14.はんせー会
今回はシノ視点です
校舎裏。見ようとしない限りほぼ視界に入ることがなく、全く手入れがされないせいで雑草がぼうぼうと生え放題の場所。
しかし校舎やグラウンドが一望できる上に、ほとんど人目につくことがない為絶好の隠れ展望スポットだ。
僕みたいなあまり身長の高くない人間なら、例え誰かが来たとしてもむしろ雑草に隠れられる為、全てがプラスに働く場所と言える。
まぁ、虫だけはどうにもならないが。
(一体何がいけなかったんだろう?)
一人になると、どうしても体育祭の男女混合リレーでの敗北のことで頭がいっぱいになってしまう。
天道 日陰を転ばせるところまではうまく行った。何ならその後神羅 玲が心配して話しかけたり、殊の外怪我の度合いも酷かったようで、足止めとしては最高の成果だった。
…そのはず、だったのだが。
転校生の揣摩 歩友が信じられないくらい足が早かった上に、まさかのバトンを投げると言う暴挙に出たせいで、結局学年最速の神羅に最後の最後でごぼう抜きされてしまったのだ。
(いや。そもそもひーちゃんからバトンを受け取ったところもおかしかった)
日陰は最後の最後で力尽きて、バトンを直接手渡しすることができなかった。
それは足の怪我や極度のストレスからの解放で気が抜けたなど色々要因はあるだろうが…どちらにせよ日陰は立ち上がって走ってきていたのだ。
バトンを落とすなどあの時点で誰も予想できたわけがない。遠目で二人の表情こそはっきりと見えなかったものの、バトンの落下は二人にとっても想定外だったはずなのだ。
しかし、歩友はバトンを落とさずキャッチしただけでなく、その後日陰が反射的に顔を上げていたところから察するに何か言葉を発する余裕まであったと見える。
にわかには信じられない話だが。
(一体どこまでがあゆぽんにとって想定内だったんだろう?)
己の勘が、あれらは決して偶然ではないと警鐘を鳴らしていた。
(まぁ、考えても分からないことばっかりだけど…そもそもあゆぽん練習の時と走る速さ違いすぎだし…)
あんなに早く走れるなら練習なんてただ散歩しているようなものだっただろう。
グラウンド半周なので一瞬だったが、女子の中では恐らく最速レベルだ。足の遅い男子なら余裕で勝てる。
(流石にそのあと走ったレイレイの方が早かったけど…そもそも学年最速と比べれる時点でおかしいよね??)
色々話がごちゃついてきたので、髪の毛の先を人差し指でくるくると巻きながら、僕は一旦考えをまとめることにする。
(まずは僕の仕組んだ足止め。出来は間違いなく最高で、2組は絶望的な差をつけられてた。あのままなら学年最速のレイレイでも巻き返しは不可能だったはず)
ていうか元より神羅の足の速さは計算に入れた上で足止めの策を練ったのだ。本人に普通に巻き返されてたまるか。
ということはやはり、想定外は…
(あゆぽんってこと、だよね)
練習で手を抜いていて、本当の足の速さが分からなかったこと。
日陰の落としたバトンを咄嗟に反応してキャッチしたこと。
神羅に対してバトンを投げたこと。
どれか一つでも抜けていれば、おそらく3組は。真央様は…勝てていた。
鏡 真央。彼女とて足は早い方である。
しかし、どうにも全力が出せていなかった気がする。
まぁ目の前でクラスメイトと日陰がぶつかりかけるというアクシデント、そこからの日陰の動き。
それだけでもあの正義感が強く、誰よりも優しい人はかなり気にしていた。
しかし、正義感に溢れているからこそ。正攻法で真正面から全力で戦うのだ。真央があの場で気を取られるのは仕方ないかもしれないが、彼女が手を抜いたところでそれは誰のためにもならない。そこは真央自身が最もよく理解しているはずだ。
だから、日陰の件はむしろ全力以上の力を出させるための良い刺激になると思っていた。
実際いい刺激になったはずだ。
…そこまでは。
真央は、その後の歩友の度肝を抜くような行動全てに面白いように振り回されていた。
流石に1番の問題の歩友がバトンを投げたシーンは走っていた途中なので直接は見えていないだろうが、会場の異様なまでの盛り上がり、そして冗談みたいに足の速い神羅の猛スピードの追い上げ。
それは真央がテンパるには十分であっただろう。
(今回はあゆぽんが想定外の連発を引き起こしたから負けた…それが要因としては確かに一番大きい。でも、僕たち自身の想定外への対処も問題だった。…まぁ、こんなところかな?"本番"までにはまだ時間もあることだしね)
それに今回のリレーの結果について、真央自身が不満どころかむしろ満足していたというのもある。
本人曰く、
「全力の転校生ちゃんや神羅君とぶつかれて楽しかった〜!日陰ちゃんもまさかあそこから立ち上がって走るなんてなかなかできることじゃないよ!しのも頑張ってたし!大満足!!むしろお疲れ様って感じだよね〜!」
と、珍しく終始ハイテンションだった。
(ま、反省会はこの辺にしといてグラウンドの片付けでも手伝うかな)
そして急に立ち上がると、うわ、という声と共にガサガサとした茂みの音が聞こえた。
もちろん僕ではない。立ち上がるだけでそんなヘマはしないし、なんならこの声の主について今まで考えを巡らせていたところだ。
ボクはいつも通りのニコニコとした笑顔を顔に貼り付けると、満を辞して後ろを振り向いた。
「どったの、あゆぽん?」
すると、歩友は気まずそうに斜め下あたりを見ながら答える。そこには土と草しかないよ?
「こっちに歩いて行くシノが見えたから興味本位でつけて来たんだけど…」
「ボクが一向に気づく素振りがないから声のかけどきを失っちゃったってわけか〜」
「そういうこと。後思いの外なんか黄昏てたから、余計声かけづらくて」
「あはは、それはごめんねぇ〜次からは気にせず声かけてくれていいからねぇ?」
「そうさせてもらうよ…お互い気まずいし」
あゆぽんは肩をすくめてみせた。
「ていうか結局何か用がある感じ〜?それともただつけて来ただけ?」
「何そのただ名前呼んだだけみたいな言い方」
「いや〜?純粋なる疑問ってやつだねぇ」
「じゃあこれ以上会話を引き伸ばしてもあれだし単刀直入に言わせてもらおうかな」
その瞬間、一瞬だけあゆぽんの目が赫く光った気がした。パチクリと瞬きをするとそれは消えており、目の錯覚かと思い直す。
「何かなぁ?」
「日陰のこと、わざと転ばせたでしょ?」
「あれはただの事故でしょ〜?」
一応すっとぼけてみる。
「理由は幾つかあるけど…最大の理由はシノが驚かなかったことだよ」
「驚かなかったことぉ…?」
「神羅でさえ人を避けて転んだ日陰に驚いて心配して声をかけてた。学年1クールって言われる神羅が、だよ?」
「レイレイはひーちゃんのこととなると学年1不器用になるからねぇ」
「確かに…ってそうじゃなくて!!あの状況でシノだけは驚かずに別のところを…具体的には3組を見てた。流石にそれは目の前で人が転んだにしては不自然すぎる反応だと思うけど?」
「あゆぽんはボクがひーちゃんがコケることを知っていたから、驚かなかったんじゃないかって言いたいの?」
「そうだね。それだけじゃなく、他にも何かあるんじゃないかと思ってるけど」
「それは違うよ〜。ボクは3組に気を取られて、反応が遅れただけ。それに横で人が激しく泣いてると自分の涙が引っ込む、みたいなやつあるでしょ?あれと一緒だよ。ひーちゃんのことは勿論心配してたし、レイレイが結構オーバーリアクションだったからさぁ。あの二人の中に割って入るのも悪いしね?」
ハァ、とあゆぽんはこれみよがしにため息をついた。
「それだけじゃない。直前の急な代走。あれも変だよ。だって2組は一人しか立候補しなかったから、体育祭委員である神羅と日陰の二人がリレーの枠を埋めた。でもケガで枠が空いたのならそうスムーズに代走なんて決まらないと思うんだよね。シノだって出たいとは思わなかったからリレーに立候補しなかったんでしょ?正直枠の譲り合いで揉めると思ってたし、動くのが早すぎる。少なくともクラスの他の人に話をして確認を取るくらいはしないといけないはずだよ」
「確かにそこの動きはあゆぽん視点スムーズに見えたかもだけど、生徒会の部活動の視察で怪我されちゃったからさぁ。視察は生徒会側の都合だったし、埋め合わせも生徒会がしたってだけだよ」
あゆぽんはのらりくらりとかわされている現状に苛立ちを見せていた。
「それにあなたの発言の数々からは、2組よりも3組…それも鏡さんを優先するような言動が多い。一つ一つはそれほど気にはならないけど、ここまで重なってくると偶然では片付けられないところまで来てると思うよ。シノ…貴方はわざと二組を妨害して三組を勝たせようとしたんだよね?それなら手段には納得できないけど、動機は理解できる。生徒会入りを拒んでいる日陰と神羅に制裁を与えられて、尚且つ鏡さんが喜んでくれる。まさしく一石二鳥だよね」
「それはどうかな?」
「え?」
「だってそれならもっと手っ取り早い方法があるっしょ。ボクがリレーのアンカーになって手を抜いて遅く走ればいい。人を転ばすのよりも遥かに簡単で、失敗の可能性はゼロだよ」
「それは、シノ自身が言っていたと思うけど?貴方が忠誠を誓っている真央様は"正義感の強い人だから"わざと手を抜くなんていう行為は禁止されていたんじゃないの?そんなことをすればほぼ確実にバレるだろうし。だから走順の一番目に立候補して他の人に日陰を転ばせるなんていう回りくどい方法をとったんじゃないの」
(なるほどね〜"そこまでしか"気づいてないのか)
「そこまで言われちゃうなら仕方がないねぇ。そうだよ。確かにボクはひーちゃんを転ばせた…正確には転ばさせる策を考えた、かな?」
「それは、自白と受け取っていいの?」
僕は雰囲気をガラリと変えて話し始める。
「好きに受け取ってくれて構わないよ。でも一つだけ間違ってる。僕は別に誰とリレーをやっても妨害はしてた。要は何が言いたいのかっていうと、これは別に生徒会に入らなかった二人への制裁ではないってこと。それに、そもそもあの二人は根っこがいい子すぎるんだよね。多分今回のこともただの事故だと思ってるんじゃないかな」
なぁんて言ってみるがもちろんこれらが僕がやったこと全てというわけではない。全部丁寧に白状する理由も必要もないし、こういうタイプはとりあえずそれっぽい感じで適当にそれらしいことを言っておけば勝手に自分の中で理由をつけて納得する。
「何で急に、白状したの?」
訝しげな視線を向けられる。
「僕は真央様に一生の忠誠を捧げている。あの人には僕にはない輝きがあるから。それをずっと失わないでいて欲しいから。だから僕は真央様がたとえ望まなくても、真央様の輝きを守る為なら何だってする。今回みたいに褒められたものではない策だって立てるし、人だって傷つける。嘘だってつく。僕にとってはそれだけの価値があるものなんだ。だから、真央様への忠誠を汚したくない。そこに嘘はつきたくない。だから言った。それだけだよ」
これは本当の事だ。全てに嘘を混ぜていれば真実も嘘のように見えてしまう。ほどほどの塩梅が大事なのだ。
「なるほどね」
「僕を二人の前に突き出す?それとも真央様の前で全部暴露する?好きにしたらいいよ」
証拠がないからたとえやろうとしても無駄だろうけどね。
口にこそしなかったが、ここまで気づいているのなら別に僕が言わなくても理解しているだろう。
「別にそんなことしないよ。日陰は事実を知ったら傷つくだろうし、鏡さんだってただの転校生と、ずっと自分を支えて来てくれていた人ならよっぽどのことがない限り後者…シノのことを選ぶだろうしね」
それに証拠もないし、と歩友は呟いた。
「もし本当の事を知らされず、後から外的要因で今回の事実を知ったらひーちゃんが悲しむとは思わないの?」
するとジト目を向けられた。
「その悲しませることをやったのはシノじゃん…」
「そうだけどね」
別に僕は真央様一筋ってだけだ。
「それに知らない方が幸せなことだって世の中にはある」
「そっかぁ」
そこにはいろんな感情が渦巻いている気がしたけど、僕は特に詮索することはしなかった。
これまでのまとめ的な回になるかと思いきや、後半は歩友とシノのバチバチ展開でした。
シノ視点は割と待ってた方も多いのではないでしょうか。
シノさんは口喧嘩…と言うか論争?が作中トップレベルで強いです。作者的には最も敵に回したくないキャラですね。
シンプルに考え方に結構極端なところがあります。真っ直ぐ生えているのに、生えてる方向が斜め上な人です。
リア狂だなぁ…




