19.生徒会研修:副会長 凛堂 菫
「と、いうことで…改めて自己紹介しておくわね。私は凛堂 菫よ。今日は私と一緒に仕事の振り分けを手伝ってもらうわ」
凛堂先輩が眼鏡の鼻をくいっと上にあげながら言った。
(めちゃくちゃ仕事できそうな感じの先輩だ…)
「分かりました。で、どの仕事を振り分けるんですか?」
「いい質問ね。まずはあそこの机に乗ってる奴よ」
凛堂先輩は山ほど書類の載っている机を指差す。
他の机はせいぜい一つぐらいしか無い書類の塔が、凛堂先輩の指差した机だけ机いっぱいに書類が積み重なり、難攻不落の山と化していた。
恐ろしいことに、山を形成している書類の塔はどれも30センチをゆうに超えているように見える。
「え……これ、全部?ですか??」
「安心して。それだけじゃないわ」
「どの辺を安心しろと…?」
「机の足元に二、三個ある段ボール箱に入っているやつもさばかなければならないわ」
蛍先輩の言っていた意味が今ならわかる。
人の数に対して仕事の量が多すぎる…!
そりゃあこんだけ仕事があれば、毎日残業確定であろう。
私という労働力に対して必死になったのにも頷ける。
「ていうかこれだけの仕事、一体どうして…?」
そもそも生徒会の仕事は普通ここまで多くないだろう。これまで生徒会に関わったことなど全くないが、それくらいはわかる。
「会長が…受注してくるのよッ…!!」
凛堂先輩が声と拳をふるふると震わせて言った。
「会長が?一人で引き受けられる量を優に超えていると思いますけど…?全部の仕事を引き受けているわけでもあるまいし」
「ご明察ね。全部の仕事を引き受けているのよ。文字通り」
「は??」
「会長は人望だけは余裕で学校1なくらいあるし、人前に立って話すことがとても得意…でも、とんでもないくらいイエスマンで、断れないさがなの…。だから見境なくお願いされた全部の仕事を引き受けてくるのよ!!」
「はい!?で、でもそれでもここまでの仕事の量にはならないんじゃ…」
「普通は、ね。でも会長が頼まれたら断らない性格なのは学校中に知れ渡ってる。良くも悪くも知名度が広くて人望もある人だから…」
「ダメ元で普通なら断られるであろう仕事でも万が一にかけて頼む人が続出する、と…」
「あとはもういうまでもないでしょう?…地獄よ」
「うわぁ…ていうかそれなら会長のそばにいて明らかにダメなのは断るとかできないんですか?」
「私や他の役員が会長のそばにいられる時はそう出来るけど…今年は運悪く誰も会長と同じクラスじゃないの。最近は仕事が増えすぎて私が会長のそばにつくことがほぼできないから、真央さんに頼むことが多いけど…正直忙しくなる一方よ…」
「やばいですね…」
「やばいのよ」
「仕事の流れに沿って…って言ってましたけど、最初生徒会長のところにならなかったのって…」
「えぇ。一刻でも早く仕事を減らせるように経験を積んでもらいたかったからというのが一番大きいわね。…まぁ、そもそも最初から会長のところに行ったってどうせあの人は全部の仕事を受注してくるし、どれを引き受けるかの判断もできないでしょう?」
「じゃあ生徒会長と仕事をする機会って無いんですかね…?」
「そんなこともないと思うわよ。誰も会長のそばにいられない時が全くないとは言い切れないし。それにあの馬鹿会長は基本、放課後に一度は生徒会室に来るわ。…冷やかしがほとんどだけれどね」
ついに馬鹿って言っちゃったよ凛堂先輩…生徒会長には結構思うところがあるらしい。
「この前なんて、やってもやっても仕事が終わらないです〜って机に突っ伏してぐったりしてる蛍に対して、頑張れ〜とか元気出せよ〜とか適当いいながら蛍のぐったりしてるアホ毛をツンツンして遊んでたわ…」
「あ、あはは…」
本当に仕事はただ引き受けて、やらないんだな…。
確かに今思えば、自己紹介でも事務仕事をしているとは一言も言っていなかった気がする。
「っと、話が逸れてしまったわね。それじゃあ仕事の振り分けだけど…簡単に説明するわね。まぁ、当然だけれど…何もないのに部費を100万円増額して欲しいとか、教室に一人一台専用クーラーが欲しいですとかの明らかに無理そうだったり、意味のわからない受注書は無視していいわ。その場であの赤いカゴに入れてね」
凛堂先輩が、不受理と書かれた紙が貼ってあるかなり大きいカゴを指差した。横には、それぞれの生徒会メンバーの名前が書かれている紙が貼られたカゴもある。
「了解です。ちなみに不受理と処理される仕事ってどのくらいあるんですか?」
「そうね…全体の7割くらいかしら」
「な、7割…??」
「それだけあの馬鹿会長が必要ない仕事を受注してきているということよ…」
「多すぎません…?」
「そうね。不受理処理も本人に直接言うか、書類またはメールで通達するかしないといけないから結局全員の仕事が余計に増えるのよね…」
何度くだらない内容の受注書を破り捨てたくなったことか…!!と、凛堂先輩は拳を振るわせていた。
お疲れ様です…。
「まぁ、それで受理する仕事だけど…前の自己紹介でみんなの仕事内容はあらかた把握してるでしょ?それに合わせて適当に分けてくれたらいいから。多少ズレてても大丈夫よ。あとどれにも当てはまりそうにないのは蛍ね。まぁ、わからないやつは私に聞いてくれればいいわ」
「了解です。それじゃあこの書類の山を…」
「えぇ!片付けるわよ!!」
〜書類の山片付け中〜
(仕事を一緒に始める前から薄々気づいていたけど…凛堂先輩めちゃくちゃ仕事が出来る…!!)
私が一枚の受注書を読み終えて、悩んだ末に判断してそれぞれのカゴに仕分ける間に、凛堂先輩は10枚くらい仕分けていた。
書類を読むスピードもそうだけど…仕分けに全く悩んでいない。
…まぁ、これは経験の差かな?
ちらりと横目で凛堂先輩の様子を伺う。
涼しい顔で書類の束をサクサク仕分けていた。…全く読んでいないのかと思うほどのスピードだ。
(もしかしなくても、凛堂先輩のお陰で今の生徒会は回ってそう…)
すると視線に気づいたのか、ふと顔を上げて凛堂先輩がこちらを見る。
「どうしたの?何かわからない書類があった??」
(気遣いも完璧だぁ…先輩の仕事っぷりに見とれてましたとも言えないし、適当な書類を出して誤魔化そう)
「えっと、この書類なんですけど…」
「あ〜…一年四組の調度品の件ね」
「普通は会計の数間先輩だと思うんですけど、何か過去の件ではシノが担当してますよね?同学年だからとかですか?」
「それは当時爽が忙しかったから、シノ君に回した仕事ね。今は爽がこの件で動けないこともないと思うけど…そうね。シノ君に引き続き任せたほうがいいと思うわ」
「了解です」
私はシノの名前が書かれたカゴに書類を入れた。
〜数十分後〜
キーンコーンカーンコーン♪とチャイムがなる午後五時を知らせるチャイムだ。
凛堂先輩がにこやかに私に話しかけてくる。
「ありがとう歩友さん。お陰でだいぶ書類の山が減ったわ…」
「いえ…ていうか凛堂先輩のほうがすごいスピードで書類捌いてましたし。私のしたことなんて微々たるものですよ」
「謙遜はいいのよ?この学校の生徒会には多種多様な仕事が舞い込んでくるもの。みんな最初は戸惑うし、それについていけなくてやめた役員も数多くいるわ。きちんと教えたことを吸収して仕事をこなす…それをしてくれるだけでも仕事の量は大きく変わるのよ」
会長はどうしようもないけれどね、と凛堂先輩は肩をすくめて見せた。
「あはは…まぁ、適材適所って言葉もありますし…」
「そうね。あ、もう帰ってくれていいわよ。私はもう少し片付けてから帰るけれど」
「え?そんなの申し訳ないですよ。それに新入りの私が先輩を置いて帰るなんて…」
「そんな厳しい運動部みたいなのは生徒会にはないわよ。申し訳ないと思うのなら、明日も元気に生徒会に来て仕事の山を片付けるのを手伝って頂戴…。正直それが一番助かるし…人間休める時にしっかり休んでおかないとね?」
凛堂先輩が苦笑いをする。苦労人の雰囲気がびしびしと伝わってきた。
「了解です。じゃあ先に帰らせてもらいますね。凛堂先輩もあまり無茶はせず、休める時に休んでください」
「えぇ。ありがとう」
「それでは」
私はリュックを背負うと、帰路につくのだった。
やっと歩友の生徒会での仕事が始まりました。
歩友自身生徒会のヤバ過ぎる現状は察していたようですが…想像を超えてくるのがこの学校の生徒会です。
そして今回は生徒会副会長の凛堂先輩にスポットライトが当たりました。この人は結構な苦労人です。
クセの強い生徒会メンバーを何とかまとめている人…その仕事っぷりは他の追随を許しません。
生徒会では仕事量の多さに辞めていった役員も多くいますが、それと同じくらい生徒会メンバーの仕事っぷりに着いていけず辞めた人もいます。
みんな簡単そうに仕事をサクサクこなすので、できない自分と優秀な先輩とで比べて辛くなってしまうんですよね。
はたして凛堂先輩の苦労がなくなる時は来るのでしょうか…。




