るわね。いつも通り普通に切り上げて帰ってくれたらいいから」
「分かった」
(…会話についていけなさ過ぎる。まぁ、でも何とか数間先輩も私に会計の仕事を教えてくれる気になったみたいだし、良かったよかった)
めでたし、めでたし。
…で、終わるわけはまぁなかった。最近はこんなのばっかりだ。
ひょい、と数間先輩に何かを手渡された。
黒い枠の中に茶色い珠が規則正しく並んでいる。
こ、これは…
「そろばんだ…」
まごうことなきそろばんだった。
何で??会計の仕事にそろばんいる?電卓じゃダメなの…?
頭の中に疑問符が浮かぶ。
「それじゃあ、5時までこのテキストでも解いてろ。もちろん電卓は使用禁止だ」
数間先輩からそろばん4級のテキストを手渡される。
うん…いやだから何で??
「え?そろばん…?え??」
「それやってたら静かだし、集中力もつくしで一石二鳥だろ。大体まだ、会計の書類に触るのは早い」
「えぇ…」
「言っとくが、別にただの意地悪というわけではないからな。会計の仕事に一番大事なのは、大きな桁の数字に長時間向き合い続ける集中力だ」
「な、なるほど…」
すみません。ただの意地悪だと思ってました。
パチパチ、パチ。ジャキン。
パチパチ、パチ。ジャキン。
(これでいいのかなぁ…)
私は帰るまでの間、ひたすらそろばんの珠を弾き続けたのだった。
今回は数間先輩が新しく出てきましたね。この人は生徒会会計です。
蛍先輩との関係が気になるところですが、残念ながら蛍先輩は生徒会研修最後です。
過去話を見返してみたのですが、蛍先輩は生徒証を見せていただけでおそらく自分の役職は名乗っていないので、最後ということは…と、ぜひ考えてみてください。
あとは…話は少し変わりますが、この話のとある"違和感"に気づけたら爽と歩友の凄さを感じられるかもしれませんね。
是非読み返してみてください^ ^




