16.鏡 真央
「歩友ちゃん、玲君、一緒に帰ろ〜!」
終礼が終わり、いつものようにニコニコした笑顔で日陰が呼びに来た。
「今日からは途中までしか一緒に帰れないんだけどね」
「え、何で…ってあぁ〜!今日から生徒会の仕事あるんだっけ?」
私はリュックを背負いながら答えた。
「そうそう。生徒会とかこれまでの人生でやったことないけど、やると決めたからには頑張るよ」
「そっか〜。頑張ってね、歩友ちゃん!歩友ちゃんと一緒に帰れなくなっちゃうのは悲しいけど…」
「そうだね。まぁ、日陰も生徒会に入ったら一緒に帰れるようになると思うけど…別に私はシノみたいに勧誘するつもりはないからなぁ。まぁ、神羅がいるしっていうのもあるけど」
「どういう意味だ、揣摩?」
神羅にジト目を向けられる。
「私が一緒に帰れなくても、神羅が居るよねって話だよ」
別にここで無駄な論争を引き起こす意味もないので、フォローしておく。
「当然だろ」
…何故かドヤ顔をされた。
〜十数分後〜
私は、悲しいことに生徒会室の前で行ったり来たりする不審者と化していた。
別に5分以上前から生徒会室にはついていたのだが…純粋に自分からドアを開けて入るということができなかった。
何故かって?
…陰キャだから。
いつかはこのドアを開けて入らなくてはいけない。そうしなければ初日から無断欠勤したことになってしまうからだ。
しかし、シノ以外は話したこともない生徒会メンバーに囲まれると思うと、なかなか自称陰キャの歩友さんとしては入るのに必要な勇気が湧いてこなかった。
今すぐにでも回れ右して帰りたい…いや帰るな!ここで帰ってしまえば多分一生このままになる!!
(くッ…!こうなるならシノと一緒に来れば良かった…)
しかし、後悔してもどうにもならない。
日陰や神羅と話している間にシノが生徒会室に向かったことは分かっていたため、一縷の望みにかけてシノ探しに教室に戻るということもできなかった。
(もう当たって砕けるしかない…!
…いや砕けちゃダメだけど!!)
そして扉に手をかけ勢いよくガラッと開ける。
するとそこには…鏡さんの膝に座って、淡い緑の髪を結んでもらっているシノがいた。
(入ってくるタイミング間違えた…よし、帰るか?)
今度こそ回れ右して私は生徒会室から出ようとした。
「何帰ろうとしてるの?今日から仕事だって言ったよね??」
背中にシノからの痛い指摘が刺さった。
「し、失礼しました?」
「コントはいいってば」
「いやだって気まずくない…?」
「しの、結ぶの終わったよ〜」
「あぁ。ありがとうございます、真央様」
(そこ普通に会話するのか…)
なんか変な空気になったと思ったけど、気にしているのは私だけだったようだ。
(いや、何で??コミュ強のシノはまだしも鏡さんはもう少し気まずそうにしてもよくない????)
…そうされても困るだけだけど。
「ごちゃごちゃ考えずに開き直って話し続けたほうが建設的じゃない?」
「了解…。ていうか、"そっち"なんだね?シノ」
シノはいつものニコニコ顔ではなく、めちゃくちゃ真顔だった。雰囲気はこの前の校舎裏の時が一番近い。
「え?別にこっちとかそっちとかないけど……人と状況と気分に応じて使い分けるだけだし」
「あぁ、そういう感じね?おっけい」
「でもまぁ生徒会室では歩友ぽんの言う"そっち"の時が多いかな」
「へぇ〜…」
まじまじと顔を見ていると、髪の毛の方に目が行った。
先ほどよりも少し高い位置で結ばれている細いポニーテール。
するとシノは私の視線に気づいたらしく、あぁこれね?と、話を続けた。
「六限目がサッカーだったからさ」
「そうだけど、そうじゃない!!」
気を取り直して聞き直す。
「何で鏡さんに結んでもらってたの?」
シノがいくら鏡さんとはいえ人に髪を結んでもらうと言うのも意外だけど…いやむしろ鏡さんならシノが結ぶ側なのでは?
「何でって…結んでもらっちゃダメなの?」
「駄目な訳ではないけど」
「じゃあいいでしょ」
「いい…の、か…?」
「気にしたら負けだよあゆぽん」
「そっかあ…(あきらめ)」
そうなると、自ずと話は鏡さんの方へと向く。
艶やかな真紅の髪に桃色の瞳。
静かなのに、どこか人の目を引く感じだ。
そしてシノが一生の忠誠を誓っている人でもある。
体育祭の応援合戦では堂々とした立ち居振る舞いで三組に貢献し、リレーでも大きな活躍を見せた。
そこまでの傑物でありながら、今まで全く関係がなかった人でもある。
正直どういう人なのか全く読めない。
シノは輝きがどうたらとか言っていたが…そもそも結構気まぐれなところのあるシノをあそこまで従えているというのがもう既にすごい。
ここまで言ったが、結局なんかすごい人という結論に落ち着いてしまうので余計わからなくなってしまう。
誰も喋らないので、少しの間生徒会室に沈黙が落ちた。
しばらくすると、沈黙に耐えきれなくなったのか、鏡さんが意を決したように揺れる桃色の瞳を私に向けて口を開いた。
「あのッ!リレー凄かったですッ!!」
「……(ファンかな?)」
いやそんなことを考えている場合ではなかった。
鏡さんの勢いに負けて変な思考になってしまったが、きっと多分うちのクラスが勝ったからそれとなく話題にしただけで、沈黙に耐えかねて何となく口走ったとかいう理由ではないだろう。
そしてシノの言っていた通り、シノの所業は本当に知らないらしい。
「えっと…ありがとう?だけど本当にすごかったのはバトンを繋げてくれた日陰や神羅だと思うよ。もちろんシノも、ね…」
「そ、そうだよね!他のみんなも頑張ったからの勝利だよね!へ、変だったかな?この話題…」
何か鏡さんすっごいおどおどしてない…?気のせいかな??
「そんなことはありませんよ、真央様」
シノがすかさずフォローに入った。
「そうだね。まぁ最近の話だし、変な話ってことはないと思うよ…?」
何だか話し始めた鏡さんが不安そうにしているとこっちまで不安になってしまう。
「そ、そうかな?良かったぁ〜」
「それなら自己紹介はどうですか?先輩方が来られてからまとめてしようかと思いましたが、殊の外手こずっているようですし」
「そ、そうだね!ありがと、しの」
「大したことではないので」
「えぇっと〜…自己紹介、だよね!私は鏡 真央。生徒会では次期生徒会長候補として会長の仕事を手伝うことが多いかな…えっと、よろしくね!」
「僕のことは知ってると思うけど、一応自己紹介するね。嘉神 忍。生徒会では人事や交渉…あと真央様の仕事の手伝いが基本やってることかな」
二人の桃色と紅色の視線が私に向く。薄々わかってはいたが、次は私の番ということのようだ。
「私は揣摩 歩友。シノにスカウト?されて生徒会に入ることになりました。よろしくお願いします」
「シノに誘われるなんて凄いよ、よろしくね〜」
片手を差し出される。握手…ということかな。
私も手を差し出すと握られた。そのままブンブンと振る。そして手を離した。
「あ、そうだ。髪のことなんだけどね。これはしのが毎朝結んでくれるんだよ」
「その話今するんだ…」
鏡さんはほんわかとした超マイペースな人だった。
歩友の「そうだけど、そうじゃない!!」というツッコミがめちゃくちゃ好きです。
その調子で主人公らしくツッコミ続けてくれ。生徒会は結構クセ強い人ばかりだからね。
真央はシノを従えていますが、意外と?本人は天然マイペースほのぼのが素だったりします。




